観光
次の日、俺達はボルクの言うアンナが戻ってくるまでそれぞれ自由に行動することになったので俺は海香とフラスと一緒に行動することにした。ボルクとナナ曰く、ここにいる幻獣達は皆争いが嫌いだからいきなり襲われることはないらしい。でも人間だけでいると少し驚かれたりするからフラスから離れるなって言われた。俺達はクウル町―――今いる町のメインストリートを三人で歩く事にした。昨日よりも店をよく見ると訳の分からないアクセサリーらしきものから、一目で食べ物だとわかるものなど売ってる物はさまざまだ。
「あんたもしかしてニンゲンかい?」
店先で何かよくわからない物を売っていた幻獣が話しかけてきた。
「えぇ、まあ。なんで分かったんです?」
俺は店に近づいて言った。
「昔見たことがあったんだよ。あたしはフェアリーって種族だよ」
確かにナナくらいの大きさの顔に小じわが少々ある黒髪の優しそうな顔をしたオバサンに見える。ていうかあんなに小さくてちゃんと商売ができるのだろうか。
店先に置いてある、りんごくらいの大きさの丸い青色の物を持って店主に聞いてみた。
「これは何です?」
「食べてみな」
食べ物なのかこれは。俺はそれを口の前に持っていって口を開けた。が、その前に聞いとくべきことが。
「あの…お金は…?」
「ニンゲンだからサービスしといてあげるよ。今回だけね」
店主はにっこりと笑ってそう言った。
「ありがとうございます」
俺はほほ笑んでそう言ってからその青い物をかじった。
それは予想道理噛むとシャリシャリという気持ちのいい音が聞こえてきたが味は全く予想外のものだった。
「なんだこれ!?」
それは甘さと辛さと酸っぱさが噛むたびに順番に出てくるようで口の中が不思議な空間になっているようだ。
オバサンの説明によると、これは雲空島でしか取れない果実で『カラナ』というらしい。この何とも不思議な味に病みつきになる幻獣が多いとか多くないとか。
「ちょっと竜樹、何してんの」
海香がトコトコとこっちに歩いてきた。
「あら、あんたもニンゲンかい!?」
店主に他にも二人いるよって言ったら目を丸くして今までずっと小刻みに震えていた羽が動かなくなり、硬直してヒューと下に落ちて行ってしまった。俺は少し身を乗り出して店主を左手でキャッチした。もしかしてフェアリーってみんなこうなんじゃないのか…? 俺の左手の上で硬直している店主を海香がツンツンとつつくとヒョコッと起き上がって、店主はへへへと笑ってお詫びとしてさっきのカラナを二つサービスしれくれた。他にも気になるものを勧められたが、食べ物かどうかも怪しい物ばかりだったので一番食べ物っぽいカラナをいただいた。
俺と海香は少し先で膨れているフラスのもとに戻った。
「離れないでって言ったのに……」
フラスは俺の右腕に抱き着いてきて上目づかいのように、その目に少量の涙を浮かべながら俺の方を見つめてきた。
あざとい、だがそれがいい。と言うかこの状況は男子的にはクラッときてしまうものがある。
「なにでれてんの!!」
海香の少し怒りを感じるような声と共にすごい速さの正拳突きが俺のみぞおちにとんできた。俺は苦しさのあまりその場にうずくまってしまった。
「フラスちゃんも、いちいちそういう事しないの!」
海香が頬をぷっくりと膨らませて言っていて、フラスはてへへと笑いながら謝っていた。因みに俺はその後少しの間呼吸もうまくできずにその場から動けなかった。
フラスが海香に強く殴りすぎだと注意してるのが聞こえてきたが、勿論俺は二人が話している下でうずくまっていた。
「ご…ごめんね、強く殴りすぎちゃった。でも竜樹もデレたりしないでね」
海香がしゃがんで少し顔を赤くして言った。
俺はその声に顔をあげて海香の方を見たら視界の端にチラッと白い布が見えた。
それはミニスカートをはいている海香がしゃがんだために見えた魅惑の三角形―――パンツだった。
「ありがとう、あと白は好きだ」
俺はお礼を言ってからキュピーンという効果音が出てきそうなセリフをいい顔で言った。海香は少しの間首を傾げていたが理由が分かったのか、恥ずかしそうな顔をしながらさっきよりも顔を赤くしてさっきよりも強い正拳突きが俺の顔面にとんできた。一発ではなく五、六発程。
「ふなっ!」
俺は情けない声を出してそこで意識が途切れた。
目が覚めると真っ先に視界に入ってきたのは海香の心配そうな顔だった。俺はあおむけになっているようで、起きて真っ先に視界に入ってきたのが海香の顔で後頭部にふにふにの感覚を感じてるってことは……もしかしてあの夢にまで見た膝枕ではないのか!?
