雲空島
翌日、俺と蒼井さんは朝から竜巻の前に立っていた。何故か昨日よりも風は強くなっていた。
「さて、来たけどどうする?」
蒼井さんが風斧を担ぐように持ちながら言った。
「昨日あれだけやって全然歯がたたなかったけど、何か策でも?」
俺はその言葉を聞いてニィと笑って言った。
「勿論、全力攻撃あるのみ!」
「策はなしか、でもそう言うの……嫌いじゃないぜ」
ここにきて俺達二人ともテンションが普段の五割増しくらいになっている気がする。蒼井さんに至っては言葉遣いまで変わっている。
「二人ともよく懲りないね」
「ほっときな、男ってバカな生き物よ」
家の窓から姉ちゃんと海香が歯ブラシをくわえながら顔を出して言った。
「ねえボルテックス、そろそろ教えてよ。雲空島に行く理由を」
姉ちゃんは歯ブラシをシャカシャカしながら言った。
「そうだな、ここまで来たし秘密にする理由もないか」
ボルクは顔を出さずにそう言った。
「雲空島には俺の顔見知りがいてなそいつは索敵能力がそれなりに高くて、まぁもっと高い奴もいるんだけどな。とりあえずそいつは索敵能力を上げるアイテムを作って他人に渡すことができるからそれを貰いに行く。索敵能力が上がればかなり便利だからな」
そう言う理由か。でも気になる事がもう一つ。
「なんで今まで秘密にしてたん?」
海香も俺と同じ事を気になってたみたいで俺よりも先に聞いた。
「……気分…?」
なぜに疑問形。まあ別に教えてくれたんだしいいけども。
「とりあえず二人とも早く来て、竜巻攻略できないぜ?」
俺は二人を見て言った。二人は気のない返事をして洗面所に行っていった。
「とりあえず二人が来るまで僕たちは頑張ってみるか」
蒼井さんが風斧を振り回しながら言った。
俺達は竜巻に近づけるとこまで近づいて、全力攻撃をする。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
「ぬあぁぁぁぁぁぁ!!」
俺達が竜巻に向かって攻撃をし始めて約十分経った頃にみんなが家から出てきた。海香はまだ眠そうにあくびをしていた。
「どんな感じ? 大体は聞かなくてもわかるけど」
姉ちゃんはそう言って俺達の答えを聞かずに竜巻の方に行った。
「ちょっと回ってくるねー!」
姉ちゃんは少し遠くからそう言うと竜巻の周りを飛んで行ってしまった。
俺と蒼井さんと海香は竜巻に向かって飛んで行った。とりあえず何も策がないので竜巻に向かって全員で攻撃を仕掛ける。遅れてソラスが飛んできたので四人で攻撃を仕掛けた、が竜巻はびくともしない。その場にはゴオォという風の音が空しく響くだけ。
その後十分くらいして姉ちゃんが戻ってきた。
「反対側にトンネルみたいのがあったよ」
今までの俺達の頑張りは何だったのか。くそぅ、先にちゃんと周りをよく見とくんだった。あんなにテンションが上がってただけに恥ずかしさが半端ない。
「ハハハハハハ!」
ボルクの笑い声が聞こえてきた。
「お前知ってたな……? なんで黙ってたん?」
「まあな、すぐに気づくと思ったんだが案外お前らニブイな」
先にちゃんと探しておけばよかったと今更ながら思う。蒼井さんも同じ思いをしてるのが表情から分かる。特に蒼井さんは口調まで変わっていたので俺だったらこの場から逃げ出してる、と思うくらい恥ずかしいだろう。
俺達は姉ちゃんの案内で家をしまってから竜巻の反対側にとんで行った。
そう言えばここは実界でこんなに大きな竜巻があればニュースなりで自然と耳に入ってくるものだと思うけど、こんな物のことは今まで全く聞いたことがない。俺はボルク達幻獣に聞いたけどはぐらかされて、結局人間達が知らない理由は分からなかった。
そんな話をしていると姉ちゃんが言っていたトンネルに着いた。それはトンネルというよりも巨大な筒のようだ。高さも幅もボルクがそのまま入れそうな程広くなっていた。俺達はその中に入っていって中を歩いて行った。
五分程歩くと光が、ライトもなく若干暗かったトンネルの中に差し込んできた。俺達は自然と早足になった。そして真っ先に走り出したのは海香とソラスだった。
「わぁ………」
海香がそう声を漏らして俺達を早く来るようにせかしていた。ソラスは声を失っている。
みんなに続いて俺もトンネルから出ると、俺の視界に入ってきたのは緑色の数キロ先でも見渡せそうな広大な草原だった。見渡してみても緑一色で凹凸物も何も視界に入ってこない。木も岩も、そして生き物も。
「誰かいませんかー……」
蒼井さんが少し控えめにそう声を出した。でもそれ以外の声が聞こえることも、その声につられて生き物が出てくることもなかった。
「言っておくがここはそれなりに広いぞ実界のちょっとした国くらいの広さはある」
ボルクが俺の体から出てきてそう言った。それに続くようにカイエンとリフも出てきた。
因みに雲空島のことを知っているのは幻獣の中でも最上位のドラゴンだけで、リフがここのことを知っていたのはこの島の生まれだかららしい。
というかリフの声をかなり久々に聞いた。最初の自己紹介いらいだろう。無口にも程があるような気がする。
「とりあえず行こうか」
