来客
家に戻る途中にフェインに「後で鏡見とけ」って言われた。鼻毛でもでてたのかも。あとさっき殴られた頬がいまだに痛い。少しジンジンする。
俺達は少し歩いて家に着いた。
家に帰ると庭先に姉ちゃんと海香がいた。何故か二人とも頬が腫れている。
二人ともこっちに気づくと驚いたように目を見開いた。
俺は少し気になり言った。
「「「それ、どうしたの?」」」
三人とも声がそろった。別に打ち合わせなんかはしてないが。
「竜樹、頬どうしたん? 腫れてるよ」
姉ちゃんが指をさして言った。
俺は自分の頬を触ると、確かにぷっくりと腫れていた。なんで今まで気づかなかったんだろう…?
「そう言う二人もどうしたの?」
俺が聞くと二人は一回溜息をついてから海香が話し出した。
「アリエスと模擬戦をしましてね、向こうはかなり手加減してくれたんですが、私達は文字通り顔面殴られて瞬殺されましてね、それでこの有り様です、はい。」
何だ、二人とも俺と一緒か。
「しかもアリエスが、あんたらが私に一発入れるまでフェインには武器つくらせないって言い出したので自主トレしてから帰ってきました」
本当になにからなにまで一緒だ。もしかして二人とも打ち合わせしてたんじゃないのか?
とりあえず俺は洗面所に行って、鼻毛が出てないことを確認してから部屋に戻り、今日の自分の戦いと蒼井さんの戦いを思いだしていた。はっきり言って俺にはあの二人の動きを目で追うので精一杯だったし、何か技術を盗めたかと言えばとても微妙なとこだ。多分フェインの言った通り、俺達とじゃ経験が違うんだと思う。
そういえば蒼井さんは初めて会った時から力とか考えとかが俺達よりも一枚上手だった。蒼井さんがどこで自分の力に気づいて、どこで訓練をしたんだろう。そしてどんな訓練をしたのだろうか?彼の過去が気になる。でも彼は自分からそういう話をしないので、なんとなく聞いてはいけないような気がする。
リフに聞いてみようかとも思ったけど基本蒼井さんと一緒にいるし、最初の自己紹介の時から全く喋らない。
そんなことを考えていると突然インターホンの音が家中に響いた。
一応普通の家と言うことになっていたりするので、宅配便や新聞の勧誘なんかは普通に来たりする。
「はいは~い」
アリエスが普段よりもワンオクターブ高い声で返事をして、玄関に向かっていく足音が聞こえた。
恐らく俺には関係ないので別に部屋から出たりはしない。
「フラスー! ソラスー! あんた達にお客さんだよー!」
アリエスが大きな声を出して二人を呼ぶ。二人は返事をして玄関に向かっていった。
二人にお客さんってことは幻獣なのか?俺は少し気になって部屋から出て、玄関の方を覗いてみた。するとそこには白くてきれいな肌をしていて、短めの銀髪、全体的に黄緑色を基調とした服を着ている人がいた。でも顔はよく見えなかった。人間の男に見えるけど、人型の幻獣なのだろうか?
三人はしばらくその場で話した後リビングに向かっていった。
俺はフラスに呼ばれリビングに行った。するとそこには全員集合していて、さっきの銀髪の人がいた。その人は目は少し細く、鼻は高く、欧米人のような顔をしている。
俺がソファーに座るとフラスがみんなのほうを、ぐるっと見てから喋り出した。
「彼はエルフのルイ。上位でA級の幻獣よ」
フラスにルイと紹介された人がお辞儀をしてから喋り出す。
「エルフのルイです。フラスとソラスとは昔から仲良くさせてもらってます。皆さんよろしく」
ルイはにっこりとほほ笑んで言った。正に爽やかと言う言葉がぴったりな笑顔だ。
「エルフはね、私達魔女みたいに魔法は使うんじゃなくて剣術で戦うんだよ。その中でもルイは五本の指に入る実力者なんだよ」
フラスがそう説明してくれた。
「そんなこと言ったらキミだって魔女の中ではナンバースリーの実力者じゃないか」
ルイが少し笑いながら言う。
やっぱフラスはすごい魔女だったのか。今までのことからなんとなくそんな気はしてたが。
「しかも!! 私の彼氏」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
場の空気が凍った。
フラスの突然の爆弾発言にソラスやルイをも含めた全員が固まった。
「な~にみんなマジになっちゃってんの!! ウソだよ、ウソ!」
フラスは笑いながらネタバラシをした。
「ほ、本当にウソだよね……?」
ソラスが若干涙目になりながら聞いた。
「ほんとだよ。私は誰のものでもないよ」
フラスがソラスの頭をなでながら言う。
……もしかしてソラスってお姉ちゃん大好きっ娘なのか?