「あ、起きた」
海香が俺の顔を覗き込んでそう言った。
「何度もごめんね、で…でも竜樹も悪いんだからね」
顔を若干逸らしながら言う海香に俺はくらっと来てしまった。
「まだ意識がはっきりしないからこのままでいい?」
「うん……」
ウソである。意識は勿論はっきりしている。本当は膝枕をもう少し堪能したかっただけの下心たっぷりの理由である。
海香の後ろでそんな俺の考えに気づいたであろうフラスが笑いをこらえていた。
海香は自分が殴ってしまったこともあってか素直にオーケーしてくれた。あまり長い間してもらったままだと怪しまれるので五分ほど堪能したところで俺は立ち上がった。
立ち上がったことで分かったが俺がずっと膝枕されていたのはさっきのメインストリートの端っこの方だった。歩いている幻獣達は一体も俺達の方を気にしないで通り過ぎていく。
俺の後に海香も立ち上がって、フラスと三人でまた歩きだした。
少し歩くと今度は俺達はアクセサリーのようなものが売っている屋台に近づいていった。そこにいた店主らしき幻獣はさっきのフェアリーとは違って、体の大きさが三メートルくらいで頭に小さな角らしきものが二本程生えたいかつい顔をした大男のような者が立っていた。
「いらっしゃい、お客さんこの島は初めてかい」
店主は手を揉み合わせながら言った。
「えぇ、まあ」
「これは…ペンダント?」
海香が店先に飾ってあった黄色い色の丸い物が複数ついた丸いわっかの物を手にとって言った。
「それは体の大きな幻獣用のブレスレットで、あなた方のような体の小さな幻獣用の物ではありませんよ。例えば私達オーガとか。この島でしか作ってません」
そう言ってオーガはさっきのと同じデザインのもう少し小さな物を手に取った。
「あなた方くらいのサイズだとこちらのがいいですかね。色が違うのもこちらにありますよ」
聞くとこのペンダントは五百オル―――オルとは幻獣達の通貨の単位―――らしい。
俺達は勿論幻獣達の金なんて持ってないので必然的にフラスに奢ってもらうことになる。でもフラスの持ち金もそこまで多くないようで、俺も欲しかったけど遠慮しておいた。結局海香は複数の色が置いてあった中から水色の物をフラスに買ってもらって結構ご機嫌そうだ。
俺達はこの後もメインストリートを三人で歩いた。途中三人で雲空島名物らしい料理らしからぬ紫色のスープらしいコポコポと泡がたっている舌が痛くなる程辛いものを飲んだり、フェアリーが何故か背中に激突してきたりと色々なことがあった。
俺達は宿に戻ってボルクから今日はそのアンナとかいう幻獣がまだ戻ってきてない事や、俺達とは別で姉ちゃんとボルクとカイエンとソラスの四人で観光していたこと、蒼井さんとリフはまだ戻ってきてないがリフの実家にいると連絡が入っていたことを聞いた。俺達が宿に戻った時は既に辺りは暗くなっていて、ナナも一緒にみんなで晩ご飯を食べた。俺と海香はナナと一緒にご飯を作ったが、ナナは何を作るのか全く教えてくれず俺達はただナナの指示道理に動いただけだ。途中あのカラナという果実をナナが自分の数倍の大きさのお盆の上に何個も乗っけて持ってきたときは少し驚いた。
