英雄譚第一章 聖騎士アリシア・フォン・セレーネ
この物語は大体5話毎にサイドストーリーが挿入されます。
どれも物語の根幹に関わる話であり、本編にも繋がりますが敢えて分けて書いております。
なんかその方が雰囲気があって楽しいからです。
煙が、もう消えかけていた。
聖騎士アリシア・フォン・セレーネは、胸当ての襟元を、指で緩めた。
汗が冷え、首筋を伝って、鎧の内側で止まっていた。
足元の地面は、黒く焦げ、所々に赤い炎が、まだ小さく残っていた。
風が吹くたびに、白い灰が舞い上がり、
彼女の腰まで届く長い金髪を、いたずらにくすぐっていく。
半日前まで、ここには魔族の集落があった。
北の山脈の山間にある人目を避けるように存在する集落。
周囲の山肌を削って作ったかのような石造りの家屋が、十二軒ほど。
木造の建物も五軒ほどか。
井戸はふたつ。
子供が遊ぶのに十分な広さの広場。
家々の軒下には、薬草を干すための細い棚が幾重にも組まれていた。
集落の井戸の横には、洗濯物を干す縄が渡されていた。
その縄に、子供のものらしい小さな服が、数枚まだ揺れていた。
今は、柱の残骸が黒い骨のように天を指して、まばらに立っているだけだった。
銀色の美しい大樹が集落の中央に佇んでいる。銀の木は、焼かれていない。
大陸中央北西部、魔族の小集落。
非戦闘員中心の居住地。薬草栽培と質素な織物を営む、およそ二十名の共同体。
聖騎士アリシアが王国聖騎士団から下された作戦概要。
その作戦名は、「浄化」。
アルセイド王国は、魔王討伐から半年、この任務を繰り返しアリシアに命じてきた。
勇者の栄光を帯びた者たちに国が命じる、平和の為の後始末の仕事だった。
魔を焼き尽くす。残党を絶つ。
――教本の言葉で言えば、「大陸の平和を、完成させる」。
元、勇者パーティーの一人、聖騎士アリシアはその任を拝命した。
国の為。そして脅威に怯える国民達を安心させる為に。
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「――聖騎士様」
背後から、副官の声がした。
鎖帷子の上に革鎧を重ねた、三十代の男。
四角い顔。眉が濃く、口数が少ない男だった。
「制圧、完了しました」
アリシアは、振り返らずに、浅く頷いた。
「魔族戦闘員、五名。男性三名、女性二名。全員死亡を確認しました。
非戦闘員、十四名のうち、十三名の死亡を確認。
――残り一名、銀髪に二本の角を持つ若い娘が一人です。
戦闘中にまぎれ、ここから南東の森へ逃走しました。
追跡班をすでに編成済みです。聖騎士様、御指示を」
銀髪の、若い娘。
アリシアはその報告を、音の塊としてだけ耳に入れた。
意味をまだ脳には通さなかった。
翠の瞳が、焼け跡の中央に向けられていた。
崩れ落ちた屋根の下、灰の中に何か白いものが見えた。
他の景色と少し色が違っていた。
「わかった。少しだけ、待て」
アリシアはそれだけ言って歩き出す。
白銀の甲冑が一歩ごとに、かしゃり、かしゃり、と鳴った。
崩れた屋根のそばで、膝を折った。
鎧が、地面で低く鳴いた。
灰の中から、彼女は小さな木彫りを拾い上げた。
子供の手のひらに収まるサイズ。
木を削って作った、一匹の兎だった。
丸い顔。短い前足。長い耳。
――片方の耳は焼け落ちて、無い。
アリシアはそれを掌に乗せたまま、しばらく動かなかった。
兎の背中を指先で触れた。
熱はもうほとんど残っていなかった。
「聖騎士様」
副官が、後ろから声をかけた。
「追跡班に、指示を」
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アリシアは答えずに、そのまま立ち上がった。
そして兎を手に握ったまま集落の奥へ歩みを進めた。
歩くほどに彼女は気づいていく。
