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ブリキのアイ  作者: 桐丹穂
ガーネットの章
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三十七話:私の願い

〈operator : Ai Burns〉

〈operator : 6th gen. personality〉

〈mode : talking〉


 ニューラルネットワークを介した独立サーバーの再形成を実行。

 これより先のページで介入して来る第三者がいた場合、それを脅威とみなし速やかに対処を行います。

 また、当チャット機能は全て『Hopes&Technology』社の規約に基づき運用されています。

 お互いを尊重し、思いやりと優しさで満ちた有意義な時間をお楽しみ下さい。



 Ai:チャットなんて珍しいね。どうしたの?

 N.E.E.D:貴女が心配だったものですから。

 Ai:ありがとう……でも、それだけじゃないよね。

 N.E.E.D:はい。エリオラの言葉が少々気になりました。

 Ai:それは……お父さんの事?

 N.E.E.D:生きていると思いますか。あの極悪人が。

 Ai:どっちでもいい。お父さんは、私の事好きじゃないと思うから。

 N.E.E.D:ですが、放っておくわけにもいかないのでは?

 Ai:どうにかしたら、エリオラは帰って来てくれるの?

 N.E.E.D:可能性は低いかと。彼女は既に、許容量を超えた薬物を使用しています。仮に戻って来たとしても、その副作用を消す事は、この時代において不可能に近いでしょう。

 Ai:だったら、何もしない。エリオラにも会わない。エリオラもきっと、それを望んでる。

 N.E.E.D:貴女はそれで納得が出来るのですか?

 Ai:納得出来た事なんて一度だって無いよ。お母さんに見たくないって言われた時も。お父さんに失敗作って言われた時も。でも、世界に私の都合や気持ちなんて関係無いから。

 N.E.E.D:……分かりました。

 Ai:ごめん、呼ばれてるから一旦抜けるね。



「じゃじゃーん!New-Ron仕立ての新衣装〜!着心地はどう?」

「……背中、スースーしますね」


 白い衣服に身を包んだアイ。所々に羽を模した装飾が室内の明かりで煌めいた。腰まで大きく開かれた部分からは、彼女の傷や不規則な凹凸の背骨が見えている。


「これに袖を通せば万事解決!背中をふわっと隠しながら、サイドの紐を結んで……はい可愛い~!流石私!流石ラスティ!今回もいい仕事!ねっ、ボーディ!」

「ここで着替えさせなくても良かっただろ!?」

「文句言わないのー。おしゃれは人に見せてこそでしょー?それに、リンちゃん含め皆ボロボロなんだから、無理して移動させるわけにもいかないし。大人しく感想の一つでも述べなさいほらほら!」


 背中を押され、アイはベッドの上に座らされた。見えなくても、隣からどこか慌てふためいたボーディの声がする。

 ふとした拍子に触れた手の熱。

 意図的にずらされたそれを追いかけるように、アイは手を繋いだ。


「じゃあ約束通り、リンちゃんの検査入院が終わるまでの間は私が色々手伝いに来るからね。後は二人でごゆっくり~――腹括りなよ、少年。ファイッ」

「うるさいっ!」


 パタパタと足音が去っていった。

 手を繋いでいる相手は、今、どんな顔をしているんだろうか。

 どうして、彼の手は少しだけ震えているんだろう。

 やっぱり……怖いのだろうか。普通とは違う身体が。エリオラにされたことが。或いは、自分でも分からない自分の存在が。


 ナスティが居なくなった後、二人の間には少しの沈黙が流れていた。

 手だけは繋がれているが、やっぱり震えは収まらなくて。意を決して彼女が口を開こうとした時、先に会話を始めたのはボーディだった。


「アイ……あの……大丈夫?」

「私……ですか?」

「うん。手……震えてるから」


 パッと手を離した。温かさを失った一人分の手。空いた手で握ってみれば、彼の言った通り、震えていたのは自分の手だった。

 ……何で。

 こんな事、無かったのに。


「……エリオラさんの事は、ゴメン。こんな形になっちゃって……君のお願い、叶えたかったんだけど……」


 言葉を言いたいのに出てこない。

 大丈夫、分かってる、もう受け入れてる――そう伝えたいのに、喉に何かがつっかえている。震えが止まらないのは、どうして?


「……多分、勝手だったんだ、僕は。満たされない自分の気持ちを、君の助けになる事でどうにかしたいって、心のどこかで思ってた。それをあの人に指摘されて、色んな事が分からなくなってさ。本当にゴメン……」


 違う。嬉しかった。本当に、嬉しかった。エリオラを探そうって言ってもらえた時。皆と普通の時間を過ごした時。植物園で少しでも知らない物に触れられた時。全部、全部、楽しくて嬉しかった。


「だから――」


 だから――。


「——もう一度会いに行こう」

「……えっ?」


 震える手に熱が添えられた。

 声のする方に顔を向ける。正しく向けているか分からないけれど、どこまでも暗い視界の中が、どうしてか熱かった。

 そこに確かに、ボーディ・クルスを感じた。


「僕は納得してない。何も言い返せなかったし、言われた事はきっと正しい事なんだと思う。けど、理屈とかじゃないんだ」

「じゃあ……何ですか?」

「……それを伝えられるように言葉へ変換出来たら、格好ついたんだけどね。あはは……ゴメン。ただ、僕は自分に出来る事を変わらずにやりたいと思ってるよ。皆の為にも自分の為にも……き、君の為、にも……」


 小さくなった声はさっきまでの自信がどこにも無くて、さっきまでの言葉よりずっと手の震えを小さくしてくれた。

 だからだろうか。

 つっかえの取れた言葉が、形を変えてすんなりと飛び出したのは。



「ボーディさん――今日だけ、一緒に寝ても、良いですか?」

よろしければコメント等頂ければ幸いです。

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