ボルクがうつ伏せになって背中に乗るように指示してきた。俺はその背中に乗った。他のみんなも各々のパートナーの背中に乗っていった、けど海香は流石に人間サイズのフラスや幼女サイズのソラスに乗るわけにはいかないので海香はボルクの上に、フラスはカイエンに、ソラスはリフの上に乗った。因みに海香とソラスは俺と姉ちゃんの後ろに乗ったがソラスは蒼井さんの前に乗った為、蒼井さんとソラスはどう見ても親子にしか見えなかった。
久々に乗って飛ぶパートナーの背中は鱗がゴツゴツしていて、そこで感じる風は心地よかった。
そこで俺は異変に気付く。
「なあ、ここってでっかい竜巻の中にあるのに全然そんな強い風を感じないし、竜巻も見えないよな?」
俺はボルクの背中を軽くたたいてから聞いた。
「ああ、それはな……」
ボルクはそう言って今まで地面の近くをゆっくり飛んでいたのに、島の端が見える高さにまで上昇した。
「見えるか? 島の周りに透明で見えずらいが薄い膜のようなものがあるだろう、あれが竜巻の風から島を守っている。それにかなりの強度だから、たとえ竜巻を突破できてもあれがあるから島には入れないってこと」
要するに俺達が竜巻を突破するために俺達が全力攻撃をしてたのは全くの無駄だったってことか。
「それにあのトンネルの中で少しでも殺気を感じたら膜があれを包んで敵を閉じ込める仕組みになっている。因みに口喧嘩レベルで作動するから注意しろよ」
ボルクのその言葉を聞いて一つ疑問が浮かんでくる。
「何でこの雲空島はそんなに入りずらくなってるの?」
俺はボルクに聞いた。
「この島には種族で数が少なかったり力の弱い幻獣が多く住んでいてな、つまり奴隷売買の対象になりやすいんだ。だからこの島のことは代々最上位幻獣であるドラゴンにだけ口頭で伝えられていた。でもなんでかな、この島のことをどこからか聞きつけて奴隷として攫われていく幻獣はゼロにはならないんだ」
ボルクが元の高度に戻りながら言った。
「その元をたたけばいいんじゃない?」
海香が俺の後ろでそう言った。海香のいう元とは奴隷を攫って来たり売ったりする奴たちのことだろう。
「今まで何人も俺達はそう言う奴らをつぶしてきたさ、でも一つ潰せばまた別のところから一つ出てきて―――の繰り返しなんだ。それに奴隷売買のことを知ってる幻獣なんて実際に奴隷になった奴か、売る側の関係者ぐらいだ。だからあまり大々的にやると俺達が権力を振り回してるだけの幻獣って思われてしまって、幻界から離れて行ってしまう幻獣達が増えて幻獣を守れなくなる。難しいところなんだ」
そう言うボルクの表情は少し悲しそうに見えた。
「もうそろそろ着くぞ」
ボルクのその言葉に顔をあげると今まで一面草原だった景色は変わって、一つの大きな大きな町が見えてきた。
俺達はその町の少し手前で降りて町の中に入って行った。その町の中に入るとあちこちから、ボルテックス様!だのカイエン様!と言った声が聞こえてきた。
町の中はそこらに色々な屋台が出ていて、いろいろな姿形をした幻獣達が元気よく暮らしていた。
「ボルテックス様!!」
ボルクのことを呼ぶかわいらしい声がしたのでその声のした方を見ると、十センチくらいの大きさで透明な羽が数枚生えた短くて茶色い髪を生した女の子がいた。
「おぉ! ナナか、久しぶりだな」
体の大きなボルクの顔の近くに体の小さな幻獣がいるとその小ささが際立つ。
「そちらの方は?」
ナナという幻獣はその羽を小刻みに震わせながらこちらに飛んできた。
「こいつは俺の親友の黒井竜樹、人間だ。」
「ニ、ニンゲン!?」
ボルクの紹介にナナは驚いたようで他にも人間が三人いると言ったら、その小さな目を丸くして固まってしまった。そしてボルクの顔の高さからヒューと下に落ちて行ってしまったがボルクが慣れたようにそれをキャッチした。
「こいつは驚くと固まってしまう癖があってな、しょっちゅうこんなことになる」
その言葉の後にボルクはナナをツンツンと軽くつつくとナナの硬直が解けて、ぴょこんと飛び起きた。
「すいません、申し遅れました。私はフェアリーという種族の幻獣で名前はナナと言います。うちの種族はみんなこのサイズなのでよろしく」
そう言ってナナは律儀に全員の掌の上に乗ってぺこりとお辞儀をした。
「そう言えばナナ、今アンナはいるか?」
「アンナですか? 確か今出かけてますよ。どこに行くかまでは聞いてないですけど、多分この島にはいないですよ」
「そうか、いつごろ戻ってくるか分かるか?」
「すいません分からないですね。でもアンナに用があるなら戻ってくるまで皆さんうちの宿を使ってもらって構わないですよ。勿論タダでいいですよ」
「それはありがたいな、てかお前宿なんか始めたのか」
「まだできたばっかですけど。さ、こっちです」
俺達はそれに続いて歩き出した。十分程歩くとナナが「ここです」と言った。そこはボルクやカイエンたちが楽々入れてしまいそうな程大きく、壁は真っ白だった。
俺達はその後ナナに部屋に案内された。勿論かなり広かった。
蒼井さんとリフは用があると言って出て行ってしまった。この島の出身だと言っていたから実家に戻るのだろう。蒼井さん達以外は外が暗くなって、店もほとんどしまってしまっていたのでいろいろ見て回るのは明日することにしてその日は休んだ。