――まただ。
ここは「魔の巣」ではない。
崩れ落ちた柱の向こう。
焼け残った土間の奥に割れた陶器が散らばっている。
拾い上げると、薬研だった。
薬草を粉に挽くためのすり鉢。
欠片の一つに、黒い粉がこびりついていた。
指で取り、鼻に近づけた。
焦げてはいたが元はたしかに、何かの葉の香りだった。
別の家屋の下には瓶が砕け散っていた。
数えると大小合わせて、三十本は下らない。
液体はとうに蒸発していたが、ガラスの内側に青と赤と緑の残滓が薄く固まっていた。
ポーションの瓶。
ここはただの薬師の家だ。
――魔族であることには、変わりないが。
頭の片隅で誰かがそう囁いた。
だが囁きは、灰の匂いにかき消されていく。
壁際には薬草を吊るすための麻紐が焦げて地面に垂れている。
紐の端々に炭化した葉の塊が、ぼろぼろと崩れて残っていた。
よく見ると葉の種類は様々だった。
解熱。止血。痛み止め。解毒。
アリシアは薬草の心得も一通りはある。
ひと目でここがそれなりの技量の薬師の家であるとわかった。
――子供が熱を出した時に飲むような薬。
――怪我をした時に傷口に塗るような薬。
――老人が夜に眠れない時に煎じるような薬。
そういう薬を、ここの誰かは、作っていた。
魔族が、ただ他の魔族の誰かのために作っていただけだ。
足先でそっと、灰を掻き分けた。
灰の下に小さな食卓の痕跡があった。
木の皿が三枚。木の匙が、二本。
皿の一枚には煮物のような何かが、炭になって残っていた。
粥か、スープか。
量から察するに大人二人と、子供一人分。
皿の横には縫いかけの小さな布があった。
赤と白の糸で花のような模様が途中まで、刺繍されていた。
焼け残った端だけが地面にかろうじて形を保っていた。
アリシアの胸の中で何かが、軋んだ。
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教本には、書いていない。
魔族は、人間の血を啜る獣である。
魔族は、文化を持たない。
魔族には、家族という概念がない。
魔族に、慈悲は、不要である。
教本はアリシアが五歳のときから読んできたものだった。
セレーネ公爵家の書斎で父が彼女の膝の上に置いて一頁ずつ読み上げさせた本だった。
その本のどのページにも小さな兎の人形のことは、書いていなかった。
三人分の食卓のことも、焼けた刺繍のことも、薬師の家のことも、
何ひとつ、書いてはいなかった。
アリシアは兎の人形をそっと、甲冑の懐に仕舞った。
鎧と胸の間に小さな温度がひとつ加わった。
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「聖騎士様」
副官の声がさっきより硬くなっていた。
時間がない。そういう声だった。
アリシアはゆっくりと振り返った。
そして、副官の目を正面から見た。
「追跡班を――呼び戻せ」
副官が眉を寄せた。
「は?」
「聞こえなかったか。追跡は、不要だ」
声は自分でも驚くほど平らだった。
副官はすぐには返事をしなかった。
数秒アリシアの顔を見ていた。
それからゆっくり口を開いた。
「聖騎士様。王命では――魔族の残党は、一人残らず浄化せよ。と」
「聖騎士アリシアの命令だ。皆に伝えろ」
アリシアは短く言った。
翠の瞳が煙の中で冷たく光った。
「『娘は森の中で獣に食われるか、飢えて倒れる。自然に帰り、浄化される。
追う価値はもうない』」
副官はまだ数秒、沈黙した。
それから背筋を伸ばし、右手を胸に当てて敬礼した。
「――御意。追跡班、呼び戻します」
副官が去った。
焼け跡にまた風が吹いた。
白い灰がくるくると舞った。
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副官の足音が遠ざかったあと、アリシアはゆっくり目を閉じた。
