模擬戦
翌日起きるとまだ少し体の節々が痛かったが立って動くことができた。でも走ったりすることは出来なかった。
俺は手すりに掴まって歩きながら昨日みんなが集まったリビングに入っていった。するとそこには茶色い髪で短髪の身長が二メートル以上あり肩幅が広い、とてもガタイのいい男の人がタバコをくわえた人がいた。
「おうボウズ、もう動けるか。体力はあるみたいだな」
そのひとが言った。
「あの…誰?」
俺が聞くとその人はソファーに腰を下ろしてタバコの火を落として言った。
「昨日は狼の姿だったからこっちの姿は初めてだな。フェインだ。俺達ウェアウルフは人間に化ける力を持っててな、おれは実界では基本この姿で過ごしてる。戦闘の時は狼になるがな」
すると頭に包帯を巻いた姉ちゃんがゆっくりとアリエスの肩を借りながら歩いて部屋に入ってくる。
「お、なんだお前はもう来てたのか」
アリエスが姉ちゃんを支えながらこっちを見て言った。
姉ちゃんをソファーに座らせ、アリエスは朝食の準備をしに行った。
姉ちゃんがフェインの方を見て「あの…」と言うとフェインは何か察したようにさっき俺にした説明と同じ説明を姉ちゃんにした。
「歩けるから! 降ろしてくださいお願いします! ちょっと待ってドア開けないで!! 降ろしてってば!」
するとドアの向こう側から海香の声がした。
「ほらほら暴れないで、落ちるよ。怪我人なんだからじっとしててよ」
フラスの声も聞こえた。何してるんだろう……?
ガチャ、という音がしてドアが開く。するとそこにはフラスと、フラスにお姫様抱っこされている海香がいた。
「開けないでって言ったのに……」
海香が顔を手で隠しながらボソッと言った。因みに海香のパジャマはくまさんがたくさんプリントされていて、なんかいつもの海香より少し幼く見えた。
フラスは海香をソファーに降ろし、自分も座った。
ソファーは大人数座れるものが一つと一人掛けが二つあったので全員座ることができた。フェインは一人掛けに座っているが体が大きいので少し窮屈そうだ。
少ししてアリエスがウエイトレスのように両腕に皿を二つずつのせ右手に皿を二つ、左手に一つ皿を持ってみんなのとこに来た。すべての皿の上にはサンドイッチがのっていた。
「フェイン取って」
アリエスがそう言うとフェインはアリエスの持ってる皿をとってみんなに配った。
イギリスの料理ってあんまおいしくないって聞くけど、結構おいしかった。作り方を教えてほしいけどアリエスのこと少し苦手なんだよなぁ………。
朝食を食べ終わったあと、ソラスが俺達怪我人を治癒してくれた。ソラスは治癒が終わった後疲れたらしく、部屋に戻ってしまった。
俺は着替えてからフェインに呼びだされた為、ボルクと共に近くのグラウンドに行った。そこは昼の十時だというのに人が全くいなかった。代わりに狼の姿になったフェインがいた。
俺がフェインの近くに行くと、フェインはそれを待っていたかのように話し出した。
「まずは説明をする。ここに人がいないのは朝食の前にフラスにここに人払いの魔法をかけてもらったからだ。これからお前と俺は模擬戦をやる。ルールは先に一撃入れたほうが勝ちだ」
そう言ってフェインは狼化を解いて人の姿になった。
「さ、やるぞ」
「なんで人の姿……?」
「アホ、今のお前なんかこの状態で十分勝てる。あぁ、勿論お前は全力で来い。電撃も使え」
「……わかった」
俺はそう言って翼や鱗を出し、構えた。そして俺とフェインはお互い後ろに下がり、二人の間には約十メートルの距離が空く。
「合図だ」
フェインはそう言ってコインを一枚出した。そしてそれを高くはじいた。
コインが地面に落ちた瞬間、俺はフェインと距離をとって、電撃を出すため思いっきり後ろにバックした。そして顔をあげると目の前にはフェインの顔があった。
「な……!」
俺は驚いて情けない声を出してしまった。
最初の立ち位置は十メートル程離れていた。俺はそこから更に十メートル以上の後ろに下がったのに、フェインは俺が下がった距離の倍の距離を俺より速く移動してきたのか。
そして俺はフェインに顔を殴られた。
俺は何メートルも吹っ飛ぶ。スタートの時には何十メートルも後ろにあった木に俺の体が当たって折れる。
フェインとの模擬戦は開始わずか数秒で決着がついてしまった。文字通り俺が瞬殺されて。
俺が折れた木の根元で立てずに座っていると、フェインが俺の方に歩いてきた。
「これが今のお前の実力だ。因みに俺はこの状態だと中位のC級幻獣といい勝負だ。狼化して初めて上位のS級幻獣の力が出せるようになる。わかったか、今のお前はC級に手も足も出ないくらい弱い。まぁお前は戦いのテンションによって動きのキレなどが多少なり変わるみたいだがな」
