暴走
十月七日、月曜日、朝七時半。俺、黒井竜樹は今日も学校に行くために起きる。適当に準備をして、母さんが体調不良だったため姉である黒井火月が用意してくれたトーストを食べてから電車に乗って学校に向かった。
いつも授業は半分以上寝ている。学校などで寝るときは大体浅い眠りで、時々夢を見ることがある。その夢の中ではずっと竜のようなものが話しかけてくるけどなんて言ってるかはわからない。
「……きろ……起きろ」
聞き返そうとするがその竜のようなものは去って行ってしまう。いつもそこで目覚める。
「竜樹ー。起きろ」
……同じクラスの山木貴浩の声だ……。
「なんだよ……」
「お前のねーちゃんきてるぞ」
俺はドアの方に顔を向けると、そこには俺の弁当箱を持った姉ちゃんが居た。
「竜樹~。お弁当忘れてたから届けに来てやったぞー」
「ども」
俺は弁当を受け取り席に戻ろうとしたら
「今日私、部活休んで薬とか買ってくから少し帰るの遅くなるから。母さんに言っといて」
とテニス部の副部長である姉ちゃんに言われた。帰宅部である俺は適当に返事して席に戻った。
お昼を貴浩と食べ午後の授業も寝て過ごしたけど今回は夢は見なかった。
帰りのホームルームも終わり学校を出る。
そういえば姉ちゃんは帰るの少し遅くなるって言ってたな、母さんに伝えとかないと。
俺は約三十分電車に揺られ、家の最寄りの駅まで戻ってきた。駅から家までは徒歩で約五分ですぐに家に着く。
そこで少し違和感を感じる。家の中が騒がしい。テレビ……? いや違う。何だ? 俺はわからないままドアノブに手をかけた。
「……開いてる?」
いや違う、これは壊されてる。俺は急いで家に靴を脱いで上がり、リビングに入った所で自分の目を疑った。そこには胸や腹から血を流して倒れている母さんが視界に入ったからだ。状況が全く理解できないけど何とか頭をフル回転させて状況を整理しようとしてみる。母の前には見たことのない男が三人いて、そのうちの一人は包丁を握っていた。
「おいおいどーするよ~」
「オバサン刺しちゃったよ~」
「しかも見られちった~」
男達は俺に気づき軽快にこっちに向かってくる。
「こいつも刺しとく?」
「オッケ~」
俺の口からは無意識の内に言葉が出ていた。
「……お前らが母さんを刺したのか……?」
「ん……あぁ……このオバサンお前のカーチャンだったの? ごめ~ん」
俺は男のこの態度に自分の中の何かが切れる感じがした。
気がついたら俺は包丁を持った男に殴りかかっていた。でも俺の放った右の拳はパシッと音をたてて男の手で止められてしまう。
「おいおい……」
男はそう言った後、俺の腹あたりをズプリと包丁で刺した。
「がッ……」
……今まで大きな怪我などなかった俺が見たことない量の血が腹から溢れてきていた。刺されたところから力が抜けてくようだった。でも俺は力を振り絞ってなんとか左の拳を男に向けて放ったが、それは男にはじかれもう一度刺される。今度は右の太ももを。
「あ………」
立てない、痛い、痛い。でも怒りは収まらずに強くなっている。
「クソが……」
そう言ってもう一度右の拳を放ったけど男のふくらはぎあたりに軽くあたるだけ。力が出ない。
「なんだ……このッ……」
何故か男はしゃべっている途中で倒れた。男は痙攣したようにビクンビクンしている。
「お……おい……今何した……?」
「その手はなんだよ……」
俺は自分の右手に視線を移すとそれはあきらかに人の手ではなかった。手首までだった鱗は右手全体に広がっていて、爪も獣のように鋭く尖っていた。太ももと腹の痛みを感じない。立つことが苦しくない。
「ガァァァァァァ!!」
俺が叫んだわけではないのに聞こえてくるのは自分の叫び声だ。自分の意識がだんだんと遠くなっていく気がする。
俺は男の一人を右手で思いっきり殴る。今度は止められず男の腹にあたる。男はあり得ないくらいぶっ飛び、壁に激突し、バチバチと音がして男は白目をむいて気絶した。残った男達を俺はその爪で切り裂いた。赤い滴が目の前にとんでいるような気がするけどそんなのは関係なかった。
すると男達は気絶したようで動かなくなった。
周りの声が遠くなっていく。自分の体が自分のものじゃないみたいだ。いうことをきかない。
「……つき!」
女性の声が僅かに聞こえたがそんなの関係ない。体が自分の意思とは関係なしに暴れまわってるようだ。誰かの叫び声が遠くで聞こえた。
「グガァァァァァァァァァ!!」
気が付いたときに、最初に視界に入ってきたのは目を閉じて俺の体にもたれかかっている姉ちゃんだった。俺の体についている血はほとんどが返り血だ。体がだるくとてつもない疲労感を感じる。よく見ると俺の腹や太ももから血が出てる。
そう言えば男に刺されたような気がする。記憶がところどころ抜けていて、太ももを刺されてからの記憶が全くない。
とりあえず周りを見てみると血まみれの見知らぬ男が三人、胸や腹から血を流している母ちゃん、そして俺にもたれかかっている姉ちゃんが視界に入った。とりあえず姉ちゃんをどかそうと思ったが体が動かない。仕方なく声をかけた。
「姉ちゃん、姉ちゃん、起きて」
返事はない。もう一度声をかけようとしたところ俺は気づいてしまった。姉ちゃんの左腕の肘から下がない事に。
「……ッ……」
言葉が出なかった。まぶたが重くなってきた。姉ちゃんの腕がない。母さんが血を流し倒れている。見知らぬ男達が血まみれで倒れている。自分と周りの状況が呑み込めずに俺は混乱してしまった。
それでも俺はだんだんに重くなっていくまぶたに耐えられず目を閉じた。




