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ブリキのアイ  作者: 桐丹穂
ガーネットの章
8/23

七話:スーパーロボット大変

「……リンクス。機嫌直しなよ」


 昨日の一波乱は、結局ダンパーとパフィが収めてくれた。

 あの少女はパフィに渡せたから、今は検査も終えて休んでいるだろう。

 追加の反省文を言い渡されたリンクスは、部屋に戻ってくるなり露骨に拗ねている。布団で横になり、大量の工具が掛けられた壁の方へ向いていた。


「今回はこの程度で良かったじゃん……そりゃあ、ジェイクとは色々あるだろうけどさ……向こうの言い分は間違ってないし、リンクスだって、自分の思う事を正直に言っただけじゃんか……だからさ……」


 反応は無い。余程思う事があったのか、ここまでの状態になる事は初めてだ。こういう時に共同部屋というものは厄介限りない。


「よー!聞いたぞ弟妹達!ジェイクと死ぬほど揉めたんだって?」

「トーマン……まぁ、揉めたって言うか、食い違ったって言うか……」


 自分でも自信は無い。あの時はとにかく必死で、全部終わって落ち着いた頃には、自分が何を言ったのかもまともに覚えていなかった。ただ覚えているのは、随分乱暴に頭を掻き乱してきた手の感触だけ。……彼女は少しだけ笑っていたような気がする。


「ふーん……?そうだ。お前達に話があってな。お嬢ちゃんを拾ってきた場所で、何か見つけたんだろ?近い内に第二地区の後発調査隊が話を聞きに来るってよ」

「えっ……何で」

「お前達の報告にあった円柱型の巨大設備だったか?あと廃材の山。無かったらしいぞ」

「はぁ!?」

「山は木っ端微塵状態。設備も徹底的にぶっ壊されてたってよ」

「そんな馬鹿な事あるかよ!入れ違いの調査だったんだろ!?」

「落ち着けって。確かに証拠隠滅にしちゃ手際が良すぎる。何よりも後発組が辿り着く前に起きていた出来事だ。つまり……」


 トーマンが、こちらを向く。



「――お前達、()()()()()()()()()()()()()()()()



 記憶の中のマネキンと目が合った。

 あいつの顔に残っていた、握り潰すかのような5本の凹み跡。穴の開いた身体。バラバラの手足。遺棄現場のような屑山と、冷たい揺り籠。

 全部、消えた。半日も経たずに。何もかも。


「まぁ……あまり怯えなくていいと思うぞ?何を見たのかは知らないが、悩みの種が向こうから無くなってくれたんだ。後発組もそこまでの危険性は無いって方向で行くってよ」

「……うん」

「ほら、あの子のお見舞いもあるだろ!笑っていこうぜ!リンクスも拗ねてると可愛い顔が台無しだぞ!元気出せよ!」


 相変わらず反応は無い。怖いもの知らずのトーマンは彼女の顔を覗き込み、横になっている身体を揺する。


「——ぐがぁー……」

「寝てらぁ」

「バカヤロー!」


 自分史上一番の力で、クッションを投げつけた。



 ◇



「何で拗ねてんの?この坊ちゃん」

「今回はお前が悪いよ。本当に」

「えぇ?ゴメン」


 バカを叩き起こしたことで、ようやくいつもの日常が戻ってきた。無論、先ほどの話はまだ胸の内で尾を引いている。最初から無かった事にされたのか。或いはアイが保護されたのを見計らっての行動か。

 〈アルバトロス〉なら答えを知っているかもしれないが、今はあのコンピューターに近づきたいとは思わなかった。


「あー……暇だ。何か仕事入ってねぇの?」

「昨日の今日でよくそんな気分になれるよ」

「リンクスの場合、動いた方が性に合うんだろうさ。そうだ!お前達のアレ、どうなったんだよ!」

「アレぇ……?アレなぁ……」


 リンクスがちらりと目配せをする。頼むという事らしい。どこまで面倒くさがりなのか。


「じゃあガレージに向かおうよ。ここからなら近いし、あの子のお見舞いの前にさ」


 共同部屋から出て、巨大な螺旋状の岩回廊を降りていく。柵の向こうに広がる、直径五キロメートルのセンターホール。そこでは数十基のエレベーターをフル稼働させ、人が往来している。チェーンをかき鳴らしながら移動する人間は、第二地区の産業エリアからくる卸売業者や、第一地区の市民街から買い出しに行く家族連れ。地上からいちばん近いここ第三地区工業エリアからは、設備の点検・アフターサービスに向かう者など様々だ。


「で?噂のスーパーロボットの進捗は?」

「正直言ってどん詰まりだよ。傷は多いけれど外装の役割としては問題なし。有り合わせの部品の割には形になったし、コア周りの整備やチャンネル調整も完璧なんだ。多分だけど、元々のマルチフレームが効いてるんだと思う。適合するパーツが思いの外多かったおかげで想定より三十%早く組み上げと初期設定までは出来たから。だから残す問題は既存のCPUとの兼ね合いで――」

「……リンクス」

「全部ばっちり問題なしでも動かねぇって言ってんだよ脳筋」

「そういうことか!」


 二度と説明してやるものか。それで伝わるなら自分が伝えればよかっただろう。畜生め。

 また拗ねる事になりそうだったが、それより前に大きな手が自分の頭の上に乗せられた。


「ゴメンなぁ、俺の頭が悪いばかりに。でもウチの弟と妹にも教えてやりたいぜ!今度先生になってみないか?」

「……考えとく」

「おう!お前が来てからリンクスのスーパーロボット計画が一気に進んだもんな!順調で結構!」

「動かねぇって言ってんだよ脳筋。話聞いてたか?」

「お前達が揃えば動いたも同然だろうに。ほら着いたぞ!ガレージも懐かしいなぁ、おい!久しぶりだ!」


 暑苦しい。もう片方の手で頭をガシガシにこねくり回されているリンクスも、がっちりと拳を握っている。どうやら顔に向けての射出体制に入ったようだ。今だけは応援する。行け、やれ。

 扉の前で一波乱起きる、まさにその時だった。


『プリン!』


 幼い子供の声がした……と、思う。


『ロールキャベツ!』


 どうやら気のせいでは無いらしかった。二人も会話や動きを止めて、扉から眼を離さずにじっとしている。


『トンピー!コンビーフ!ルーローハーン!』


 誰よりも早く動いたのはリンクスだった。腰から拳銃を抜き、トーマンに合図を送る。それを確認するや、彼は思いっきり扉を蹴破った。

 岩回廊の力無い照明がぼんやりと室内に入り込む。風の巻き上げる粉塵がキラキラと不釣り合いな輝きを放ち、その輝きの中に紛れてひときわ大きなふたつの明かりが、明滅を繰り返しながらも輝いていた。


『カックニーン!ジッコー!ジッコー!ジッコー!』

「……はぁ?」


 間の抜けたリンクスの声。

 声の主はフレキシブルホースの両手をブンブン振り回しながら、駄々を捏ねた子供みたいに床でのたうち回っていた。



 そう――僕達の、スーパーロボットが。

よろしければコメント等頂ければ幸いです。

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