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幻の獣と人の世界  作者: お終い
第1章【竜王キング編】
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休息中の青春

 目を開けると、明るい光とソラスが視界に入ってきた。

「……っ……」

 起き上がろうと思ったけど全身が痛くて動かなかった。

「お、起きたか。お前達ー! 竜樹が起きたぞー!」

 ソラスがみんなを呼んでいる。

「竜樹!」

 すると真っ先に海香が来て俺に抱き着いてきた。

「よかった……。起きてくれて………。心配したんだから……。」

 海香が強く、強く、抱きしめてくる。まるで俺が生きてるのを確認するかのように。

「海香海香! 痛い痛い死ぬ死ぬ死ぬ!」

 二つの比較的小さ目の山が当たっていたが、痛みで楽しめなかった。

「あ、ごめん」

 そう言って海香は俺から離れた。少し残念だったような気もする。

「よかった。起きたんだね」

 姉ちゃんがほほ笑みながらそう言った。

「これも全部ソラが治癒してあげたおかげだぞ」

 ソラスはそう言って胸を張っている。

「海香ちゃんもずっと竜樹君に付き添ってたんだよ」

 蒼井さんがそう言うと、海香は少し顔を赤くしてうつむいてしまった。。


「盛り上がってるとこ悪いが、少し真面目な話をしていいか?」

 ボルクの言葉にみんなが一斉に黙った。

 因みにボルクは俺が寝込んでいる間、俺の負担を増やさないようにずっと俺の外にいてくれた。

「この間の襲撃で近くまでキングの手の者が近くまで来てることが分かった。もうすぐここもバレるだろう。だからタツが治り次第、ここを発とうと思う。みんなは構わないか?」

 最初に答えたのは蒼井さんだった。

「僕は構わないけどどこに行くの?」

「一度今イギリスによってから、雲空島(うんくうじま)に行く」

 ボルクが聞いたこともない場所の名前を口にした。

「どこそれ?」

 俺が言おうとしたけど先に姉ちゃんに言われた。

「実界の空に浮かぶ島だ。その島は常に雲に隠れ、人間には見つけられていない」

 そんなとこがあったんだ。

「幻獣達も知ってる者は少ない」

「そこにはどうやって行くんだい?」

「飛んでく」

「え?」

 蒼井さんがそう聞くとボルクは驚きの答えを言ったので思わず聞き返してしまった。

「だから飛んでく」

「ボルテックスとかカイとかがでしょ?」

「そうだ」

 なんだそういうことか。

「そういえば何でイギリスに行くの?」

 そう言えばなんでだろう。

「オレの兄に会いに行く。そこでお前らの専用武器をつくってもらう。オレ達の力をより有効に使えるものだ」

「ボルクの兄ってドラゴン? ドラゴンに会いに行くの?」

 確か五人兄弟って言ってたっけ。

「そうだ。フレイムギアのとこに行く。ギアは長男だ。因みにオレは次男だ。武器はギアのお付きのやつが職人でな、まぁ……性格も職人気質なんでめんどくさい奴なんだがな、そいつにつくってもらう」

