迎撃
「ボルクはどう思う?」
フェインが出発してから数分後、俺はボルクに聞いてみた。
「ん~……怪しいとは思うが関わりが少ない俺やカイエン、ここにいる全員でいくら考えても答えは出ないだろうな」
それもそうだ。
「でも警戒するに越したことはないだろうね。なにかがあってからはおそいからね」
蒼井さんが正論を言った。
「ねえカイ、今フェインとかがどうなってるかわかる?」
「ある程度は。今は…何も問題は起きてないようです。でも何かあってもフェイン程の実力者ならそこまで心配は必要ないと思いますが……」
「そう、ありがと」
姉ちゃんがそう言うとカイエンは嬉しそうに「はい…」と答えた。
しばらく旅を続けて分かったのだが、カイエンは姉ちゃんのことが大好きなようだという事を。カイエンは姉ちゃんに褒められたりするととても嬉しそうにするのだ。そんなカイエンのことが姉ちゃんも大好きなようだし、何より二人ともとても深い、俺達が入り込めないようなところで信頼しあっているみたいだ。
俺は少しその関係がうらやましく思う。俺は暴走したこともあり、姉ちゃん達程にお互い信頼しあえてないような気がする。
ボルク。信頼の証としてそう呼ぶことを許してくれたボルテックスだが、実際のとこはどう思っているのだろうか?
―――俺はあの時から、初めて家で暴走した時から少しは成長できているだろうか?
力は少しづつだけど扱えるようになっている。それでもフェインに言われた通り、そこに居たら邪魔なレベルなのだ。
では精神面は―――? 分からない。
そんなレベルだ。
「竜樹!」
突然、海香に大きな声で呼ばれた。
「え、なに? そんな大きな声で」
「さっきから呼んでたけど全然返事しないんだもん。考え事でもしてたの?」
「まあ、うん。で、何の話?」
俺は海香に聞く。
「カイとか、ボルテックス、ギアにフェインに通信してもらうって話。竜樹はどう思う?」
海香が少し不貞腐れた様子で俺に教えてくれた。
「なんて送るの?」
「もしもの時は全力で逃げて、深追いは禁物、気を付けてって」
「ん~、その程度ならわざわざ送る必要はないと思うな。フェインは少なくとも俺や海香よりは物事を冷静に判断できると思うし、俺達とは経験が違うから大丈夫だと思う」
俺は海香が投げかけてきた質問に答える。
「海香ちゃん以外は全員必要ないって意見だから送らなくていいよね」
蒼井さんがまとめるように言った。
送らないということで決定らしい。
「心配性だな、お前は。大丈夫だって、あいつなら」
まだ納得のいってない顔をしてる海香にアリエスが声をかけた。海香はコクリと頷いた。
「ぐッ………」
今完全に後ろに回って俺のドワーフに対する初撃が当たったと思ったのに、何故か俺の攻撃は当たらず、逆に俺がダメージを受けている。
一体何が起きた? 攻撃がヒットする直前にドワーフの腰が180度回転して拳が俺の顔を目がけて飛んできた。同時にキュイィィィィンという機械音も聞こえた。
ドワーフのそれは明らかにどの幻獣でも、勿論人間にも絶対に真似できない動きだった。
「ふっふっふっふ」
ドワーフが余裕の笑みを漏らす。
俺は遠距離攻撃が出来ない。いや、正確には遠距離から敵に攻撃する術がないのだ。だから攻撃するには近づくほかない。
俺は通常ドワーフのようなスピードのない幻獣を相手にするときは後ろに回り込んでのヒットアンドアウェイの戦法をとる。今回もそれをしようとした。だが出来なかった。腰から上がグルンと回転をして攻撃をされた。
