旅立ち
十月十五日。俺と姉ちゃんは母さんに、すべて話した。当然最初は信じなかった。というか母さんは俺達姉弟がおかしくなったと思ったらしく、テンパって精神科の先生を呼ぼうとした。でもボルテックスとカイエンが喋ると母さんは驚き、黙り、理解したようだ。でもまだ半信半疑のように見える。
父さんにも電話ですべて話した。父さんはずっと黙って聞いてくれて聞き終わると『そうか、頑張れよ。無理はするなよ』って言ってくれた。
あまり口数は多くない、そんな父さんの言葉が嬉しかった。でも同時に、もう父さんや母さんと会えなくなるような気がして少し寂しさも感じた。
母さんに俺と姉ちゃんの転校手続きをしてもらって、一応表向きはタイの学校に転校ってことにしてもらった。
この日の夜、隣から母さんのすすり泣く声が聞こえた。『無理しないでね、死なないでね。』と。何時間もすすり泣く声が聞こえた。
そうか、これからの旅は命の危険があるのか。……絶対帰ってくるから、心配しないで。そう心の中で呟いて目を閉じた。
十月十六日。この日には既に問題なく動けるようになっていた。退院の手続きは蒼井さんがやってくれていたおかげで俺と姉ちゃんは退院できた。母さんはまだ入院するみたいだ。
退院するときに看護師の人から聞いたのだが、あの時の男達は金品目的で侵入したただの強盗だったのだが幸いにも俺が暴走してしまったおかげで何も取られずに済んだらしい。男達は全員重症だったようで今は俺達とは別の病院で療養中で、回復次第事情聴衆をするらしい。蒼井さんが先におおざっぱに今回の事と俺達の事を話しておいてくれたらしく、俺達のことはすんなりと信じてもらえた。だいぶ無理があったような気がするが男達の重症の理由は、ありがたいことに警察の人がすべて正当防衛で片づけてくれた。家の中はすべてあの時のままで残してあるらしい。
母さんは見た目程怪我もひどくないらしく、体調も順調に回復していて今週中には退院できると看護師さんが言っていた。
今回の事と俺達の事を説明した警察の上の方の人にお願いして、やることはほとんど終わってるからと言う理由で特例として自宅の中を自由にしていいと許可をもらえた。本当にありがたいことだ。
ということで俺達は自宅に帰る事にした。俺と姉ちゃんは帰路ではお互い口を開かずに痛いような沈黙が自宅までずっと続いた。
家に着き、ドアを開けて俺達は中に入った。リビング中に黒く乾いた血が飛び散っていて、改めてみると恐ろしい量の血だ。リビング以外にも廊下に少し血が飛び散っていて、壁には引っ掻いたようなキズが多数と少し焦げたような跡もところどころ見える。家具もほとんど壊れていて部屋の隅に人の腕が落ちていた。
「……ッ」
それはすぐに姉ちゃんの腕だとわかって、吐きそうになり口を手で覆った。俺はやっと自分がとんでもないことをしてしまった自覚がでて来て、
「……ごめん」
謝っていた。
本当にごめん。
「……」
ボルテックスはずっと黙ったままだ。
姉ちゃんは自室に戻ったようで二階から足音が聞こえてくる。
俺も自室に戻り旅の準備をすることにした。と言っても準備はすぐに終わってしまいリビングに戻った。姉ちゃんはまだ自室にこもっている。
………さてどうしようかな、もうやることがなくなったぞ。
とりあえず家の大掃除をすることにした。立つ鳥跡を濁さずの精神で。
とりあえず一番ひどいリビングから掃除をすることにした。腕は庭に埋めてから目を閉じて手を合わせた。掃除の途中で姉ちゃんが降りてきたけど俺達はずっと無言で掃除を続けた。その時俺は今まで感じなかった姉弟の溝を感じてしまった。多分姉ちゃんも俺と同じものを感じてるだろう。その日は夜までかかって家中を掃除した。
