姉弟の気持ち
俺の怪我や疲労はソラスが全部治してくれたため、普通に動くのになんら問題はなかった。
ボルクから二日後に出発すると聞いた。
今はボルクがフラスに頼みがあるらしく、俺はフラスのとこに来ていた。
「なに? 頼みって? あ、海ちゃんのスリーサイズが知りたいの? だったら本人に聞いてね」
フラスってこんな奴だったっけ?
「違うよ。俺じゃなくてボルクが頼みがあるんだってよ」
「ボルテックスが? なに?」
「急に済まないがこないだのようなちょっとした特訓空間をつくっってくれ。あそこまで広くなくていいし、時間も遅くしなくていい。外から見えなくしてくれるだけで大丈夫だ」
「いいよ。そのくらいの設備でいいならすぐできるよ」
そう言ってフラスは指をパチンと鳴らした。
「ほい出来た。前と同じように庭においてあるから」
「ありがとな」
前も思ったが、フラスは魔女の中でもかなりの実力者なのかもしれない。
因みに前にあった特訓空間はあんだけでかいとしまうのも大変らしく、昨日フラスがしまってしまった。
「タツ、行くぞ」
「え? 俺も?」
てっきり俺には関係ないと思っていたため、思わず聞き返してしまった。
「当たり前だろう。お前のために出してもらったんだぞ」
俺は言われるままそこに行った。
中に入ると、そこは前のように広くはなく、端が見えるくらいの広さで余計なものは何もない。
「タツ、力を使え」
「なんで?」
「………イギリスに行って専用武器を作るって話はしたろ? 武器は多少なり力が使えないと使えない」
「なるほど」
俺はそう返事して深呼吸した。
……大丈夫、できる。
俺は右手を前に構え、腕に力を入れた。
バリバリバリッ!
そう音がして電撃が俺の腕から放たれた。
……できた。
「ちゃんとコントロール出来たようだな。よくやった」
ボルクに褒められて少し嬉しくなってしまう。
「ありがとう」
「次はタツ、背中に力を入れて俺の翼を出してみろ。さっきのができたんなら、難しくないはずだ」
「……わかった。」
俺はそう言ってもう一度深呼吸をした。
「フッ!」
俺は背中に力を入れると、バサッという音がして見たことのある翼が出てきた。
「出せた! ボルク! 出せたぞ!」
俺は少し興奮してしまった。
「あぁ、よくやったな。ただ……」
「?」
ボルクが少し口ごもった。
「いや、何でもない」
なんだったんだろう………
「タツ、火月とカイエンとそれと、蒼井を呼んで来てくれ」
「え? うん」
俺はそう返事してからボルクと一緒にみんなを呼びに行った。
「呼んできたよー」
俺はみんなを連れて戻ってきた。
「火月、カイエン。オレ達少し模擬戦をしてくれ。蒼井は審判な」
ボルクはテキパキと指示を出した。
「なんで?」
「タツは少し力が使えるようになったが、戦闘になった場合は少し不安が残る。だから模擬戦してくれ。ルールは先に一発入れたほうが勝ち。寸止めでよろしくな」
急だがまあいいか、少しくらい慣れた方がな。
「蒼井、もしもの時は全力で止めに入ってくれ。お前なら止められるだろ」
「オーケー」
ボルクの言葉に蒼井さんが元気に返事した。
「じゃあ、始めるぞ」
「了解」
姉ちゃんが短く返事した。
俺と姉ちゃんは少し離れた位置に立ってお互いを見つめる。
「二人とも準備はいいかい?」
「いいよ」
「大丈夫」
俺達は返事した。
「竜樹、いくよ」
「オーケー、来い」
俺は姉ちゃんの問いかけに挑発的に答えてしまった。
「よーい……始め!!」
蒼井さんの掛け声とともに、姉ちゃんは背中からカイエンの翼を出し、高く飛び上がった。
「それ!」
姉ちゃんは左手から炎を俺に向けて発射した。
俺はそれをよけてから飛び上がり、電撃を姉ちゃんに向けて出した。
「甘いね」
姉ちゃんはそう言って、左手から出した炎を盾のような形にして電撃をはじいた。
