七話:スーパーロボット大変
「……リンクス。機嫌直しなよ」
昨日の一波乱は、結局ダンパーとパフィが収めてくれた。
あの少女はパフィに渡せたから、今は検査も終えて休んでいるだろう。
追加の反省文を言い渡されたリンクスは、部屋に戻ってくるなり露骨に拗ねている。布団で横になり、大量の工具が掛けられた壁の方へ向いていた。
「今回はこの程度で良かったじゃん……そりゃあ、ジェイクとは色々あるだろうけどさ……向こうの言い分は間違ってないし、リンクスだって、自分の思う事を正直に言っただけじゃんか……だからさ……」
反応は無い。余程思う事があったのか、ここまでの状態になる事は初めてだ。こういう時に共同部屋というものは厄介限りない。
「よー!聞いたぞ弟妹達!ジェイクと死ぬほど揉めたんだって?」
「トーマン……まぁ、揉めたって言うか、食い違ったって言うか……」
自分でも自信は無い。あの時はとにかく必死で、全部終わって落ち着いた頃には、自分が何を言ったのかもまともに覚えていなかった。ただ覚えているのは、随分乱暴に頭を掻き乱してきた手の感触だけ。……彼女は少しだけ笑っていたような気がする。
「ふーん……?そうだ。お前達に話があってな。お嬢ちゃんを拾ってきた場所で、何か見つけたんだろ?近い内に第二地区の後発調査隊が話を聞きに来るってよ」
「えっ……何で」
「お前達の報告にあった円柱型の巨大設備だったか?あと廃材の山。無かったらしいぞ」
「はぁ!?」
「山は木っ端微塵状態。設備も徹底的にぶっ壊されてたってよ」
「そんな馬鹿な事あるかよ!入れ違いの調査だったんだろ!?」
「落ち着けって。確かに証拠隠滅にしちゃ手際が良すぎる。何よりも後発組が辿り着く前に起きていた出来事だ。つまり……」
トーマンが、こちらを向く。
「――お前達、ソイツと一緒だったんじゃないか?」
記憶の中のマネキンと目が合った。
あいつの顔に残っていた、握り潰すかのような5本の凹み跡。穴の開いた身体。バラバラの手足。遺棄現場のような屑山と、冷たい揺り籠。
全部、消えた。半日も経たずに。何もかも。
「まぁ……あまり怯えなくていいと思うぞ?何を見たのかは知らないが、悩みの種が向こうから無くなってくれたんだ。後発組もそこまでの危険性は無いって方向で行くってよ」
「……うん」
「ほら、あの子のお見舞いもあるだろ!笑っていこうぜ!リンクスも拗ねてると可愛い顔が台無しだぞ!元気出せよ!」
相変わらず反応は無い。怖いもの知らずのトーマンは彼女の顔を覗き込み、横になっている身体を揺する。
「——ぐがぁー……」
「寝てらぁ」
「バカヤロー!」
自分史上一番の力で、クッションを投げつけた。
◇
「何で拗ねてんの?この坊ちゃん」
「今回はお前が悪いよ。本当に」
「えぇ?ゴメン」
バカを叩き起こしたことで、ようやくいつもの日常が戻ってきた。無論、先ほどの話はまだ胸の内で尾を引いている。最初から無かった事にされたのか。或いはアイが保護されたのを見計らっての行動か。
〈アルバトロス〉なら答えを知っているかもしれないが、今はあのコンピューターに近づきたいとは思わなかった。
「あー……暇だ。何か仕事入ってねぇの?」
「昨日の今日でよくそんな気分になれるよ」
「リンクスの場合、動いた方が性に合うんだろうさ。そうだ!お前達のアレ、どうなったんだよ!」
「アレぇ……?アレなぁ……」
リンクスがちらりと目配せをする。頼むという事らしい。どこまで面倒くさがりなのか。
「じゃあガレージに向かおうよ。ここからなら近いし、あの子のお見舞いの前にさ」
共同部屋から出て、巨大な螺旋状の岩回廊を降りていく。柵の向こうに広がる、直径五キロメートルのセンターホール。そこでは数十基のエレベーターをフル稼働させ、人が往来している。チェーンをかき鳴らしながら移動する人間は、第二地区の産業エリアからくる卸売業者や、第一地区の市民街から買い出しに行く家族連れ。地上からいちばん近いここ第三地区工業エリアからは、設備の点検・アフターサービスに向かう者など様々だ。
「で?噂のスーパーロボットの進捗は?」
「正直言ってどん詰まりだよ。傷は多いけれど外装の役割としては問題なし。有り合わせの部品の割には形になったし、コア周りの整備やチャンネル調整も完璧なんだ。多分だけど、元々のマルチフレームが効いてるんだと思う。適合するパーツが思いの外多かったおかげで想定より三十%早く組み上げと初期設定までは出来たから。だから残す問題は既存のCPUとの兼ね合いで――」
「……リンクス」
「全部ばっちり問題なしでも動かねぇって言ってんだよ脳筋」
「そういうことか!」
二度と説明してやるものか。それで伝わるなら自分が伝えればよかっただろう。畜生め。
また拗ねる事になりそうだったが、それより前に大きな手が自分の頭の上に乗せられた。
「ゴメンなぁ、俺の頭が悪いばかりに。でもウチの弟と妹にも教えてやりたいぜ!今度先生になってみないか?」
「……考えとく」
「おう!お前が来てからリンクスのスーパーロボット計画が一気に進んだもんな!順調で結構!」
「動かねぇって言ってんだよ脳筋。話聞いてたか?」
「お前達が揃えば動いたも同然だろうに。ほら着いたぞ!ガレージも懐かしいなぁ、おい!久しぶりだ!」
暑苦しい。もう片方の手で頭をガシガシにこねくり回されているリンクスも、がっちりと拳を握っている。どうやら顔に向けての射出体制に入ったようだ。今だけは応援する。行け、やれ。
扉の前で一波乱起きる、まさにその時だった。
『プリン!』
幼い子供の声がした……と、思う。
『ロールキャベツ!』
どうやら気のせいでは無いらしかった。二人も会話や動きを止めて、扉から眼を離さずにじっとしている。
『トンピー!コンビーフ!ルーローハーン!』
誰よりも早く動いたのはリンクスだった。腰から拳銃を抜き、トーマンに合図を送る。それを確認するや、彼は思いっきり扉を蹴破った。
岩回廊の力無い照明がぼんやりと室内に入り込む。風の巻き上げる粉塵がキラキラと不釣り合いな輝きを放ち、その輝きの中に紛れてひときわ大きなふたつの明かりが、明滅を繰り返しながらも輝いていた。
『カックニーン!ジッコー!ジッコー!ジッコー!』
「……はぁ?」
間の抜けたリンクスの声。
声の主はフレキシブルホースの両手をブンブン振り回しながら、駄々を捏ねた子供みたいに床でのたうち回っていた。
そう――僕達の、スーパーロボットが。
よろしければコメント等頂ければ幸いです。