閉じた視界の中にまたあの景色が浮かんだ。
半年前。
魔王城、デモニア高地。
勇者ライゼル。
魔導士フォビアン。
狩人セルジュ。
神官エレーナ。
そして聖騎士アリシア。
勇者パーティの五人はデモニア高地へ入った。
それぞれが特殊な能力を持つ、六柱率いる魔王軍との戦い。
デモニア高地での戦いは生半可なものではなかった。
そしてついにあの日、彼女達は命を懸けて進み続け、そして辿り着いた。
玉座の間で魔王ゼヴァルスと対峙する。
老いていたとはいえ、魔王ゼヴァルスは未だ強大な力を持っていた。
激しい戦いの中、傷つきながらも、勇者が聖剣ルミナスを魔王の胸に、
突き刺した瞬間すべてが終わったと思えた。
だがそれは、始まりでしかなかった。
世界が終わりに向かう日が始まる。そして彼女達の苦悩の日々も始まった。
決着の後、セルジュが「残党の捜索を」と、階下への階段を降りていった。
アリシアもその後を続いた。
二人は二手に分かれて地下に降りて回廊を進んだ。
アリシアが向かった先には広い部屋があった。
そこは――
ただの厨房だった。竈には火がついていた。
火はまだ、揺れていた。
鍋には煮物があった。湯気が、立っていた。
長い木の食卓。そして椅子が、並んでいた。
そして厨房の一番奥。壁際の、小さな木箱の陰に。
身を寄せ合った魔族の、二人の子供がいた。
角が生えている。小さくて細い。
子供の角。
大きい子供は、五歳ほどに見える。
小さい子供は、二歳か、三歳ほど。
魔族の見た目と年齢は人間とは違うが、それでも。
二人はどう見ても子供だ。
この城で下働きをしているのか、いやそれにしてはまだ小さすぎる。
アリシアは、魔王の城にまさか子供がいるとは思わなかった。
大きい子供が、小さい子供を、後ろ手に庇っている。
そしてアリシアの方を、ただじっと、見ている。
その目は憎しみでも、恐怖でもなく――
ただ、「わからない」という目だった。
アリシアは静かに剣を、構える。
指先には光魔法が、灯った。浄化の光でもあり、魔を焼く光でもある。
しかし指が、震えている。剣先は、下がっていく。
その時、セルジュもこの厨房に入ってきた。そして言った。
「アリシア。上でライゼルが呼んでる。ここは俺に任せな」
そしてアリシアは来た道を戻り、階段を、上った。
階段を上っていく途中、背後から、
自分が先程までいた広い部屋から、小さな短い声が、叫び声のようなものが、
二つ、聞こえた。
鎧の隙間を冷たいものが、伝った。
彼女はあの日からその二つの声を夜ごと夢に見るようになる。
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焼け跡で、アリシアはゆっくりと、目を開けた。
南東の方角を見た。
深い森が地平線まで続いていた。
鳥が森の上をひとつ旋回した。
ゆっくりと西へ去っていった。
銀髪の若い娘。
その魔族の娘は、あの森のどこかにいる。
森の中を、一人で逃げている。
ひょっとするともう、どこかで倒れているかもしれない。
獣に、襲われているかもしれない。
飢えて、歩けなくなっているかもしれない。
あるいは、誰か別の賞金稼ぎに、見つかるかもしれない。
それでも、アリシアは彼女を、追跡させなかった。
「どうか、生きていて」
口の中で呟いた。
自分の声が自分の耳に届かないほど、それは小さい声だった。
「生きていて、ほしい」
指先に光属性の力がかすかに灯った。
白く温かい光。
浄化の光は魔を焼く光。
だが同時に、それは傷を癒す光でもある。
光属性は使い手が何を願うかで形を変える。
アリシアはこれまでずっと魔を焼く光としてこれを、使ってきた。
だが彼女はもう、何も焼きたくなかった。