「出発は早い方がいいだろう。治癒には全力を尽くす。あと三日で竜樹の怪我も疲労も全部治す」

 ソラスが力強くそう言った。

「ボルクにも迷惑かけるな済まない」

「いいさ。パートナーなんだから」

 俺が謝るとボルクはそう言って微笑んでくれた。

「あとでから揚げ作ってやるよ」

「から揚げ!! ……楽しみにしてるぞ。」

 ボルクは尻尾を振りながら興奮を隠すように言った。

 嬉しくなったら尻尾を振るとか、こいつは本当は犬なんじゃないかと思ってしまう。

「ま、とりあえずゆっくり休んで万全の状態になってくれよ」

 蒼井さんの言う通りゆっくり休ませてもらうことにしよう。

「うん。今はゆっくり休ませてもらうよ」

 俺はそう言って目を閉じた。





「ボルテックス?」

 竜樹が眠ってから蒼井がボルテックスに話しかけた。

「大したことじゃないんだけどさ、から揚げ……好きなの?」

「あぁ。特訓初日の時にタツが作ってくれたんだ。あのサクサクの衣、噛むと溢れてくる肉汁、適度な味付け、もうあれは国宝レベルの食べ物だな」

 ボルテックスは興奮気味に答えた。

「そ……そうなんだ」

「ねえ、竜樹はもう暴走しない?」

 火月が真面目な顔でボルテックスにそう聞いた。

「おそらくな。最初の時は力尽きるまで暴れたが、今回は自分の意思で暴走を止めた。タツは確実に成長してきてる。次は威力はともかくとして暴走することはないだろう」

 ボルテックスが真剣な表情で言った。

 火月と海香はその言葉を聞いて、ホッとしているようだ。

「そういえば職人って幻獣なの?」

「そうだ。ウェアウルフ、平たく言えば狼人間だ」

「ウェアウルフ………」

 海香はそう聞いたが、実際ウェアウルフがどういうのかいまいち分かってないようだ。



「ソラス」

「なんだ?」

 ボルテックスがソラスを呼ぶと、ソラスは竜樹の治癒を続けながら返事した。

「治癒には三日かかると言ったな」


「かかるな」


「一日でいけるか?」


「い、一日!? 流石に難しいな……。何でだ?」


「タツに少し力を使わせる。そのくらい出来ないと武器は使えない。あいつ以外は全員問題ないが」


「でも流石に一日は……」


「ふぅ―――――、魔女の中でもトップクラスの治癒能力を持つソラスさんが出来ないとはな……」


「なにを言っても出来ないもんは出来ん」


「天才的な治癒能力を持ってるのに?」


「……」


「出来そうなのはソラスしかいないのにな……どうしようか」


「そこまで言うならやってやる! このソラス様に出来ない事はないのだ!」


 ソラスはちょろかった。なんだかんだ言ってもまだまだ幼女なのだ。

「……」

「……」

「……」

「ふふ……」

 蒼井と海香と火月は黙ったままだった。フラスだけはほほ笑んだ。





 そのあとソラスは本当に一日で治してしまった。

 そのかわりだいぶ疲れていたが。

「竜樹まだ寝てるの?」

 火月がソラスに聞いた。

「さっきトイレに起きたがまた寝てしまった」

「そう。ありがと、ソラスちゃん」

 火月がにっこり笑ってそう言った。





「ん……」

 起きると体中の痛みや疲労が無くなっていた。俺は体を起こし、周りを見渡した。ボルクは俺の体に戻ったみたいだ。

 俺は海香の家のベッドで寝ていた。

 俺が寝ていたベッドでは海香がベッドに突っ伏すように眠っていて、俺はそこで海香が自分の手を握っていたことに気づいた。

「看病してくれたのか……? ありがとな」

「ん……」

 海香を起こしてしまったようだ。。

「おはよう」

「あ、竜樹起きたの? もう体は大丈夫?」

「大丈夫だよ。ありがとな」

 俺がお礼を言うと、海香は顔を少し赤くしてほほ笑んだ。

 不覚にもドキッとしてしまう。

「お腹空いてない? 何か作るよ」

 海香が立ち上がり言った。

「じゃあ……杏仁豆腐と、喉も乾いたからポカリをお願い」

「うん! じゃあちょっと待ってて」

 海香はそう言ってキッチンに歩いて行った。

 そういえば海香が俺のことを竜樹って、呼び捨てで呼ぶようになってたな……。悪い気はしないからいいけど。




 二十分くらいして海香が杏仁豆腐を持ってきてくれた。ポカリは先に持ってきてくれていた。

「おまたせ」

 海香はそう言って近くにあったイスに座った。

「ありがとう」

 俺はそう言って杏仁豆腐が入った皿を受け取ろうとしたけど、何故か渡してくれなかった。

「……竜樹は病人なんだから……その……食べさせてあげる」

 海香はもじもじとしながらそう言うしぐさに、俺はドキッとしてしまい、自分の顔がほてってるのがなんとなくわかる。

「……じゃあ……お願いします」

 俺は少し口ごもりながらそう言うと海香はスプーンで杏仁豆腐を一口分とって俺に差し出してきた。

「口……開けて?」

 俺は言われるまま口を開けて杏仁豆腐を食べた。

「………ど……どう?」

 海香が味の感想を求めてきた。

「……おいしいよ」

 何とか答えたけど、恥ずかしくて海香の顔をまともに見れない。それは海香も同じようだった。

 俺はそのあとも海香が食べさせてくれる杏仁豆腐を無言のまま食べ続けた。

 恥ずかしくてなに喋ったらいいのかわからなかった。

「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」

 食べ終わった。でもまだお互い恥ずかしくて顔を見れない。

「じゃ……じゃあ私片づけてくるね」

 海香がそう言って部屋のドアをあけると、

「わあぁぁぁ」

「うおっ!」

「きゃっ!」

「な!」

 雪崩のようにフラス達が倒れてきた。

「な……な……」

「もしかして全部見てた?」

 海香に代わって俺が聞いた。

「若いっていいねえ~」

「私の弟にもついに春が来たか……」

「うみちゃん、押し倒しちゃえ」

「今のが青春ってやつか! こないだテレビでみたぞ」

 全員しっかりとみてたらしい。

「ち……因みにどこから……?」

 俺は恥ずかしさを抑えて聞いてみると、蒼井さんが口を開いた。

「えとね、『看病してくれたのか……? ありがとな』から。」

「最初からじゃねーか!!」

 俺は恥ずかしさのあまり手元にあったポカリの入ったペットボトルを蒼井さんに向かって投げつけてしまった。……外れたけど。

 すると急にずっと黙ってた海香がわなわなと震えだして叫び出す。

「バカ――――――!!!!!」

「ご!?」

 そう言って投げつけたお盆は、蒼井さんの顔に直撃した。

「す……すいませんでした……」

 そう言ってみんなそそくさと立ち去って行った。

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