俺はそのあと少し距離をとった。いくら相手の方が実力が下とはいえ妙な動きのせいで距離をとらざるを得なかった。
俺はさっきよりも速く走り、後ろに回り込んだ。そして短剣で振るう。
でもまたその機械音がしてドワーフの腰が180度回転し、裏拳をくらった。
俺は少しふっとばされる。
そして空気を切り裂くような音とともに、何かが俺の胸のあたりにめり込む。
「ぐ…ぐあぁぁぁぁ!!!」
俺はそれを痛みに耐えながら取り出す。
落ち着かない呼吸をしながらそれを見る。ただの小石だ。小石があんなにも大きな威力を持つのだからとんでもない怪力だ。
そんなのんきなことを考えてる暇もなく俺はドワーフに向かっていく。今度は上から。
ドワーフの真上に来た時、俺は失敗したと思った。これじゃいい的じゃないか。こうなったら見極めて対処するしかない。
俺は短剣を空中で構え、ドワーフの頭上から突っ込んでいく。
だがドワーフは上を向いてニィと不敵に笑うとその足をばねのように縮め、拳を構え俺の方にジャンプしてきた。
「がッ………」
その拳が俺の腹に直撃する。ドワーフ元々の怪力のおかげでそれはとんでもない威力だった。
俺は空中に高く上げられる。そしてドワーフも高くジャンプして両手を固め、俺の背中から思いっきり地面にたたきつけるようにそれを振り下ろした。
とてつもない衝撃と共に俺の体からミシミシと音がして、俺の体は大きな砂埃とドゴォーンという音をたてて地面にめり込む。
「くそがッ……」
なんだよあの動きは…。普通のドワーフの動きじゃないぞ。ドワーフは普通あんな高くジャンプなんて出来ないし動くたびに機械音なんてしない。
なにかがおかしい。それのおかげでかなり苦戦してしまう。それどころか完全に俺より力が上だ。でもこのまま逃げたらあいつらが危ない。俺は逃げるわけにはいかない。
「もうおしまいですか? 仮にもS級なんですし私はA級なんですからもっとしっかりしてくださいよ」
ドワーフが地面に倒れてる俺に向かって余裕っぽく言った。
「んなこと言われなくてもわかってるつーの!」
俺はそう言って立ち上がりざまにドワーフに蹴りを入れる。そしてドワーフの方を向き全力のラッシュ。
「うおらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして最後に奴の顎を蹴り上げ、全力のストレートを顔面にぶち込む。
ドワーフに小細工は通用しない。だから全力で攻撃をぶち込む。
ドワーフは後方にとんでいき、後ろの木に激突してそれが折れる。
木がメキメキと折れる音と共に、ゴウッと音がしてドワーフがすごい速さでこっちに向かって来る。
「な……!?」
俺は反応ができずドワーフの拳を受けてしまう。衝撃でその場に倒れこむ。
「はぁ…はぁ……なんだお前は……?」
「随分とおざっぱな質問ですね。見ての通り上位でA級の普通のドワーフですよ」
「ドワーフはあんな高く跳べないし、あんな速く動けない! それにあの機械音は何だ? ………お前本当にドワーフか?」
ずっと思ってたことを最後に付け加えて言う。
「そこまで気づいてるんですか、ハンデとして教えてあげましょう」
「そりゃどーも」
「ワシは普通のドワーフだったんですよ。ついこの前まではね」
「…どういうことだ?」
「人間がワシを強化してくれたんですよ。ワシの体の半分近くは機械化してある」
「…………」
どういうことだ……? 人間に強化してもらった? 機械化? なんだそれは?