指先に灯る光を、そっと、消した。
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副官が、戻ってきた。
「追跡班、呼び戻しました。 ……娘の行方は、不明のままです」
「ご苦労だった」
「聖騎士様」
「なんだ」
「お顔の色が、よろしくありません。
今夜の野営は中止し、本日中に中継都市まで戻られては?」
「そうしてもらおう」
アリシアは頷いた。
それから、付け加えた。
「本部に伝令を。
――今回の作戦を最後に、私は、セレーネ領に戻る。
当面、次の作戦には、参加できない」
副官が目を見開いた。
「当面、とは…」
「わからない」
アリシアは短く、答えた。
「撤収の準備をせよ」
副官は何か言いかけて、結局何も言わなかった。
敬礼だけして去った。
風がまた、吹いた。
アリシアは最後に焼け跡の中央に、立った。
美しい、銀の木を見上げる。この木は焼いていない。
これだけは、焼いてはいけない。アリシアはそんな気がしていた。
部下たちにはこの木を焼けば瘴気があふれ出る。そう伝えている。
胸の懐に仕舞った木の兎を、甲冑の上から手のひらで押さえた。
それからゆっくりと、背を向けて歩き出した。
甲冑の足音が灰の上を、離れていった。
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三日後。
アルセイド王国南部。セレーネ公爵領。
白い大理石の柱が立ち並ぶ広い玄関ホール。
戸を開けた時アリシアの父が待っていた。
セレーネ公爵、バルドメル・フォン・セレーネ。
五十代半ば。娘と同じ、金髪。
髭に、白いものが、混じり始めていた。
胸を張り、両腕を広げて、娘を迎えた。
「お帰り、アリシア」
「――ただいま戻りました、お父様」
アリシアは、膝を折り、頭を下げた。
甲冑を、脱いでいなかった。
道中の塵と、焼け跡の煤が、胸当てに、薄く残っていた。
「ご苦労だった。見事な戦果だと、本部から報告を受けた」
「…………ありがとうございます」
「誇らしいぞ、アリシア。 我が娘は、魔王を討った勇者パーティーの一員であり、
今、大陸に、更なる平和をもたらしつつある」
アリシアは、頭を下げたまま、何も言わなかった。
父は、娘の沈黙を、謙遜と受け取ったらしかった。
満足げに微笑み、片手を、差し出した。
「疲れたろう。 風呂の用意がある。母さんも、お前の顔を見たがっている」
「――お父様」
「うむ」
「少しだけ、一人にしてください」
父は少し首を傾げた。
だが、娘の目の下の隈を見て手を下ろした。
「わかった。夕食の時に改めて話そう」
父が、去った。
玄関ホールにはアリシア、一人になった。
甲冑の重さが肩と腰にどっとのしかかってきた。
今までこんなに重いと、感じたことはなかった。
---
自室に入り扉を閉めた。
扉に背を預けてずるずると、座り込む。
甲冑の音が広い部屋にやけに大きく響いた。
窓の外はよく晴れていた。
セレーネ領の穏やかな昼下がり。
庭に咲く白い花が風に揺れているのが、見えた。
五歳の頃、父とあの庭を歩いた。
父は、彼女の手を引きながら言った。
――アリシア。お前は、正しいことをする子に、なりなさい。
――この家に生まれた娘の、務めだ。
正しいことを、する。
幼い自分は、頷いた。
何が正しいのかもわからないうちから。
騎士団に入り、光属性の才能が開花し、選ばれて勇者パーティーに加わった。
そして魔王を討った。
帰ってきて、讃えられた。
そしてまた、国の命令で、剣を振った。
ずっと、正しいことをしているつもりだった。
――正しいことを、していたはずだった。
アリシアは胸の懐に、手を入れた。
小さな木の兎がそこにあった。
片耳の焼けた子供用の兎の人形。
膝の上にそれを、置いた。