その日はもう夜ご飯を食べ、風呂に入って寝た。
十月十七日、出発の日。その日の朝に蒼井さんと合流した。もうすぐ時間になる、見送りはいない。旅だというから冒険もの漫画みたいな感じで歩くのかと思っていたけど、蒼井さんが普通に車で登場したのでちょっとびっくりした。聞いてみたら
「歩く? 何で? この交通が発達してる時代に歩く理由なんてないでしょ?」
………正論すぎた。
「でも外国とか行くんですよね? お金とかはどうするんですか?」
「問題ないよ。いっぱい……持ってるから」
蒼井さんは親指と人差し指でわっかをつくってニヤッとした。
………この人案外黒いぞ。
聞くと蒼井さんは日本全国に二百五十店舗ある大手焼肉チェーン店の若手オーナーらしく、年収は約五千万円程らしい。それで俺達の旅の費用は出してくれるらしい。
この人は基本は優しいけどたまに黒いことがわかった。
とりあえず俺と姉ちゃんは蒼井さんの車に乗った。
「まずどこに行くんですか?」
すると意外にもボルテックスが答えた。
「まずは俺の『左腕』と合流したい。そいつはここからそれなりに近いとこにいる。オキナワというとこだ」
「沖縄!!」
姉ちゃんの声が弾んでいる。
「沖縄だね。出発するよ」
蒼井さんがそう言い出発した。
「そういえばボルテックスの右腕って?」
俺は聞いてみた。
「私です」
カイエンが答えた。
「私がボルテックス様の右腕です」
やっぱこいつ結構自信家だな。
「あぁ……うん。そう」
ボルテックスはそう答えた。小声で本当に右腕なんだけど自分で言うな、って言っている。
「因みに沖縄にいる左腕ってどんなやつなんだい?」
蒼井さんが聞いた。
「参謀みたいな役割で魔法を多数使う」
「魔法……?」
姉ちゃんが聞いた。
「そうだ。奴は幻界でも珍しい人型の幻獣で魔女だ。名前はフラス」
「魔女って幻獣なん?」
俺は聞いてみた。
「厳密には人と幻獣の子だ。でも幻獣ってことになってる」
「ふーん」
「とりあえずフラスに会ったらお前達にオレ達の力の使い方を教えてもらう。また暴走されても困るからな」
「確かに……」
俺は小声で言った。
「あぁ、そこの蒼井とかいうのも一緒にな」
「?」
「?」
俺と姉ちゃんが? を浮かべていると蒼井さんは運転しながら左手を見せてくれた。でも鱗があるわけでも、羽毛があるわけでもなくいたって普通だ。
「?」
「?」
俺と姉ちゃんは理解できずにお互いの顔を合わせる。
「顔を近づけてよく見てみな」
すると蒼井さんの左手から獣の物と思われる毛が生えてきて、肉食獣のもののような爪が生えてきた。
「おわっ!」
「ひゃう!」
「はっはっはっ、驚いたかい? こないだ病室で君達と同じ境遇だって言ったでしょ?」
そういえばそんな事言っていた……ような気がする。
「僕の体でも休んでたみたいだよ」
そう蒼井さんの左手からこえがした。
「グリフォンの……リフだ」
そう答えた。それ以上は喋らなかった。
「ごめんね。こいつは口数が少なくてね」
蒼井さんはそうつけくわえた。
「お前はこいつらよりは制御できてるみたいだが、まだ訓練が必要だな」
ボルテックスが言った。その後はみんなで他愛のない話をした。
そうこうしてるうちに空港に着いた。一通り手続きして飛行機に乗った。
絶対に死なない、誰も殺させない。母さん、絶対に戻ってくるからね。そう自分の心の中でつぶやいて窓の外を見た。もう動きだしてるみたいだ。
そして飛行機は沖縄に向けて出発した。




