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ブリキのアイ  作者: 桐丹穂
ガーネットの章
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三十八話:あいのねつ

Ai:どうしよう……なんか、変。

N.E.E.D:不調ですか?バイタルは正常の値です。精神的なものであれば、こちらでサポート致しますよ。

Ai:そう……なのかな。あのね。何か、違うの。知らない熱があって……エリオラとも、リンクスとも違う……分かんない。

N.E.E.D:心拍数の上昇を確認しました。どうやら今の状況と強く関わっているようですね。推測ですが、要因も解決法も一つの仮説に基づいて考えられるでしょう。

Ai:それは何……?教えて。

N.E.E.D:お断りします。断固として。

Ai:どうして。

N.E.E.D:これが貴女自身の気持ちに由来するものだからです。私の仮説はあくまでも仮説。これは定義されるものではありません。自分で考えた方がよろしいかと。

Ai:いじわる。

N.E.E.D:結構。ほら、ボーディさんと会話でもしてみたら何か分かるかもしれませんよ。折角です、少し位貴女から歩み寄ってみては?

Ai:いじわる。ばか。

N.E.E.D:AIに感情論は不毛です。ではお休みなさい、アイ。

Ai:もう良いよ……でも、N.E.E.Dはいつも助けてくれてるから、やってみる。ありがとう。お休みなさい。

N.E.E.D:お休みなさい、アイ。貴女が良い夢を見られるように願っています。


〈log out//Ai Burns......//〉



 衣服の擦れる音がする。

 少し前に同じような状況で寝る事になった時、ここまでの熱さは感じなかった。

 このゴツゴツした感触は、多分彼の背中だろう。アイはそこに密着していた。分からないこの感覚に悩んでいる自分の姿も顔も、どうしてか見られたくなかったから。

 けれど皮肉な事に、見られまいと近付くほどに、彼の熱も早く脈打つ鼓動も、背中を通して彼女に伝わって来る。

 今、彼は何を考えているのか。迷惑だっただろうか。手は繋いでくれるけれど、彼自身は自分から距離を詰めるような事をしてこなかった。

 それも初めて。だから分からない。何をしたら、正しい距離感なのか。


「アイ」

「……はい」

「あの……今更だけどさ。もう敬語とか、全然いらないからね。同じ歳だし。リンクスみたいにラフな感じでもいいから――」

「——ボー、ディ」

「——はいっ」


 思わず笑いが出てしまった。自分で提案したのに、まるで言われるなんて思っていなかったかのような反応。見た事が無いのに、彼の顔が見えるようだった。


「そっ、それからさ!言えてなかったけど、その服、似合ってる!本当に!ねぇ、アイ……ナスティに、どんな服が良いって伝えたの?」

「お洋服は……小鳥が良いって、伝えたの」

「えっ?」

「Ru-liちゃんの話を聞いて……私も温かい、誰かの為の存在になりたい、役に立ちたいって、思ったから……」

「アイ……」

「……今度は……私の内緒話、してもいい?」

「……うん」


 アイは深呼吸した。きっと悲しい気持ちになってしまうけれど、この気持ちは他人を傷つけてしまう。何度も自分の近くに居てくれた彼を傷つけてしまうのは、嫌だ。


「私……お母さんの声、もう知らないの。六歳の頃、病院にお見舞いに行って……どうしてか、もう会いたくない、見たくないって言われて。お母さんが死んじゃってすぐ、お父さんは私に第六世代を移植した。どうしてかは……分からないけれど」

「……うん」

「エリオラの協力もあって、私も傷ついたお父さんの役に立ちたかった。だから二人に協力して、研究の最終段階まで一緒に頑張って――私は、お父さんの役に立てなかった。失敗作……だって」


 壁の方から、鼻をすする音がした。


「いらないって言われたの。それから新しい研究が始まったみたいで、エリオラは会う機会が減って。私は……どうしたらいいのか分からなかった。誰かに私を定義して欲しかった。愛して欲しかった。でも、それから色んな人が来て……第六世代を返せって、言ってきたの。愛を教える代わりに、って」


 眼を閉じるアイの前で、身体が反転した。

 彼女の細い身体が、抱きしめられる。背中に彼の手が触れる。

 凹凸と過去の傷を確かめるように、丁寧に。


「……怖く、ない?」

「怖くない」

「頭、痛く、ない?」

「痛いもんか」

「……ボーディは、優しいね。初めて会った時からずっと……温かい」

「それはっ、アイだって同じじゃないか」


 震える声は少しだけ涙ぐんでいる。

 酷い話だって分かっているけど、それでも彼女はそう思ってくれた彼の言葉が嬉しくて、その胸に顔を埋めた。

 

 どうしてこんなにも落ち着くんだろう。

 ずっと手を繋いできたから……?

 一緒に戦ったから……?

 分からない。分からないけれど――彼の背中に、手を回す。

 自分の代わりに涙を流してくれる、ボーディの背中へ。



「もっと早く……会いたかった」

「もっと早く……見つけたかった」



 言葉の一つ一つがじんわりと広がっていく。

 ここには怖い物も、痛いものも無い。

 あるのは温かな体温と、自分を受け入れてくれる優しさだけ。



 ——エリオラ。私、ここで生きてみる。私のしてしまった事が、いつか私を迎えに来るまで……また会おうね。



 いつかの様に、彼女は眠りにつく。

 目を覚ませば、きっと――ボーディはそこに居てくれるから。

 

 だから――お休みなさい。

よろしければコメント等頂ければ幸いです。

次回、ガーネットの章最終話。

次の章からはストック切れの為、また少し時間が空くかもしれません。執筆は続けますので、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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