三人で作ったのはサラダらしき物と黒い煙が出ている肉の塊と、あの紫色のスープだった。流石に作ってる時に俺と海香は、ん? ってなったがきっと違うものが出来ると思ってナナの手伝いをしたが、でも期待は裏切られてできたのはあのスープだった。俺と海香はいらないと言ったが遠慮しないでと笑顔で言われ断れずに飲むことになってしまった。
出来たものをみんなのとこに持って行っておいしく、とはいかなかったが何とか完食した。黒い煙がでている肉の塊は思った以上に甘くておいしかった。サラダに入っていたレタスのようなものとポテトサラダのようなものはシャキシャキしていておいしくいただくことができた。品数は少ないものもどれもボリュームたっぷりで、勿論スープも、お腹にはたまった。
幻獣達には風呂に入るという習慣がなく適当な時に水浴びをする程度らしいので勿論この宿には風呂やシャワーなんてものはなかった。
フラスとソラスも勿論風呂なんてものは知らなかったのだが、海香と会って風呂に入ってみたらあまりの気持ちよさにはまってしまったらしいので、幻獣なのに風呂がないことに文句を言っていた。
俺達人間は風呂がないので仕方なく濡れタオルで体を拭いただけだった。ちなみにフラスとソラスも。女子達が体を拭いているのを蒼井さんに死にたいのか、と止められたが覗こうとした。けど昼間の海香の素晴らしい正拳突きを思い出して女子達の部屋の前まで来てから思いとどまって自分の部屋に戻ろうと後ろを振り向こうとしたら、
「へたれ」
「なぁぁぁぁぁ!!」
姉ちゃんが俺の後ろで立って抑揚のない声で言った。
「覗いていいか聞いてやろうか?」
姉ちゃんがニヤニヤしながら言った。
「な…ななな何言ってんだよ」
自分でも声が震えてるのが分かった。
「開けるから三秒でここから逃げなよ」
俺は逃げようとしたが転んでしまい、
「ちょっとま―――」
俺の抑止は姉ちゃんはに届かず、ガチャとドアノブを回す音が聞こえてドアが開いた。
「あぁ、かづタオル…持っ…て……」
そこにいたのは上の下着を着けていないパンツ一枚だけの海香と何も着ていないソラス、パンツを脱いで自分の臀部あたりをタオルで拭いているフラスがいた。
「うみちゃんどうし……」
フラスもソラスも俺のことに気づいたのか言葉を失っている。やばい、この状況詰んでいる。でもテンパってしまい働かない頭で何とか言い訳を言い訳を考えた末に出てきた言葉は、
「み、みんなの専用の服をつ…作ろうと思ってな、す…スリーサイズを測りにきたんだ」
何言ってんだ俺は!!!
「黒井君てそんなに器用だったんだ。いつか作ってもらいたいねぇ」
本当になに言ってんだ俺はぁぁぁぁぁ!!!
海香は鬼の形相で指をぽきぽきと慣らしながら俺の方にゆっくりと歩いてくる。フラスはどこからか取り出したかメリケンサックをはめて海香にももう一つ渡していた。
「落ち着いて下さい……見えてますよ…」
自分の声はさっきよりも震えていた。
「本当にすいみゃ―――!」
俺が謝罪の言葉を言い切る前に海香の拳が音速くらいと勘違いするくらいの速さでとんできた。フラスの拳も続けて何発もとんでくる。二人のラッシュが俺の顔やら足やらにとんできて何時間か、いや多分十分もたってないくらいでラッシュは終わり、部屋の外に放り投げられた。
「す…い…ま…」
俺はそこで意識が途切れた。一日で二回も気を失うことになるとはな、と思いながら。




