目的
ルイが来てから約二週間が経った。フェインは武器の材料を幻界に探しに行って、つい一昨日帰ってきたばっかだ。どうやって幻界に行ったのか何度聞いても教えてくれなかった。フェインが幻界に行ってる間はアリエスが俺達全員と模擬戦をしてくれているが、全員一回もアリエス達に勝てていない。
ルイも俺達とよく話すようになってきたけど、みんな一定以上は自分たちに踏み込ませないようにしている。今のところルイはなにか行動を起こしたりはしてない。と言うかルイは自分から家事をしたり、手伝いをしたりと普通にいい人だ。
でもそれも何か裏があってしていることなのだろうか? 今までに不自然なところばかりだからどうしても疑ってしまう。
因みにルイは常に左の腰あたりに剣を持っていた。初めて会った時にしていたペンダントは外してるところを俺は見たことない。フラスに聞いてみると以前はあんなのはしていなかったらしい、てことは最近になってつけ始めたってことだ。もしかしてあれがカメラみたいになっていて俺達の情報が全部敵に筒抜けになってるのではないだろうか。考えすぎか、それ以前にルイが敵のスパイだという確証もない。ましてや俺達はルイのことを知らなすぎる。
つい先日、俺はフラスにルイのことを聞いた。フラスは俺と一緒にいたボルクに自分が知っているすべてのことを話してくれた。と言ってもそれはフラスとソラスとルイの思い出や、ルイとミーナが付き合う事になった時期やきっかけ、その二人の性格や能力、主な武器に戦い方などを話してくれた。でもそれはすべて幻界の守護竜五頭達と竜王キング達との戦い以前の話だった。フラス曰く以前のルイと今のルイとでは何かが違うらしい。何が違うかはよく分からないが違和感を感じたとのことだ。その違和感はソラスも感じたようだが、二人ともうまく言葉には出来ないと言っていた。
フェインが武器を作る前にそれぞれの力を見ておきたいというので俺はフェインと模擬戦をすることになった。午前中は元々の予定通りアリエスと、模擬戦をしていつも通りに敗北したのでフェインとの模擬戦は午後にすることになった。因みにアリエスとの模擬戦は今までで一番いい勝負ができた気がする。…負けたけど。
俺は指定された時間にいつも模擬戦をしているグラウンドに行った。そこは二週間近く俺だけではなく、姉ちゃんや海香、蒼井さんがアリエス達と激しい戦闘を続けたことによってところどころ地面が焦げていたり、木が何本か折れていたりしている。
俺がそこに着くと既にフェイン達みんながいた。そのみんなの中には何故かルイもいた。今までこの場にルイが来ることは一回もなかった。フェインの方を見るとその視線に気づいたようでこっちを見た。なんとなく俺が呼んだってフェインが目で言ってる気がした。何で呼んだのかは俺には分からなかったが何か考えがあってのことだろう。その辺は俺らなんかよりフェインの方がずっとよく考えている。
「ここには模擬戦をするってことで集まってもらったけど本当に模擬戦をするつもりはない」
だろうとは思っていた為、何も口を挟まず話しを聞き続ける。
「ルイ、昨日誰と話してた?」
「!」
ルイは一瞬目を見開いた後にバツが悪そうに顔を下に向けてしまった。
「ルイ……どういう事?」
フラスがルイの反応に動揺しながら聞いた。ソラスも動揺しているようだ。
「―――昨日のいつごろの話? 昨日はここにいる全員と話したけど」
ルイが平静を装って答える。でもルイが怪しいのは会った時から分かっていたことなのでフェインは引いたりしない。
「昨日の夕方ごろだよ、お前が部屋にいる時だ。」
「………」
ルイは口を開こうとしない。
「お前は……一体何の目的で俺達に近づいた? 答えろ」
フェインが強い口調でルイに問い詰める。フェインの右手には短剣が握られていた。
「―――僕には同じエルフの彼女がいる、名前はミーナ。僕には弟がいる、名前はレイ。レイとミーナ、そして僕は幼い頃からの知り合いだった。フラス達よりもずっと、ずっと長い付き合いだった」
ルイがもう逃げられないと悟ったのか語り出した。
「エルフは―――魔女もそうだけど、個体によって力の差が激しい種族なんだ。上は上位のA級から下は下位のD級までいて、僕はエルフの中でも力が強い方だから上位のA級だけどレイは下位のD級、ミーナは中位のC級なんだ」
「それが、今回のことと何が関係ある?」
フェインがまたも強めの口調で聞いた。他のみんなも言葉には出さないけど目でうったえている。
ルイはその言葉や視線には何も反応を示さずに話しを続ける。
「昔、人間達の間では奴隷売買があったと聞く。幻獣達の間ではいまだに奴隷売買がある。理由は労働、娯楽など様々だが、幻獣達の表には出ないところで取引が行われてる。ミーナとレイも攫われて奴隷となった。僕は何とか二人を買った幻獣を見つけた。僕が二人を探し始めた時期とドラゴン達の戦争が起こった時期が丁度同じくらいだったおかげで見つけるのにだいぶ時間がかかったよ」
「だからそれが今回のことと何が関係ある? 答えろ!」
フェインがさっきよりも強い口調で問い詰める。
「少し…聞いててもらっていいですか」
流石に今回はルイは反応を示した。その声はかなり落ち着いていた。