「な……!」
まさかそんなことができるとは思ってもいなかった。
「あんたがへばってる間にも私は特訓してたんだよ」
姉ちゃんは余裕そうに言った。
………今気づいたけど、俺まだ翼と電撃しか出せないじゃん。姉ちゃんみたいに電撃の形を変えることも出来ないし。
「攻撃してこないの?」
姉ちゃんはそう言って、燃えた羽を数本飛ばしてきた。
俺は何とかその攻撃を避け、もう一度姉ちゃんに向けて電撃を出した。
また同じ方法で防がれる。
「効かな……い!?」
俺は出した電撃の影に隠れて姉ちゃんに向かっていた。
「残念でした」
俺はそう言って拳を振りおろそうとした。
でもそこでまたあの時の姉ちゃんの姿が思い出されてしまい、無意識のうちに拳が一瞬止まってしまう。
その隙に姉ちゃんが俺と距離を取るために数メートル後ろに下がって、燃えた羽を俺の方に数本飛ばしてくる。
やべぇ、当たった。
「終了~」
そう言って蒼井さんは燃えた羽を止めて、そう宣言した。
「勝者、火月ちゃん~。竜樹君の負け~」
「勝ち」
姉ちゃんはそう言ってピースをした。
そこにはいつの間にか海香やフラス達もいた。
「お疲れさま」
海香はそう言って俺と姉ちゃんにポカリを渡した。
「ありがと」
俺はそれを受け取ってからお礼を言って、羽と鱗をしまった。
「そういえばボルテックス」
「なんだ」
「なんで急に模擬戦なんかやろうっていいだしたんだ? 戦闘に慣れさせるってのもあるだろうが、本当の目的は他にあるだろう? なんだ?」
当の本人はそんな事気付かなかったのに、蒼井さんは何か気付いたらしい。
「……確かに戦闘に慣れさせるってのもあったが、本当はお前達二人の為だ。」
ボルクが俺から出てきて、姉ちゃんと俺を指さした。
「俺達のため……?」
「?」
俺は聞いた。
「火月、お前まだタツを怖がっているだろう?」
姉ちゃんは図星をつかれたようでバツが悪そうな顔をしている。
「やっぱりな……。遠距離攻撃ばっかでタツに近づこうとしなかった。タツが近づいてきたときもその場で一撃入れればよかったのに、お前はわざわざ距離をとった。タツに近づけないんだろう?」
ボルクは姉ちゃんをしっかりと見て言った。
「……………」
姉ちゃんは黙ったままだった。
「あとタツ、お前も火月を怖がっているな? いや、お前の場合は相手が海香でも同じようなことをする。仲間なら、信頼してるなら殴ることくらいできるだろう? こいつは強いから、信頼してるから、俺の攻撃なんかじゃ傷つかないって」
………確かに俺は、姉ちゃんを殴る直前にあの時のことを思い出してしまって、拳が止まってしまった。
「お前ら二人ともそんなんで、もしもの時にお互いを信頼しあえるのか? 背中を任せられるのか? もっとしっかりしてくれ」
ボルクが強い口調に、俺と姉ちゃんは何も言えなくなってしまう。
「海香と蒼井も協力してやってくれ」
二人ともゆっくりと頷いた。
「ほらお前ら罰としてから揚げ作ってこい」
ボルクがいつも通りの口調で言った。
「……はいはい」
おれと姉ちゃんは返事してキッチンに向かった。
から揚げってボルクが食べたいだけなんじゃ……とか思ったけど口には出さなかった。
竜樹と火月がキッチンに向かったあと蒼井は言った。
「少しきつく言い過ぎじゃないか?」
「かもな」
ボルテックスが少し口元をほころばせながら答えた。
「でもこれからはみんなを信頼していないとすぐに死ぬ。………オレらのせいで姉弟に溝を作っといて、それを埋めろだなんて勝手だよな……」
「でもボルテックスのおかげで私は竜樹やかづ、蒼井さんに会えたから感謝してるよ」
海香はそう言って微笑んだ。
「お前らもタツや火月達と仲良くやってくれ」
ボルテックスは優しくそう言った。
「うん!」
「りょーかい」
二人とも笑顔で返事した。




