出発
出発の日、俺達は荷物をまとめて、リビングでソファーに座り女子達を待っていた。前の沖縄の時もそうだったけど、うちの女子達は準備に時間がかかるみたいだ。
「そういえばルイは彼女いるって言ってたけど蒼井さんはいないの?」
俺は既にリビングに来ていた蒼井さんに話しかけてみた。因みに今リビングには男子連中がいる。
フェイン達も今日出発するみたいで、二人は既に準備を終え、リビングにいた。案の定、アリエスを待ってるみたいだ。
「僕、結婚してるよ」
ふーん…………
「え!? 結婚してるの?」
普通にびっくりしてしまった。
「奥さんどんな人?」
俺がそう聞くと蒼井さんはポケットからケータイを取り出して操作して、画面を俺に見せてきた。
「!!!」
「僕の嫁♪」
蒼井さんは嬉しそうにそう言った。
「この人って、女優の水沼梨深じゃない……?」
俺は少し震えた声で画面に映ってる女性を指でさしながら聞いた。
「あ、やっぱり知ってたか。この娘僕の嫁♪」
蒼井さんは嬉しそうに声を弾ませながら言った。
知ってるも何も、水沼梨深っていったら若干二十四歳で、ドラマにバラエティーに引っ張りだこの大人気女優じゃないか。最近ではたしか歌手デビューも果たして、デビューシングルがオリコン一位だったとか。
「ど……どこでお知り合いに?」
「昔から家が隣でね、高一の時に付き合い初めて僕が二十四の時に籍を入れたんだよ」
てことはあれか、いわゆる幼馴染ってやつか。この人どこまで勝ち組なんだ。
「まぁ、竜樹君も頑張って海香ちゃんを落としなよ。おじさんは若者たちの青春を遠くから眺めてるから」
蒼井さんはニヤニヤしながらそう言った。
大人の余裕ってやつか? この人にはいろいろと勝てる気がしない。
「てかお前海香に惚れてんの?」
フェインの突然の問いかけに俺は飲んでいたミルクティーを吹きだしてしまった。
「いや、別に……」
俺はフェインから目を逸らしながら小さな声で答えた。
「そ…そう言うフェインはどうなのさ」
俺は話しを逸らすように言った。
「へへへ、バーカ。俺はお父さんだぞ」
「「「は?」」」
まさかの俺と蒼井さんとルイの声がかぶった。
「いや、だから俺はお父さんなんだってば。娘と息子がいる」
「「「はぁぁ!?」」」
い…以外過ぎる。てことはここにいる俺以外は全員彼女なり奥さんなりいるってことか。敗北感が半端ない。
「因みにアリエスは恋人いないぞ」
フェインが俺に向かってそう言った。
よくよく考えれば俺の周りには魅力的な女性が多い。同い年で気兼ねなく話せて結構タイプな海香、年上のお姉さんのような余裕と魅力を持ったフラス、無邪気で自由なソラス、大人の女性のカッコよさを持ったアリエス、まあフラスとソラスは人間じゃないけど。中学校までは恋人はおろか、友達すらいなかった俺からしたら夢にまで見たハーレム的状況なのかも知れない。それに少し歳が離れているけど蒼井さんやフェインという友達も出来た。それに今の俺には最高のパートナーまでいる。なんか充実している気がする。いや、充実してるのだ。つらいこともあったけど旅を初めてからの生活は充実している。
「まあどの娘を狙うかは自分で決めな。おじさんズは遠くから眺めてますから」
三人は顔を合わせて言った。
「………」
俺は返す言葉が見つからずに黙ってしまった。
丁度そこで女子達が降りてきた。
「お待たせ」
フラスがリビングに入ってきて笑顔でそう言った。その後に続いてみんなが入ってきた。
蒼井さんがみんなを見渡した後に喋り出した。
「みんな来たね。じゃあそろそろ出発―――」
「―――の前にいいか?」
蒼井さんの言葉を遮るようにフェインが話し出した。
「竜樹、出発前に一戦やるぞ」
「おう―――?」
「表でな」
俺は言われるがまま外に出た。フェインは人狼型になって構えをとる。
この間、フェインにウェアウルフは三段変形が出来るということを聞いた。今回は人狼型だ、一番戦闘に適している。俺は今まで人型のフェインに勝てなかったのになぜか人狼型のフェインが目の前に、隙の無い構えをして立っている。
俺は何も言わずにフェインから少し離れたところに立ち、二度深呼吸をした。
「じゃあ二人とも準備はいいね?」
審判はアリエスにしてもらっている。
「では―――はじめ!!」
