飛行移動
出発の日を迎え、俺と蒼井さんは準備を済ませ、リビングで女子達を待っていた。
「竜樹君、忘れ物とかない?」
「大丈夫」
何度もチェックしたしな。
「そういえばさ、イギリスのどこら辺に行くか聞いてる?」
「確かロンドンって言ってたよ」
「飛行機の時間は何時?」
「それなら心配いらないよ」
蒼井さんがちゃんと時間は把握してるのかな?
蒼井さんとそんな話をしていると、女子達が準備を済ませリビングに集まってきた。
「みんな集まったね。じゃあ出発するよ」
蒼井さんのその掛け声とともに、空港へ出発した。
……………と思ったけど何故か空港には行かなかった。
庭に出ると蒼井さんは立ち止まり、俺達の方を向いた。
「昨日ボルテックスから言われたんだけど、移動も修行の内、ということでイギリスまで飛んで行きます」
「「「は!?」」」
俺と姉ちゃんと海香は声を合わせて驚いてしまった。
「幸いここにいる幻獣達はみんな飛べるらしいので、力の制御と体力をつける目的で、飛びます」
「ちょっと意味わかんないだけど……」
俺がそう聞いたけど、みんな同じことを思ってるようで嫌そうな顔をしている。
「だからここからイギリスまで飛んでくって―――」
「そう言うことじゃなくて、ここからイギリスってかなり遠くない? イギリス着く前に俺死んじゃうよ?」
「大丈夫だよ。途中休みながら行くし、食糧とか飲み物とかたっぷり持ってくから」
「でも……」
海香が不満そうに言った。
「でもとか言ってもこれはもう決定事項だから」
蒼井さんは妙な圧力のある笑顔でニッコリと言った。
――いくら休み休み行くとはいえ、かなり遠いので骨が折れそうだ。
「荷物はここに入れて」
そう言ってフラスは大きな袋を広げた。
「これは縮袋って言ってこの中に入れたものを袋ごと小さくして持ち運べるんだ」
フラスが説明をしながら、自分の荷物を入れた。俺達もそれに倣って荷物を袋に入れた。
フラスが袋の口を縛るとその袋は、手のひらサイズにまでちいさくなった。フラスはそれをポケットにしまった。
「じゃあみんな飛ぶから準備して」
蒼井さんはそう言ってリフの翼を出した。
あれ? この人前翼出さないで飛んでなかったっけ?
そんなことを思ったが口にはださなかった。
俺は翼を出し、チラッと海香の方を見た。その手にはよく漫画やアニメで見るような箒を持っていた。
「やっぱ魔女だから箒に乗って飛ぶの?」
やっぱり少し気になる。
「そうみたいよ。今回はソラスちゃんが私に入ってるよ。フラスちゃんは別の役割があるみたいだよ」
そう言われフラスの方を見るとフラスも箒に乗っていた。というか二人ともどこから出したんだろう。
「みんな行くよ!」
蒼井さんの掛け声とともに、みんな飛び上がった。
「イギリスはあっちだよ」
蒼井さんの先導でイギリスに向けて飛び始めた。
「みんな遅いよー!」
蒼井さんが俺達の少し先で大きな声を出した。その隣ではフラスがこっちを見ている。
「ちょっと待って……」
「速いよー……」
俺と姉ちゃんと海香は蒼井さん達から少し離れたところで飛んでいた。というか三人してへばっていた。
因みにもしもの時のために、フラスが俺達を周りから見えにくくしててくれてる。『スケーティング』という魔法らしい。簡単に言うと俺達を保護色にしてくれている。
「もう少しゆっくり飛ぼうか」
蒼井さんはそう言ってフラスと共にスピードを下げて、俺達の横に来てくれた。
「ありが…とう」
姉ちゃんは息を切らしながらお礼を言った。
「君たちはアクロバット飛行って知ってるかな?」
蒼井さんが突然聞いてきた。
「飛行機に乗っていろんな動きをするやつでしょ?」
おおざっぱな答えを姉ちゃんが蒼井さんの方を見ながら言った。
「そう、それをやってみようか」
蒼井さんはそう言って高く飛び上がりジグザグ飛行をした。しかもかなりのスピードで。カクンカクンと勢いを殺さないように曲がりながら飛んでいた。
「多分君達が思っている以上に難しいよ」
蒼井さんが俺達のとこに戻ってきてそう言った。あんなに速く飛んでたのに息一つ切らしていない。
「そんなことしてないで急ぐぞ」
ボルクがけだるそうにそう言った。
「まあまあ、息抜きってことでいいじゃないの」
蒼井さんが笑ってそういうとボルクは呆れたように鼻を鳴らした。
「まずは竜樹君からやってみな。ゆっくりだと誰でも出来るからなるべくスピード出してみて」
俺は言われた通りやってみた。スピードを出すと、空中なので足で踏ん張ることも出来ずに曲がりきれなかった。
「竜樹ー。なにやってんのー」