頭が追い付かない。強化したから通常ドワーフに出来ないことができるのか?訳が分からない。
「頭が追い付いていないようですね。これ以上は喋れません。聞きたかったらワシを倒してみろ、とは言いません。ワシは倒されても口を割りませんし、ましてや自分から喋ることはないです。でも倒しておかないと次はあなたの仲間たちを狙います」
ドワーフはまだまだ余裕なようだ。
「そりゃ、ここであんたを倒しとかないとまずいな」
「そういうこ……なんだこれは……?」
突然ドワーフの顔から余裕が消え、急に膝をつく。
「すまんな、少し卑怯な気もするが毒の魔法を使わせてもらった」
俺は立ち上がりそう言った。
「毒…いつ…?」
「最初からだ。本来ならすぐ効くはずなんだがな、俺はまだ魔法が下手でよ、効果が出るまでこんなに時間がかかっちまったよ」
俺は人狼型のまま四足の型になり短剣を口にくわえ、ドワーフと少し距離をとってからダッシュで向かっていく。
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そして両手の爪をたて、勢いよく右手を上から振り下ろし、左手を下からすくいあげるようにしてドワーフの首を狙い、そしてトドメに口にくわえた短剣で切り裂く。
だがガキィィィンと言う音がして攻撃がはじかれる。
「聞いてなかったんですか、体の半分近くが機械化しているって言ったでしょう。弱点を強化しなかったとでもお思いですか? あと勿論毒も効かないのであれは演技です」
なんだよそれは! なんでもありなのか!? 訳が分からない。
「残念でした!」
ドワーフはそう言うとニタァと笑い、俺にボディブローを入れてきた。
「ぐはぁ!」
そのボディブローはクリンヒットし、俺は吹っ飛ばされる。そして木に激突してメキメキと音をたてて折れる。
…くっそ、元々のドワーフの能力にくわえ、機械化されてることでさらに力がプラスされている。奴の攻撃は絶対に受けてはいけないし、こちらの攻撃は機械化されてるおかげで、全くと言っていい程通らない。俺の最大の攻撃でさえはじかれた。このまま攻撃を続けても消耗戦になるだけで俺に勝ち目はない。
ドワーフがこちらに向かってきて、右の拳を振り下ろしてきた。落ち着けば見きれない速さではない。俺は紙一重でそれをかわす。もう一発、もう一発とドワーフが右の拳を振り下ろしてくる。俺は紙一重でかわし続ける。でも何回か拳がかすってしまい頬から血が垂れてくる。
このままじゃ本当に消耗戦になってしまう。なんとか…なんとかして反撃をしないと。でも反撃しても体の半分近くが機械化されているから全然効かない。
……待てよ…? 体の半分近くってことは生身の部分が残っているってことだろう。そこを狙って攻撃すればダメージを与えることができるんじゃないのか?
俺の攻撃でも生身の部分にならダメージをを与えることができる。問題はどこが生身かだということだ。今までの奴の行動や言動からある程度推測は出来る。両足、右腕、首、内臓の一部あたりだろう。そこ以外を狙えば…。
俺は隙を見て後ろに下がった。そして短剣を構えて奴の左腕目がけて全力で切りかかる。
すると肉を裂くような音と共にドワーフの左腕が、肘から下が地面にボトリと落ちた。
「なにぃぃぃぃぃぃ!!」
ドワーフは攻撃をやめ、右手で傷口を押さえた。
よし…。この勢いで!
俺はドワーフの左の脇を短剣で切り付ける。何度も、何度も。その攻撃は確実に効いてるようでドワーフの表情から余裕が消えていく。
このドワーフは主に右半身が機械化されているようだ。なので俺は奴の左側に確実に攻撃を当てていく。
「ばかな……ワシは強くなったのに……死ぬことはないと思っていたのに…」
「サイボーグになって強くなろうが、俺とお前じゃ元々の格が違う」
俺はそう言って短剣を口にくわえて四足の構えをとる。そしてドワーフの方に向かっていき、爪をたてて勢いよく右手を振り下ろし、左手をすくいあげる。今度はしっかりと奴の左半身をえぐるようにあてる。
数秒後、俺の後ろでドサッとドワーフの体が倒れる音がした。
「ふぅ…」
俺は一息つくと全身の力が抜け、その場にあおむけに倒れてしまった。
「……何とか倒したけど、どうやって帰ろうかなぁ…もう体動かないんだよなぁ……骨も洒落にならない量折れてるしなー………」




