制御
振り下ろされた拳が姉ちゃんにあたる直前。
「あつっ!」
ゴブリンはそう言って拳を引いた。
「こいつは私が足止めします。皆さん逃げてください!」
姉ちゃんの前にはいつの間にか出てきていたカイエンがいた。
でも狭い建物の中なので、体の大きなカイエンは満足に動けなそうだ。
「カイ! 絶対戻ってきてね!!」
姉ちゃんがカイエンの方を向いて叫んだ。
「大丈夫です。この程度なら。」
カイエンが落ち着いた声でそう言ったあと、ゴブリン達に向かって行った。
「―――行くよ」
姉ちゃんが前を向いてからそう言った。
俺と海香は頷いて走って外に出た。
「危ないッ!!」
突然建物の影からゴブリンが出てきて攻撃をしてきた。
「ガッ……」
俺は海香をかばい背中に攻撃を受けてしまった。
「竜樹君!!」
海香が叫びごえが聞こえてくる。
くそ……超痛え……骨折れたかも……
別のゴブリンが姉ちゃんに狙いを定めてしまった。ゴブリンはゆっくりと近づいて行って、右手に持っていた棍棒を勢いよく振り下ろした。
やめろ
やめろ
やめろ
「やめろォォォォォォォォ!!!」
俺の口からは大きな叫び声が放たれていた。
それとほぼ同時に伸ばした右手から電撃が発射された。
その電撃はゴブリンのほうにとんでいく。
ゴブリンはその電撃に気づき、後ろに一歩ひいてからこちらを見てくる。
「なんだぁ?」
ゴブリンがそう言った数秒後にはそのゴブリンに向かってもう一度電撃を放っていた。
だがそれもよけられる。
「グルル……」
唸り声が聞こえた。いや、俺が唸っているのか?
自分の意識はあるけど、少し朦朧としている。
俺がゴブリンの方に向かって走っている。そして右腕を思いっきり振り下ろす。
でもガードされた。続けてゴブリンに向けて放った左の拳は腹のあたりにあたる。
「グフッ……」
ゴブリンは壁に激突し、気絶した。
もう一体の方を見る。
「なんだよあれ? 聞いてねーぞ!?」
ゴブリンは逃げ出そうとしてるが、俺は地面を強く蹴り、ゴブリンの方に向かって走っていき思いっ切り殴った。
次は左手で殴る。
そこで俺は気付いた。
左腕にも鱗が出ていて、爪も鋭く尖っている。
もう一発殴るとゴブリンは気絶しているゴブリンの方へとんでいった。
殴る。
爪で切り裂く。
電撃を浴びせる。
ゴブリン達の意識は既にない。
攻撃をやめようとしても、体はいう事を聞いてくれずに攻撃を続ける。
血が飛び散る。
もうゴブリンは原型を留めてはいない。
それでも、攻撃は止まらない。
「竜樹君!もうやめて!!」
声が聞こえた。はっきりと聞こえた。
「グルルル……」
俺はその声の方を向く。そこには海香がいた。
「ガアァァァァァァァァァァァ!!!」
その方向に向かって自分の体が走っていく。
やめろ。
なにやってんだよ!
言う事きけよ俺の体!
止まれ!
でも俺の体は右の拳を振り上げていた。
やめろォォォォォォ!!!
竜樹君の肌にはたくさんの鱗が出ていて、それは人には見えなかった。
「た……竜樹……?」
かづがボソッと呟いた。
「うみ……うみ……どうしよう……竜樹が……また―――」
かづは私の方を見ながら、泣き出してしまった。
私だってどうしたらいいのか分からない。。
「タツ……とまれ! なにしている!」
ボルテックスが竜樹君に話しかけているが声が届いてない。
ドン!
ゴブリンが一体、もう一体のいる方にとんできた。
「ボルテックス! 竜樹君の体から出られないの?」
私はボルテックスに聞いてみるけど、出来たら既にそうしてるってのは分かっていた。
「今やってるんだがかなり強い力で引き寄せられてる! これじゃ出られない!」
竜樹君はゴブリン達を攻撃し続けている。その表情は不気味に微笑んでるようにも見えてしまう。
「竜樹君! もうやめて!」
私は竜樹君に向かって叫んでいた。そんな事では止まるわけないのに。
「グルルル……」
竜樹君が獣のように唸りながらこっちを向く。
竜樹君は鱗が顔にまででており、まるでトカゲ人間のようだった。まだ出会って数日だけど、その声も、顔も、いつもの優しい竜樹君のものではなかった。
やめて……竜樹君……
そう言おうと思ったけど恐怖のあまり、声が出ない。
竜樹君が殺気に満ちた目をして、あり得ないスピードで私の方に向かってくる。
私は目を閉じてしまった。
そして私めがけて拳が振り下ろされ――――――てこない?
私が恐る恐る目を開けると、竜樹君は自分の振り上げた右手を左手で抑えていた。
「逃……げ……」
竜樹君が僅かにそう言った気がした。
でも私は腰がぬけて立てなかった。手足も震えて動かない。
左手で押さえてるはずの右手が徐々に下に降りていく。。
「グガァァァァァァァァ!!!!」
竜樹君が急に獣のように叫び出す。その声に紛れて、ボキィ!という鈍い音が響いた。
「グアァァァァァァ!!」
竜樹君がまた叫んだ。
私は一瞬何の音かわからなかった。でもすぐに理解した。
竜樹君は自分の右腕を地面にたたきつけて、折ったのだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
竜樹君のその顔からは鱗が無くなっており、ボルテックスも中から出てこれたみたいだった。
「ご……めん……。怖……がらせて―――」
竜樹君はゼイゼイ言いながらそう言ってくれた。そして左手で私の涙をはらってくれた。
私、いつの間にか泣いてたんだ……。
「バカ………」
私はそう言って竜樹君を強く抱きしめていた。
「……ごめん」
私達はしばらくそのまま動かなかった。
「あの~……お熱いところすいません」
かづに遠慮がちに話しかけられた。
「早く帰って竜樹の治療もしなくちゃなんないんで……」
私は急に恥ずかしくなって、竜樹君を離してしまった。
「皆さん無事でしたか!?」
カイエンが元気そうに戻ってきた。
「ここら辺にいたゴブリン達はあらかた片づけました」
「ありがと、カイ。ちゃんと約束守ってくれたね」
かづはカイエンを撫でながら優しく言った。
「はい……」
カイエンは嬉しそうだ。
「そうだ、カイ。竜樹が怪我しちゃって、早くみんなのとこに戻らないと!」
かづが慌てたようにそう言った。
「傷のほかに疲労もひどそうですね。わかりました。皆さん私の背中に乗って下さい」
私たちはカイエンの背中に竜樹君を乗せ、私とかづも乗った。ボルテックスは自分で飛んでくようだ。
竜樹君はカイエンの背中で寝てしまったようだ。
少しして蒼井さん達のとこに着くと、蒼井さん達がかけよってきてくれた。事情はボルテックスがリフに通信で伝えてくれたらしい。
「竜樹をベッドに寝かせて! ソラが治す。」
ソラスちゃんがそう言った。
「ソラスは治癒に関しては天才的だからソラスに任せよう。大丈夫、すぐよくなるよ」
フラスちゃんが私を見てそう言った。
「わかった」
私は返事をして竜樹君をベッドに寝かせた。
「頼んだよ。ソラスちゃん」
「任せなさい!」
ソラスちゃんはそう言って竜樹君の治癒を始めた。




