追跡
俺はフラス達を追うために狼化した。
あいつらには言ってないがウェアウルフは三段階に変身が出来る。人型、人狼型、狼型の三つだ。それぞれに特徴があり、人型は一番力の消費が少なく実界で過ごすには一番この姿が周りに溶け込めるので基本はこの姿でいる。人狼型は攻撃力、守備力、スピード、すべてがバランスよく一番戦闘に適している。そして狼型、これは見た目も完全な狼になる。攻撃力、守備力は低いがスピードが人狼型の比にならないくらい速い。幻獣の中でもトップクラスのスピードにが出る。
俺はその狼型になりフラス達の気配を追った。狼型で走ると五分も走らないうちに三人を見つけた。
俺はそのまま気配を消して物陰に隠れて三人を見つめた。
今のところ三人は普通に歩きながら話してるように見える。俺は特別耳が良いわけではないので三人の会話の内容は聞き取れない。
その後も俺は三人の追跡を続けた。三人は途中、ソフトクリームを食べたり、ベンチに座ったりとなかなかのんきに過ごしている。人間の家族のように見える。
俺はその時もずっと物陰から見ていた。狼になっているおかげで周りにいる人間達からは怪しまれずにすんでいる。
するとルイが突然二人と離れ、公衆トイレに入って行った。俺はさっきより三人と距離をとる。魔女の中でもトップの物は瞬間移動などの魔法が使えるが、奴はエルフだ。でももしものために距離をとる。奴は上位のA級、俺でも勝てることには勝てるだろうが、さすがに無事では済まない。
でもそんな心配をよそに、ルイは何事もなかったかのようにトイレから出てきた。
その後は三人は近くの店に入って行った。そこは大きなショッピングモールだった。そこはペット禁止の張り紙があったので、俺は人目につかないとこで人型になり店に入って行った。
そのおかげで一瞬見失ってしまったが、気配を追ってすぐに見つけることができた。
こういうところでは物陰に隠れていると逆に目立ってしまうので、持ってきた帽子をかぶり一般客のふりをして歩いた。
「あの、すいません」
「!!」
三十分くらい三人を追う形で店内を歩いていると突然後ろから声をかけられた。
まさか仲間がいたのか? 声をかけられるまで気づかないなんてマヌケすぎる。
俺は恐る恐る声のした方を振り向くと、そこには初老の男性が立っていた。
「お手洗いはどちらだかわかりますか?」
……どうやらただの客のようだ。俺は三人の方をチラッと見てからトイレの方に手を向けてから「あちらですよ」と教えてあげた。
男性はお礼を言ってからトイレの方へ向かっていった。どうやら俺を警備員と勘違いしたらしい。
俺は少しホッとしてから三人の方を見た。
「!」
いない! ほんの数秒目を離しただけで三人を見失ってしまった。まわりには店やら通路やらがたくさんあり、どこに入ったかなんて検討がつかない。俺はそのため三人の気配を追った。でも周りに人が多すぎて少しわかりにくい。俺は何とか三人の気配を見つけた。だが同時にもう一つ幻獣の気配を感じた。
この気配は……恐らくドワーフか。ドワーフは見た目は人間の少し小柄なおじさんのようだが、その能力はバカみたいな怪力と恐ろしいほどの体力、そしてとても硬い守備力だ。でもスピードはかなり遅く普通の人間と大差ない。だがその怪力はそこらに転がっている小石を持って投げれば、さながら弾丸が飛んできたと錯覚するような威力とスピードが出る。戦法はさながら固定砲台のようだ。個体にもよるが、ドワーフは下は中位のC級から上は上位のS級までいる。今回のは…恐らく上位のA級。ドワーフは気配をたどったりするのはそれほど上手ではない、そのおかげかこちらの存在には気づいていないようだ。
いや、そんな事よりなんでドワーフがここにいる? 普通に考えればルイの監視だろう。監視がついているということはルイは敵さん方には信頼されていないか、利用されているかのどちらかだろう。恐らく後者の方、つまりルイの立場は完全には向こう側ではないということ。何を餌に利用されているかはルイとの付き合いの浅い俺ではよくわからない。後でフラスに聞いてみるべきだろう。
いや待て、さっきまで監視がいなかったのにこの店に入ってから監視がついたということは、ここで何か行動を起こすという事なのだろうか? それともずっといたけど気づかなかったのか?
