幻界と実界
目を開けたら真っ白い天井が目にはいってきた。ここはどこだろうか? なんとなく病院であることは予想は出来るが。
起き上がろうとするが体が動かないので仕方なく目を動かす。すると視界に入ってきたのは近くのイスに座っている二十代半ばの男の人だった。
「目が……覚めたかな?」
男の人に落ち着いた声で話しかけられた。
「何か聞きたいことはあるかい?」
「……あなたは……誰ですか?」
「僕は蒼井翼、二十六歳。君と同じ境遇の人間だ」
最後のセリフが少し気になったが今は聞かないでおく。
「姉ちゃんと母さんは……?」
と俺が聞くと蒼井さんは
「二人とも無事だよ。すぐそこに君のお姉さんとお母さんのベッドがあって、そこにいるよ。今は寝てるけどね」
「今はいつですか?」
「十月十四日。君は一週間眠っていたんだよ」
「なんで俺と知り合いでもないあなたがここにいるんですか? あのときなにが起きたんですか?」
「その二つの質問には彼から話してもらおう」
「彼?」
すると俺の右腕の鱗の部分から声がした。
「……初めましてになるな。オレは―――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何で俺の腕が喋るんだ!? お前はなんなんだよ!?」
「それをこれから話すんだろう……落ち着け」
自分の右腕に制されるのは勿論初めての経験で不思議な気分がした。俺は黙って聞くことにする。
「ちょっと待ってくれるかな?」
蒼井さんが割って入ってきた。
「その話は君のお姉さんにも聞いてもらおう」
そう言って蒼井さんは姉ちゃんを連れてきた。そこで俺は気づく、姉ちゃんのなくなってたはずの左腕の肘から下が……ある。俺は確かに見たんだ、あの時姉ちゃんの腕は確かに無かった。
「姉ちゃん……腕……」
「ん? あぁ……これ? これはね………」
「まあ待て。それも含めてこれからオレが全部話そう」
また自分の右腕に制された。今度は姉ちゃんも一緒に。
そして俺の右腕が話し始めた。
「この世界には二つの世界がある。一つは実界、お前たち人間が住んでいる世界。そしてもう一つが幻界、オレ達幻獣が住む世界だ。」
……幻界? 実界? 幻獣? 話しが突飛すぎる。こいつは何を言ってるんだ。
「……そ……そもそもお前は何なんだ?」
俺は自分の右腕に聞いてみた。
「あぁ済まない、自己紹介がまだだったな。オレは雷竜ボルテックス、ドラゴンだ。んでこいつが不死鳥カイエン。フェニックスだ」
「初めまして」
姉ちゃんの腕から声がした。
「……」
「……」
なんだよ、姉ちゃんの腕の中にはフェニックスなんて伝説上の生物がいたのかよ。俺の体にはドラゴンがいたし、訳わかんねぇ。
「続けるぞ。幻界はオレを含めた五頭の竜が監視、守護していた。そしてオレ達の上官にあたるのが竜王キング、オレ達の父上だ」
「てことはキミを含めた五頭は兄弟なのかな?」
蒼井さんが質問するとボルテックスチラッと蒼井さんの方を見てから答える。
「そうだ、正確には五つ子だがな。それぞれ違う力を持つ。炎の力を持つ炎竜、フレイムギア。水の力を持つ水竜、スイレイン。氷の力を持つ氷竜、アスガルト。風の力を持つ風竜、フウリ―。そして雷の力を持つオレ、雷竜ボルテックス」
俺は自分の右腕を黙って見つめる。
「竜王キングは幻界の王だ。その王がある出来事がきっかけで幻界と実界を滅ぼそうとしている」
「その出来事って?」
姉ちゃんが右腕を覗き込むように見て質問した。
「そのことは後で話す」
そう言ってボルテックスは話を続けた。
「オレ達兄弟とその部下達は竜王を止めようとしたが、オレ達では竜王は止められなかった。でも少しの間の足止めくらいならできた。オレ達は何とか竜王を地下牢に閉じ込めたけどあの地下牢はもってあと一年だろう。でもオレ達は重症だった為、自分と波長の合う人間の体で眠らせてもらうことにした」
「それで君達と波長が合ったのが俺達だったの?」
「そうだ。俺達の力の影響でお前達には鱗とか羽毛が皮膚に出てきてしまったがな」
……いきなりそんな設定を一気に話されても理解できない。何とか頭をフル回転させて理解しようとするけど六割近く理解できない。