自分が弱いというのはわかってたつもりだ。そのせいで俺は沖縄では海香や姉ちゃんの前で暴走して海香を傷つけそうになった。今回のワイバーンに襲われた時だって俺がもっと強かったら、みんなあんな大けがをしなかったかもしれない。
そんな俺の考えを見透かしたようにフェインが言った。
「自分が弱かったせいで、とか思うなよ。お前ら全員弱い。はっきり言ってお前がいくら強くてもあいつらがあの弱さだといつか絶対に死人がでる。今まで誰も死ななかったのはただのラッキーだ」
俺は何も言えなかった。
「これから毎日この時間に模擬戦をする。武器を作るのは俺に一発入れてからだ」
フェインはそう言った。
「昨日は作ってもいいって言ってたじゃん」
俺は不満っぽく言った。
「気が変わった。悔しかったら俺に一発入れてみろ」
フェインはそう言って俺に背中を向けて歩って行った。
俺は少しムカッとしてしまい、
「やってやるよ! その犬顔に何十発でも入れてやるよ!」
歩いてくフェインを人差し指で指して言ってしまった。売り言葉に買い言葉で言ってしまった。
「やれるもんならやってみろ、ヘボ人間」
フェインが嫌味っぽく、歩いたまま手をひらひらさせて言った。
俺はその後はその場に残り、自主的に訓練をした。といっても五十メートル走り込みや腕立て伏せ、上体起こしなどだが。その後は力を使った訓練や実際に体を動かしてみてのイメージトレーニングをやった。
気が付くと時刻はお昼の十二時を回っていたので、俺は一旦家に戻ろうと思いグラウンドを出た。すると少し遠くからフェインがこっちに歩いてきているのがわかった。
「なんだヘボ人間、まだいたのか」
フェインが近づいてきて言った。
「ちょっと自主トレをな。そういうワンちゃんはなんでまたここに?」
人の姿をしたフェインに言った。
「ちょうどいいや、おめーも来い」
俺はフェインにそう言われ頭を鷲掴みにされてグラウンドに運ばれた。
その五分後くらいに蒼井さんがグラウンドに入ってきた。
「あれ、竜樹君がなんで?」
俺はその問いに首をかしげた。
フェインは蒼井さんに自分と約十メートル程離れるように指示をした。
「翼、構えろ」
蒼井さんはそれに従って構えをとる。俺は少し離れたところに行った。
これから二人は模擬戦をするらしい。ルールは俺の時と一緒。フェインも人の姿でやるみたいだ。ただ俺の時と違うのはフェインが昨日使っていた短刀を持っていることだ。
フェインは今回も「合図だ」と言ってポケットからコインを出した。
蒼井さんが頷く。
フェインがコインを高くはじき、そのコインが地面についた瞬間、蒼井さんがダッシュでフェインの方に飛んで行く。そして右手でパンチを繰り出す。が、フェインはそれを右手に持っている短刀でさばく。フェインがそのおかげで一瞬硬直した瞬間を蒼井さんは見逃さず、左手でボディーブローを繰り出す。その拳は文字通り風を纏っていて、さっきの右手のパンチより早いスピードでフェインに向かっていく。
フェインはそれを紙一重でかわし短刀を一閃、振るう。
でも蒼井さんはそれが右腕に当たる直前、そこからゴオォッという音と共に強風を出し、それをはじく。その風で近くにたっていた木が折れる。
ただの模擬戦なのに、それでも二人からは命のやり取りをしているような緊張を感じる。お互いの攻撃を紙一重でかわし、なかなか一撃が入らない。
もうこの二人は三十分以上戦っている。
その時蒼井さんが少しバランスを崩し、前のめりになる。フェインがこの隙を見逃すはずもなく短刀を振るう。でも蒼井さんはしゃがみこむようにしてそれをかわす。そしてそのままフェインに近づくと、逆立ちのような体制になり短剣を蹴りとばした。そして起き上がりフェインの顔に一撃、パンチを入れる。
「ハア…ハア…ハア…」
蒼井さんは疲れたのか息が上がっていた。
「翼、なかなかよかったぞ。明日もまたやるから同じ時間にな」
蒼井さんは返事をしてグラウンドから出て行った。
「今のを見て何か参考になったか?」
フェインがスポーツドリンクを飲みながら聞いてくる。
「まあ、なったかな。普通にすごいから見入ってた」
「お前も最低でもあのくらい出来るようになれ。そうしねえといつまでたってもヘボ人間の称号が付いたままだぞ」
フェインがからかうように言った。
「今に見てろ! お前に勝ってお座りとお手をさせてやるからな!」
俺はそう宣言してフェインと家に戻った。