翠の瞳からひとしずく涙が、落ちた。
兎の焼けた耳の上に、落ちた。
一滴だけ、だった。
それ以上は、出なかった。
彼女の中で涙はもう、すり切れていた。
---
そして夜。
折角の家族の食事なのに何を話したのかももう覚えていない。
ベッドには入らなかった。
甲冑を脱いだ。
身体を洗った。
白い寝間着の上に、薄いショールを羽織り窓辺に腰掛けた。
三つの月が昇っていた。
青白い大きな月と、赤みを帯びた小さな月がふたつ。
アリシアの立つ南部では、それらはただ穏やかに、遠かった。
北の空を彼女は見た。
あの焼け跡があるのは、北西の方角。
そこから南東へ――深い森が、広がっている。
森の中を銀髪の娘が、今も一人で、歩いているのだろうか。
あるいは、倒れているのだろうか。
アリシアは彼女のことを何も知らない。
名前も、歳も、家族も、知らない。
ただ、銀の髪色であることだけ、副官の報告から知った。
焼け跡に残された薬師の家はあの娘の家だったかもしれない。
三人分の食卓はあの娘の家族のものだったかもしれない。
兎の人形は、あの娘の妹か弟のものだったかもしれない。
そしてそれらを、全部奪ったのは、他ならぬアリシア自身だった。
彼女は、部下に命令を下した。
部下が火を放ち、部下が剣を振った。
だが、命令を下したのは自分だった。
「ごめんなさい…私は…もう…」
口の中で誰にともなく、呟いた。
誰にも聞こえなかった。
届くはずも、なかった。
---
甲冑を脱いでも痛みは消えなかった。
家に帰っても夢の中の声は、消えなかった。
讃えられても焼け跡の静寂は、耳の奥に、残り続けた。
アリシアは窓辺に木の兎を置いた。
月の光が兎の焼けた耳を白く照らした。
指先に光属性の力を、もう一度そっと灯した。
白い、温かい光。
その光を、アリシアは北の空に向けて、かざした。
焼く光ではなく、癒す光として。
銀髪の娘がどこかで、この光を感じるとは、思わない。
届くとも、思わない。
それでも、彼女はその光をしばらく灯し続けた。
「あなたは、生きて…」
もう一度、呟いた。
「生きていて…。
――私の光が今度こそ、正しく使えるように…」
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翌朝。
父が、扉を叩いた。
「朝食の時間だ、アリシア」
返事はなかった。
父が扉を開けた時、娘は窓辺の椅子の上で膝を抱えて、眠っていた。
白い寝間着のまま。
甲冑は部屋の隅に雑然と積まれていた。
窓辺に小さな木彫りの兎が、朝日を浴びて立っていた。
父は何かを理解した顔になった。
それ以上、声をかけなかった。
扉を、静かに、閉めた。
扉が閉まる音でアリシアは、目を覚ました。
部屋は朝の光に満たされていた。
彼女は立ち上がらなかった。
窓辺の兎をしばらく、見ていた。
それから、ひとつだけ呟いた。
「お父様」
誰にも届かない声で。
「私はもう、戦えない。」
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アルセイド王国から遠く離れた中央回廊の森の中。
銀髪の若い娘は、倒れた木に背を預けていた。
魔力は、尽きかけていた。
左の足首は腫れている。
右手の杖は、まだ手放していなかった。
彼女の背後から、足音が近づいてきていた。
一人ではない。
複数の男の足音だった。
「逃がすな」
「角が、でかいぞ。上物だ」
娘は杖を、ぎゅっと握り直した。
深紅の瞳が、ほんの少し震えていた。
だが、まだ泣いてはいなかった。
――遠い空の下、だが確かに同じ空の下。
――ひとつの光が誰にともなく、ただ彼女のために灯されていることを、
――誰も知らなかった。
運命は既に交錯した。そして全てが今、始まろうとしていた。