ここにきて突然現れたドワーフの存在に俺の思考が引っ掻き回される。俺はドワーフの方も気にかけながらさっきと同じように三人を追うことにした。
俺は三人が目視できる所までいき、追跡を続けた。ルイはさっきまでと変わらずなにか行動を起こすような気配はない。同じくドワーフも何か起こすような気配もない。
額からポタリとしずくが落ちた。この俺が柄にもなく緊張しているみたいだ。店の中は特別暑いわけでもなく、人間にとって過ごしやすい湿度と温度なのだろう。それはウェアウルフである俺にとっても過ごしやすかった。それでも額から汗が流れてくるのは上位のA級二体では勝てるか不安だからだろうか。
俺はその冷や汗を手の甲で拭ってから三人を追った。その後もルイやドワーフはなにか特別行動を起こすわけでもなく、三人はそのままショッピングモールを出た。俺もその後を追う、当然ドワーフもついてきた。三人はその後はどこかに立ち寄ったりすることもなく、アリエスの家に戻った。家には竜樹や海香たちもいる。
流石に敵をわざわざ家に入れることもないので、俺はドワーフを止めることにした。ドワーフの方に向かっていき俺は「おい」と声をかけた。
するとそのドワーフはこっちを向いた。
「さっきから三人をずっと見てたみたいだけどストーカーか? 警察呼ぶぞ」
俺は人間を装って挑発的に言った。
「あんたも人のことを言えたたちかい? 」
ばれてたようだ。
「なんだ、気づいてたのか。じゃあ単刀直入に聞く、ドワーフさんがあいつらに何の用だ? キングの部下か? あのエルフはなにもんだ?」
「そんなに一度に聞かれても答えられませんぞ。まあどの質問にも答えられませんがね」
ドワーフは落ち着いた口調で言った。
「まあでも敵に会って、何もせずに逃げたとなったらワシ、上の者に殺されてまうんでな、あんた相手なら死ぬことはないでしょうな」
「闘る気かい。俺も怪我するのは嫌なんだけどな、仲間が傷つくのはもっと嫌なんだよね」
俺はそう言って人狼型になって短剣を取り出す。ドワーフは構えをとる。
「こんなところで戦闘を始めちゃっていいのかい? もしかしたら人間を巻き添えにしちゃうかもしんないですよ」
ドワーフが嫌味っぽく言った。
「心配ないね。被害が出る前に終わらせるから」
俺は言った。でも実際はそんな早く終わらせるのは少し難しい気がする。でも俺は強がってみせた。
「それにちょっとフラスに魔法教わってんだ。人払いの魔法ならできんだよ」
別に珍しいことではない。ウェアウルフの中には魔法を使える奴は少なくない。勿論威力や精度なんかは魔女には遠く及ばないが。
「そうですか、じゃあ遠慮は大丈夫ですね」
ドワーフは落ち着いた口調で言った。
それにしても妙だ。あいつからしたら俺は格上の相手のはずなのに、落ち着きすぎている。なにか隠しているのか? だとしたら油断は禁物だ。
「行くぞ!」
俺は掛け声のように言った。
「わざわざ攻撃する前に声を出してくれるなんてお優しいんですね」
「まあな、こう見えても優しくなりたいとは常々思ってるんでな」
「いい心がけですね。では優しいついでに勝ちを譲ってくれたら嬉しいんですけどね」
「そりゃ無理な相談だ」
俺は一回深呼吸をしてから地面を強く蹴り、ドワーフの方に向かっていった。