ソラスがコクリと頷き涙を拭いた。
「まぁ、ルイには立派な彼女がいるもんね」
「う、うん…」
ルイの顔が一瞬曇った、ような気がした。
「それより君達の紹介をしてくれよ」
ルイが話しを逸らすように言った。
「あぁ、ごめん」
フラスはそう言うとみんなを紹介した。
因みにこの自己紹介でアリエスの歳が十八歳だということと、フェインの身長が二百三十五センチだということが判明した。
その後はつもる話しもあるだろうということで、フラスとソラスとルイの三人は部屋に行った。
リビングにはその三人以外が残る形となった。
「なんか怪しいな…」
フェインが唐突にボソッと口を開いた。
「あぁ、警戒するべきだな」
アリエスも同意するかのように言う。
「どういうこと?」
俺はよく理解できずに二人に質問を投げかける。
「アホが、よく考えなくてもおかしいことだらけだろ」
フェインに少し馬鹿にするかのように言われた。
俺や姉ちゃん、海香の三人は小首を傾げている。
「そうだよ、三人とも疑問に思わなかったかい?」
蒼井さんが言う。
「まず、なんで僕達のところに来たのか? ただフラス達に挨拶しにきただけとは考えにくい」
…確かに。言われてみれば気になる。
「それになんでこの場所がわかったのか? フラスとソラスの反応から二人が場所を教えたとは思えない」
フェインが続けた。
「あと、少しわかりにくかったけど首にペンダントをしてただろう? あれは多分…ペンダントじゃない。何か違うものだ、タイマー? のようなものがついてた。何か数字が見えた。いくつだったかは分からないけどな」
すごい…よく見てるな。俺はそんなの分からなかった。
「あと…フラスが彼女の話を出した時に一瞬顔が曇ったように見えた。ただ別れただけかもしれないけど、なんかもっと大変なことがある……ような気がする。これは女の勘だけど」
アリエスがそう言った。それには俺も気づくことができた。
「カイ、そのルイの彼女の名前ってわかる?」
姉ちゃんがカイエンに優しく聞いた。
「確か……ミーナと言う名前だったと思います」
そのカイエンの言葉の後にボルクが続けた。
「あぁ、確かそんな名前だったな。ミーナはルイと違って剣術の才能は乏しかった記憶がある。ただそのかわりかとても頭は良かったな。正に策士という言葉がぴったりな奴だったな」
「とりあえずしばらくルイのことはみんな警戒しておいてくれ」
フェインが声を潜めてそう言った。
「じゃあ今二人が危ないよ! 行かないと!」
海香が焦ったように大きな声をあげた。
「よし、俺も行く!」
俺はそう言って二人で部屋を出ようとしたが、
「待て待て、バカップル。今の弱いお前達が行っても足手まといになるだけだろう。話し聞いてなかったのか? フラスはあいつを上位のA級だと言ったんだぞ。しかもエルフの中でも五本の指に入る実力者だって言ってただろ。お前達で勝てるとでも思うのか? 最悪死ぬのがオチだ」
俺達はフェインに止められた。
……正論過ぎて俺は反論できなかった。
「でも! フラスちゃんとソラスちゃんが!」
海香が声をあげて言った。
「だから、俺が行く。問題ないだろ」
フェインが言った。
俺もついて行きたいけど、行っても邪魔になるだけだと思ったのでなにも言わずにいた。海香も俺と同じ意見のようだ。
「…二人を…お願い」
海香がフェインをまっすぐと見つめながら言った。
「任せろ。アリエスはもしもの時はみんなを頼む」
「あぁ、お前も気をつけてな」
アリエスがフェインと拳をコツンと合わせながらそう言った。
「ギアもな。頼んだぞ」
フェインはギアにも言った。
ギアは顔を出してコクリと頷いた。
そしてフェインは短刀を持ってフラス達を追って行った。




