ワイバーン襲来
翌日、俺は準備を済ませリビングで待機していた。
「なあタツ」
ボルクに話しかけられた。
「うん」
俺はお茶を飲みながら返事する。
「フラスに惚れるなよ」
「………」
そういえばあの時こいつは俺の中にいたんだった。
「因みに全部見てたんだよな……?」
俺は恐る恐るボルクに聞いてみた。
「ばっちりと見てたぞ。海香が花を狩りに行ったのも、ソラスを泣かしたのも、フラスにからかわれてそれに興奮してもっとすごいことされたい、って思ってたのも全部知ってるぞ」
なんでこいつに俺の思考がばれてるんだ。
「いっちば~ん! じゃない! 竜樹が先か!」
するとそんなセリフと共にソラスがリビングに入ってきた。
「フラスとかは?」
俺は聞いた。
「もう少し時間かかるって言ってたぞ」
「そか」
俺はそう言ってソラスの方を見て。
「昨日はごめんな、少しやりすぎたよ」
ソラスはそれを聞くと胸を張りながら
「別にいいぞ。ソラの心は広いからな、許してやろう」
と言った。
「ありがとな」
俺はそう言ってソラスの頭をなでた。
ソラスは嬉しそうにニコニコしている。
「お待たせ」
そう言ってフラス達と一緒に蒼井さんも集まった。
俺達は全員集まったのを確認すると外に出た。フラスが家の屋根についてるボタンを押すと、家が見る見るうちに小さくなり昨日の家をポケットから出したサイズになった。フラスはそれをしまい、全員飛び上がった。
今日も蒼井さんの先導でイギリスを目指す。その蒼井さんが言うには早ければ今日中に、遅くても明日の昼にはイギリスに着くらしい。
「ねえ、フラス」
四十分くらい飛んだとこで蒼井さんが突然口を開いた。
「うん?」
フラスが返事する。
「昨日さ、竜樹君が言ってたんだけどフラスって何歳なの?」
フラスはそれ聞くと、こっちを見てニヤッと笑って言った。
「あんなことされたらお姉さんの年知りたくなっちゃった?」
ほんとにフラスは最初会った時はこんな奴じゃなかった気がする。
「しょうがないから教えてあげる。私の年齢は人間の数え方だと二十一歳。ソラスちゃんは十二歳。幻獣の数え方の方は秘密ね」
思ったよりもフラスは年上だったが、ソラスは予想通りだ。
「私はこの中で二番目だね」
フラスはそう言った。
そのあとも俺達は飛び続けた。
すると突然幻獣達が停止するように指示してきた。俺達は素直にそれに従う。
ボルクが小声で俺に話しかけてきた
「ここから約四キロ程先にキングの手下がいる。……五頭だな。恐らく俺達を探してる。五頭だからもし見つかったら攻撃されるかもしれない。フラスのスケーティングで見づらくなってるとはいえ、奴らは全員ワイバーン、鼻がいいから気づかれるかもしれない。気を付けろ。」
四キロ先だと俺にはわからないが他の幻獣達も気づいてるみたいだから嘘ではないだろう。
「蒼井、遠回りしてもいいから安全なルートで行ってくれ」
ボルクは今の俺達では敵わない、、又は勝ててもこっち側が何かしら被害を受けると判断したのだろう。
「了解した」
蒼井さんはそう言って進んでいた方向を変えて進みだした。俺達は全員物音をたてないようにそれに続く。
全員に緊張が走る。一秒が数分にも、数十分にも感じる。俺や姉ちゃんや海香は四キロも先にいるワイバーンの様子なんてわからないからとても不安そうな顔を浮かべている。蒼井さんは俺達とは鍛え方が違うからある程度はわかるらしい。
一体どれだけの時間が経っただろう。ボルクたち幻獣が俺達にもう大丈夫だと教えてくれた。
その瞬間俺は体の力がどっと抜け、危うく落ちそうになってしまった。姉ちゃんと海香も同じように緊張が抜け、安堵の表情を浮かべている。
太陽がオレンジ色に光り、日没まであとわずかとなっていたのでその日はそこで休むことになった。
翌日、俺達は出発した。
蒼井さんの話では、昨日遠回りしたので到着は今日の夕方ごろになってしまうらしい。
昨日のことがあったので今日は何もないことを祈った。
そのおかげか、何事もなく夕方にはイギリスに着いた
俺達は誰かに見られたりするとめんどくさいことになるので、人の少ない草原に降りた。
「まずいな……」
ボルクが小声で言った。
嫌な予感がする。辺りを見回しても暗いこともあり俺には何も周りにないように見える。
「囲まれてる。しかも数が多すぎる、二十近くはいるぞ……」
そんなにか! 俺達はたった五体から逃げたのに二十もいては勝ち目がない。最悪の場合死ぬかもしれない。
「奴ら気配を消してやがった。俺達のは気配を探すものだが、こいつらワイバーンは匂いで俺らを探してしかも先回りしてやがった」
ボルクが悔しそうに言う。
「その通りです」
ワイバーンの中のリーダー格と思われる奴が喋り出した。
「流石、幻界の守護幻獣ともなると頭の回転もはやいですね」
そいつはボルクよりも二回りほど小さかった。
「我々単体ではあなた方幻獣の誰にも勝てませんので数を用意させていただきました」