離れた場所から姉ちゃんにバカにされてしまった。
俺は一旦蒼井さんのとこに戻り、コツを聞いた。
そのコツとは、体全体で踏ん張ると言うなんとも雑なアドバイスでした。
次に姉ちゃんがやってみる。姉ちゃんはかなり速いスピードで飛んで行き、カクンカクンと蒼井さんほどではないが上手に成功させた。
「まじか……」
俺は若干凹んだ。
姉ちゃんは俺達のとこに戻ってきて笑顔でピースをしていた。
続けて海香が箒に乗ってチャレンジした。海香は体勢を整え蒼井さんのスタートの合図で発進した。
その箒の先からはジェット機のようなゴオォという音とすごい熱が出ていた。
スピードだけで言えば蒼井さんよりも明らかに早く、ジグザグできているかというと俺以上に出来ていなくて、ほぼまっすぐに進んでいた。
「速くない?」
俺がボソッと言った。
「あぁ、でもまっすぐだよ」
蒼井さんもボソッと呟く。
「うみ、どこまで行くんだろう……」
そういえば止まる気配も、戻ってくるような気配もない。
「どこまで行くんだーい!」
蒼井さんが叫んだ。
遠くで海香がこっち向いて何か言っているけど全然聞こえない。
「おい、あれ……止まれなくなってるぞ」
「あー……そう。……………!? 今なんて!?」
ボルクの言葉に俺は流れで答えてしまってからもう一度聞き返した。
「いやだから止まれなくなってる。というかあの状況、ソラスが楽しんでる。多分海香はパニクってる」
「あのガキんちょ」
俺はそう言って全力で海香の方に向かって飛んで行った。でも速すぎてなかなか距離が縮まらない。掛け声をあげてみても、バタ足をしてみても海香はどんどん離れてく。音が風のゴオォォォォという音しか聞こえず、それに遠すぎて海香がどんな状況なのかわからない。多分グロッキー状態なのはなんとなくわかるが。
突然視界に鳥が映った。どんな鳥かはわからないがこっちに向かってくる。
俺は邪魔だと思いながらも全力で飛びながらその鳥を避け、海香を追いかける。
どうにかして近づかないといけないがまったく近づけない。
そこで俺は海香の箒を見て思いつく。右と左の掌を後ろに向け、そこから最大出力で電撃を出してブースターのように使った。
するとさっきとは比にならないくらい速いスピードが出て海香に追い付き、そして追い越した。
その時チラッと海香を見たら、海香はやっぱりグロッキー状態だった。ソラスの楽しそうな笑い声も聞こえた。
俺はアホガキの笑い声に少しイラッとしながら先回りして、止まるために少し強く前方に電撃を出た。そして海香が飛んでくるコースに立って身構えた。
するとすぐにグロッキー状態の海香が飛んできた。
俺は気合を入れて、飛んでくる海香を思いっきり受け止めた。が、箒の先端が俺の急所に当たり、俺は声にならない声をあげ、海香を抱いたまま下に落ちていった。
ザッパーン。
幸いにもそこは海の上だった。
俺は片手で海香を抱き、もう片方の手で激痛が走る股間を押さえたまま浮き上がるために泳いだ。でも激痛のせいでまともに動けずどんどん沈んでいって意識がぼんやりしてく。
俺は遠くなっていく意識の中で何か硬いものに触れたのがわかった。
「……ぷはぁ!!! げほっ! げほっ! ……はあ……はあ……はあ」
気が付くと俺は黄色くて硬いものの上にいた。
「ここは……どこだ?」
近くには泡ふいて倒れてる海香がいた。
「オレの背中の上だ」
下から声がした。
声のした方を見てみるとボルクの顔があった。
「目が覚めたか。海香はまだ目回して気絶してるな」
「そうか、助けてくれてありがとな」
俺は呼吸を整えながらボルクにお礼を言った。
そのあと十分くらいして蒼井さんと姉ちゃんとフラスが追い付いてきた。それに合わせたかのようにソラスがバツが悪そうな顔をして海香から出てきた。
海香は五分くらい前に起きていた。
「よかった、みんな無事でとりあえず今日はもう休もう」
蒼井さんがそう言うと、フラスは魔法でモフモフとした雲のようなものをあたり一面に出し、その上に乗った。そしてポケットから小さな家の模型をだし、屋根についてるボタンを押して少し離れた。
するとその家はたちまち俺達が入れるくらいの大きさになった。
「さ、入って。今日はここで休もうね」
フラスは笑ってそう言ったあとソラスの方を見た。
「あと言い訳もたっぷり聞くからね」
フラスはそう笑顔で言って家の中に入っていった。
はっきり言ってかなり怖い。
ソラスは顔が青くなって家に入るのをためらってた。
でも蒼井さんがソラスの背中を押して渋々家に入っていき、俺達も後に続いて家の中に入っていった。