「そしてオレが目覚めたのが一週間前。お前が暴走した時だ。カイエンはもう少し前に目覚めてたみたいだがな」
ボルテックスはチラッとカイエンのほうを見た。
「……私は約一か月ほど前に目覚めていました。」
俺にはまだわからないことがあった。
「何で俺は暴走したんだ?」
これがわからないこと一つ目。
「………お前が暴走した時、オレは少し前に目覚めていた。お前があの人間達に怒った時、オレの力が強い怒りとともに無理引き出されるような感じがした。恐らくその力がお前の理性を呑み込み、体にまで影響が出たのだろう」
なんとなくわかった。
「じゃあ姉ちゃんの腕は? 俺がみたときは左腕の肘から下がなかったぞ」
それがわからないこと二つ目。この質問にはボルテックスではなくカイエンがこたえた。
「私の力です。私は火を扱う力と、驚異的な回復力を持っています」
……こいつ自分で驚異的とかいっちゃうんだ。とりあえず姉ちゃんの腕のことはわかった。
「……そういえば滅ぼそうとした理由って?」
姉ちゃんが聞いた。
「オレには母上がいた。簡単にいうと、一部の幻獣と人間に殺されたんだ」
「じゃあ詳しくいうと?」
また姉ちゃんが聞いた。
「オレ達の母上の名前は竜妃クイン。クインは、と言うか大体どの生物も産卵の時は体力を激しく消耗する。その時に反竜王派の幻獣達にクインを誘拐された、卵も一緒に。クインには強い戦闘能力はないがそのかわりに高い治癒能力を持つ。母上は誘拐され、人間達に売られ、見世物にされ、殺されたのだ。卵も壊された。竜王は怒った。勿論オレ達も怒った。オレ達は誘拐した幻獣達を殺し、人間達を殺そうと実界に向かった。でもオレ達が会った人間は誘拐した人間ではなかった。確か女だったな。女はオレ達の怒りを知ると、他の人間達の攻撃からオレ達をかばい死んだ。人間の攻撃なんかオレ達にはきかないのに。オレ達はその女の行動に衝撃をうけた。だから人間を滅ぼすのではなく話し合おうと思った。でもキングは滅ぼすという考えをやめなかった。そして対立した」
……なるほど、そんなことがあったのか…。
そして俺はまた新しい疑問がでてきた。
「俺や姉ちゃんはこれからどうすればいい?」
「………できれば竜王キングを倒す為一緒に、実界を旅してオレ達兄弟と合流して、そのあと幻界に行ってキングと闘ってほしい。オレ達は波長の合う人間と一緒なら、オレ達が一体の時より強い力がだせる。一体では出来ない事が出来る。兄弟や仲間はどこにいるか大体の場所はわかる」
「ちょっと考えさせてくれ」
俺はボルテックスにそう言わざるを得なかった。
「旅をするんだったら僕も一緒にいくからね」
そういって蒼井さんは病室を出ていった。
「……」
「……」
「……どうする?」
先に口を開いたのは姉ちゃんの方だった。
「どうするも何もこいつらの話が本当かどうかもわからないし……」
「でも私たちの体は普通じゃないし、この……ボルテックス……だっけ? の話が本当なら辻褄があう」
ボルテックスとカイエンは一言もしゃべらない。
「じゃあこの世界は滅ぶってことじゃん。あと一年で」
姉ちゃんが淡々と続ける。
「―――それに……私達は……もう普通の生活は出来ない」
「……」
「……」
それはうすうす感じていた。
「もう普通の生活ができないなら、世界中を旅して姉弟で英雄になってみるってのも面白いかもね」
……楽観的過ぎる。でも何が起こるか分からない旅ではそのくらいが丁度良いのかもしれない。
俺は何とか動いた右の拳を思いっきりギュッと握ってから姉ちゃんの目をまっすぐに見つめる。
「俺は……行くよ」
「そか。じゃあ私と竜樹とあの蒼井さんと三人で、旅しようか」
「オレ達もいるぞ」
ボルテックスとカイエンを見る。蒼井さんもタイミングを見計らったように病室に入ってきた。
「決まったようだね。出発は三日後だ。その頃には君の体も動くようになってるはずだよ。じゃあまた三日後にね」
そう言って蒼井さんは部屋を出ていった。……よくわからない人だ。
そして三日後から俺達の旅が始まる。