そう言うとそいつの後ろからバサバサという音と共にたくさんのワイバーンが飛んできた。
「二十三頭です。ですが人間なんかと一緒にいて弱くなってるとは。ちゃんと訓練すれば幻獣のみの時とは比にならない力が出せるでしょうが、今はまだ訓練が足りず強くなるどころか弱くなってるとは……こんなに数は必要なかったですかねぇ……」
その声に紛れてボルクが小声で話しかけてくる。
「俺が隙を作るからみんなを連れて逃げろ」
それなら俺達人間が助かるかもしれない。でも
「だめだ」
俺はきっぱりと断る。
「お前だけを置いていけない。それにこの量じゃ俺の足で逃げられない」
「じゃあどうするんだ!」
俺は一瞬ためらったがしっかりと答えた。
「た…戦って、勝つ」
みんなの顔を見た。みんな俺の方を見て頷いてくれた。
「なにをこそこそ話してるんですかあぁ!?」
リーダー格の奴が大きな声を上げる。
「てめーらこの状況で随分と余裕だな? 格下幻獣だから何体いようが問題ないってか? 見下しやがって! てめーら上位幻獣のそういうとこが気に入らねーんだよ!!!」
急に言葉遣いが荒くなる。その迫力に俺は気圧されそうになった。
「恐れるな、お前が自分で戦って勝つって決めたんだ。ならば逃げるな! お前には俺がいる! 仲間がいる! どこに恐れる要素がある!? 心配するな、お前は俺が死んでも死なせない。お前の仲間もだ!!」
ボルクが力強い言葉をかけてくれたおかげで俺は気をしっかり持てた。
「ボルクも死なせない。みんなで生きる!」
俺は力強く言った。
「うるせぇーんだよ!! てめーら全員死ね!!!」
そう言って多数のワイバーンが突進してくる。
俺はその中の一体を鱗で覆った右手で殴る。が、止められ腕をつかまれてしまう。そのまま俺は空中に連れてかれ、思いっきり地面に向かって投げられた。
でも地面に当たる直前に翼も出してないのにふわりと体が浮いた。蒼井さんだ。
蒼井さんは別のワイバーンの相手をしながら俺を助けてくれたのだ。
「タツ! 後ろ!」
ボルクが叫んだ。
俺はその声で後ろを向くと、二体のワイバーンがこっちに向かってきていた。
俺は両手から二体のワイバーン目がけて全力で電撃を出した。一体には当たったが、もう一体にはよけられた。
避けたワイバーンがこっちに突進してくる。当たった方もまだ戦闘不能にはなっていない。
「ぐ……!」
俺は突進してきたワイバーンにつかまり口の中に手をいれた。思いっきり噛まれる。飛んでいるワイバーンにぶら下がる形になり、自分の重みでギザギザの牙が腕に食い込み、腕が千切れるんじゃないかと思うほど痛い。でも俺はその痛みに耐えながら、その口の中で思いっきり電撃を出した。
「があぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そのワイバーンは叫び、口から煙をだし倒れる。
もう一体は鋭い爪で俺を切り裂こうとしてきた。でも一度電撃をくらっているため動きは鈍く、それは避けることができた。
俺はそれを避け、そのワイバーンの後ろから電撃を出す、瞬間別のワイバーンに背中に突進され標準がずれ、外れてしまう。
俺はそのワイバーンを振り向きざまに電撃を纏った拳で殴った。
俺の拳はワイバーンの頭に直撃し、そいつは地面にたたきつけられる。そしてそいつをもう一度殴った。
「ぐあぁ!」
背中を切られた。
俺は反射のように腕を振るが当たらない。前を向くと別のワイバーンが腕を振りおろしてきた。
俺の左目あたりに爪が当たった。
ズバッ!!
と音がして、左目が開かなくなる。ぬるっとした液体が流れてくる。
「竜樹!!」
海香の声が聞こえた。
振り向くと海香が数体のワイバーンに囲まれていた。足元には一体倒れている。
海香の奴、自分がピンチなのに人の心配しやがって!
死角になっている左側から攻撃された。かなり高温の火を噴いてきている。俺は左腕で何とかガードしようとする。でもその火の中から別のワイバーンが出てきて頭突きされた。
俺はボキボキと骨が折れる音と共に少し先まで飛ばされた。体が動かない。
「竜樹!」
今度は姉ちゃんの声だ……。
その声の方を向くと姉ちゃんが頭から血を流し、倒れていた。顔をあげ、俺の方を見ている。
「みんな!」
蒼井さんはワイバーンの相手をしている。
「くそッ……数が多すぎる……そっちにフォローに行けない……」
蒼井さんがワイバーンの攻撃をさばきながら言う。
姉ちゃんの方を見ると後ろにはリーダー格の奴がいた。
「まずはてめーからだ!」
リーダー格の奴はそう言い姉ちゃんの後ろで鋭い爪を振り上げた。
「死ね」
そう言って爪を勢いよく振り下ろす。
くそ! 電撃が出ない……! なんでだよ。このままじゃ姉ちゃんが死んじゃう。助けなきゃ、助けなきゃ。
「姉ちゃ――――――――ん!!!!」
俺は手を伸ばして叫んだ。