「二人を買った幻獣はキングの部下だった。しかも幹部級の。僕は二人を助けるためにありとあらゆる手段をとったけど二人をこの目で見ることすら出来なかった。だから僕は乗り込んだ、奴は上位のS級だったけどせめて二人だけでも逃がせたらって思って攻め込んだ。でも案の定僕は二人を逃がすどころか二人のとこにたどり着くことすらできなかった。負けてボロボロになった僕にそいつはこのペンダントを渡してきた」
そう言ってルイは首からかけているペンダントを右手で見やすい高さまで持ち上げた。
「そいつはキングに刃向う者に誰でもいいから近づけ、そうしたら二週間後にそのペンダントが爆発する。当然お前は死ぬがその爆発に敵を巻き込んで殺したら二人は解放すると約束しよう。って言ってきた。勿論ペンダントは外すことができない」
全員言葉を失う。誰一人として口を開かない。
「僕は二人が解放されるなら自分は死んでもいいと思ってペンダントを受け取ってキミたちに近づいた。」
やっぱりルイは利用されてただけだったんだ。
「―――でも―――やっぱり生きて二人に会いたい……二人には生きて幸せになってほしいって思ったけど僕も…僕も…二人と一緒にいたい……!!」
ルイの目から大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちてくる。
「今になって……死ぬのが怖い!!!」
かすれた声でルイが叫んだ。
「なあフラス……僕は…どうしたら……いい?」
ルイが嗚咽を必至で押し殺しながらとぎれとぎれに言った。
「………」
フラスはルイの方を見ようとしない。ソラスも下を向いている。
ルイはペンダントを離して右手でその涙をはらってから言った。
「―――爆弾は…直径五キロの……範囲を跡形もなく吹き飛ばす威力を持ってる………だからみんな逃げて………」
今度はプルプルと震えた左手でペンダントを、数字が俺達に見えるように持った。
「あと……十秒で爆発する……」
ルイの目元にはさっきはらったばっかなのにまた涙がたまっていた。
俺は海香の手を引いて、蒼井さんが姉ちゃんの手を引いて、フェインがソラスを抱えて、アリエスとフラスはそれぞれ身をひるがえしてダッシュで逃げる。
「……………」
ダッシュで飛んで逃げる中、微かにルイの声が聞こえた。でもなんて言ったのか分からなかった。
瞬間、後ろの方からまばゆい光と共に大きな爆音がして岩や木などがまるで紙切れのように吹っ飛んできた。
みんな五キロ以上逃げきれていない。
―――母さん、父さん、みんな、ごめん……
俺は死ぬ、と思った―――でも俺の体が何故か爆風に包まれることもなく、俺が手を握っている海香も特に大した怪我もなく―――実際には飛んできた小石がかすって少し血が出てしまったみたいだけど―――到底死ぬような怪我はなく俺達は無事だった。みんなの方を見たけど特に大した怪我はなかった。
―――フェイン以外は。太い木の枝が右の肩あたりに深く刺さっていて、そこから赤いドロッとした液体が流れていた。
恐らくソラスをかばって刺さってしまったのだろう。
「いてぇ……」
フェインが少しつらそうにそう言うとその枝を左手でつかんで、「ふん!」という掛け声を出してそれを抜いた。
「俺は……なんで生きてる……?」
フェインが不思議そうにそう言ったあと俺は周りを見回した。
「ル…ルイ!!!」
フラスが叫んだ。
俺はそう叫んだフラスに続くようにルイの方に向かって走っていく。
そこには腹部が無残に破れ、そこから見るからにおぞましい量の血が溢れてきていて、口からも血が流れていてあおむけになった見るに堪えない姿をしたルイがいた。
僅かな爆薬の臭いと鉄の臭い、そして目の前の状況に吐き気を催してしまう。
その姿を見て青くなっている海香が口を開いた。
「わ…私さっきルイ君が何か言った声が聞こえたから、振り向いてみたら地面にお腹を向けて自分の体をクッション代わりにして……そのすぐ後にルイ君のお腹のしたが光って爆発してた……爆発を自分の体で抑え込んでた……」
―――なんでそんなことをしたんだ、と聞こうと思って口を開いたけど俺が言葉を発するよりもも早くフラスがかすれた声で叫んだ。
「なにしてんのソラスちゃん! 早く!」
フラスの目元からはたくさんの涙があふれてきている。
「あ、うん!」
固まっていたソラスが返事をして治癒に取り掛かる。
常人なら気絶したり、吐いたりしてもおかしくないような血の量を見てるのにソラスは冷静に対処している。
普段は幼いような言動をしていても本当は俺や海香なんかよりずっと、ずっと強くてたくましい女の子なのかも知れない。
フラスも治癒に参加しているが、ルイは目を開けず呼吸もかなりか細い。
「みんなは回復した時のために何か力のつく物用意しといて。私の治癒魔法なんて微力すぎてあってないようなものだから! でも、やらずにはいられないの」
フラスの力強い口調に、顔を青くしていた姉ちゃんが返事した。
「……わかった! 行くよ竜樹、うみ!」
「俺達はもしものためにここに残る。敵が襲ってくる可能性もあるからな」
フェインがそう言った。
この二人なら安心できる。
俺は頷いて海香と姉ちゃんと三人で家の方に向かっていった。