アリエスが高く上げた右腕を勢いよく振り下ろすと同時にそう言った。
俺はそれのコンマ数秒後にフェインに向かって全力で向かっていく。フェインは俺とほぼ同時に走り出し、俺の方に向かってきた。先に攻撃を仕掛けてきたのはフェインの方だった。フェインの拳がブオッと風を切る音をたてて俺の右頬に当たる、直前でそれを紙一重で避ける。そして俺は右の拳でフェインの腹目がけて反撃をする。だが、それは少しかすっただけで、ダメージは与えられなかった。その後も俺は攻撃を次々と出していくものの、フェインには当たらず、当たってもかするだけでダメージは与えられない。でもフェインの攻撃は何回かかわすものの確実に俺の体にヒットしていき、ダメージを受けてしまう。何とか耐えているけれど、時間の問題だ。そこで俺は一瞬右手から電撃を広範囲に流し、目くらましをした。
「くっ……」
フェインが一瞬目を閉じたときに、俺はすかさず全力の電撃を纏ったパンチをフェインの腹に数発入れる。そしてフェインの体が数十メートル砂埃をたてて吹っ飛んだ。でもそれではフェインは倒せないとわかっていた俺は腰のところから拳銃を―――因みに雷銃と名前を付けた―――を取り出し吹っ飛んだフェインに向かって三発弾を発射する。恐らく一発外れたが俺は雷銃をしまいフェインに全力で向かって行って左の拳を振り下ろす。だが、砂埃の中からぬっっとフェインが顔を出し、そして右の拳が下からアッパーのように俺を目がけて上がってきた。俺はそれを避けることができず、左の頬に直撃してさっきのフェインよりも吹っ飛んでしまった。そして俺の体の落下点には既にフェインがいて今度は下から思いっきり蹴り上げられる。
「ぐはぁっ!」
俺の体はまっすぐ上に数十メートル上に上がる。いつの間にか俺の横にはフェインがいて、今度は上からフェインの右手が強く俺の背中に振り下ろされて、俺の体は地面にたたきつけられた。
「がッ!」
その衝撃で砂埃が高く上がった。
「そこまで!!」
アリエスの声が響くと同時に砂埃が晴れていく。すると俺の顔の前すれすれに右の拳を突き出したフェインがいた。
「………やっぱ勝てないか」
おれがそう言うとフェインがあおむけに倒れている俺に手を差し伸べてきた。
「そうだな。だが随分と成長したな」
俺はその手をつかみ、立ち上がって服についている砂をはらった。
「どーも。実際お前はその状態でどんくらいの力を出してた?」
「大体五割ちょいだな。お前はもっと強くなれるぞ」
フェインはそう言うと俺に握手を求めてきたので、俺もそれにこたえて握手した。
「二人ともすごいね。竜樹もいい感じに武器使えてたじゃん。やっぱ武器をゲットできてテンション上がってそれが戦いにも繋がったのかな」
海香がにっこり笑いながらそう言った。不覚にもドキッとしてしまった。
「竜樹はスピードはだいぶ速くなったけどまだ攻撃が若干軽いな、というかあまり安定してないって言った方がいいか。もう少し安定して力が使えるように訓練するべきだな」
毎度毎度フェインの指摘は的確だ。このイギリスで、フェイン達のおかげでだいぶ強くなれた気がする。
「お前達全員が初めて会った時よりは確実に強くなっている。だが、だからと言って絶対に油断はするな、お前たちが相手にしている奴たちは一瞬の油断が死に直結する相手だと覚えておけ」
フェイン俺達を見回してそう言った。
「あと、訓練するのを忘れるなよ」
今度はアリエスが言った。その言葉に俺達は力強くうなずいた。
その後はフェインは一応全員と一戦づつやったけど結局誰一人勝てなかった。
「お前ら本当に強くなったな。次会うときが楽しみだな」
フェインは笑いながらそう言って地面に置いていた荷物を持ち上げた。
「そろそろほんとに行くよ」
俺も荷物を持ち上げてそう言った。
「あぁ、またね」
アリエスがそう言って手をひょいっとあげた。俺達は全員の顔を見てから飛び上がった。
「次会うときは絶対にその犬顔ををボコボコにしてやるからな!!」
俺は上から見下ろすようにフェインに向かって人右の拳を突き出してニィと笑って言った。
「おう、期待しねえで待ってるぞ」
フェインは俺の方に向かって右の拳を突き出してそう言った。
「じゃあな、お父さん!!」
俺はそう言ってフェイン達に背中を向けて飛んで行った。




