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ブリキのアイ  作者: 桐丹穂
ガーネットの章
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二十四話:第四世代

 ハルジオン洞穴内で突如起きた爆発。その音と僅かに熱を帯びた風は、遥か向こうの地上に繋がる門の方から起こっていた。


「全員配置に付け!医療班、技術班は一時退避!後方からのバックアップに回れ!」


 ダンパーの叫びと共に、ハルジオン内にはサーチライトの光が数本伸びる。

 それを見ながら、リンクスは1人、ガトリングの発射体制に入っていた。弾数なら腐るほどある。こういった採算度外視の物を作る事に関しては、技術班の連中ほど頼もしい存在は居ないだろう。

 物好き達に心の中で感謝をしていれば、耳に付けた通信装置がプライベートチャンネルと接続される音がし、やがてトーマンの声がする。


『可愛い妹分よ。ワクワクしてるか―』

「おー。それなりになー。んだよ、急に」

『アイの事で話がある。あの子、右眼に何か化け物みたいなのが入っててな。俺と一緒に居たのに、〈アルバトロス〉を"見ていた"んだ。それだけじゃねぇ。お前とボーディが戻ってくる事、アンドロイドが来る事も知っていた』

「ほーん」


 〈アルバトロス〉への強制干渉。第6世代人格と名乗る存在からの警鐘と頼み。どうやらトーマン側の方でも異常事態が起きていたようで、それは彼女の中でいくつかの結論を出させるのには十分すぎる内容だった。


 干渉をしてきたのは――アイだ。もっと言えば、アイの中の化け物……傷に関する、何か。あのスーパーコンピューター相手にハッキングを仕掛け、乗っ取ってみせた禁忌のそれ。

 そして……アンドロイド達はアイを欲しがっている。今日までの一連の出来事のタイミングを思い返せば、彼女が何らかの起因となってもう一度アンドロイド達が動き出したのだろう。あの子の中の何かは、禁忌でありながらそれを否定している。

 自警団と、信仰者と、アンドロイド。三つ巴の中でその均衡を引っ掻き回す、異端者と、〈アルバトロス〉と、第6世代人格。おーおー、泣けてくらぁ。


「で?この土壇場でそんな話して、何だってんだよ。可愛いリンクスちゃんが動揺しちまったらどーすんだ?」

『お前が?わははっ、するかよこんなもんで。風呂の付き合い迄してたクセに。アイは謝ってたよ。多分、自分の中で何か気付いたんだろうな。それでも――ここがいいって、そう言ってたぜ。お姉ちゃん』

「はっ、謝罪があろうとなかろうと。頼まれようとそうじゃなかろうと。ハナッからやる事なんて変わらねーよ。だろ、お兄ちゃん」

『……お前、本当に変わったな。嬉しく思うぜ!じゃ、頑張れよ!終了!』


 勝手な話だけベラベラ喋りやがって。

 頭を掻けば、どこからともなくやって来たルリビタキがリンクスの肩に止まった。直接向こうの声は聞こえないが、まぁ、いつもの様に振り切ってくれたんだろう。


「何か来るぞッ!」


 誰かが上げたその声に、全員が臨戦態勢に入る。その光り輝く2つの"何か"は、入口の方からやって来る。速い。とてつもない速度だった。肉眼で捉えられていた遠くの光が、瞬く間に直視の難しい物へと変わっていく。

 ハルジオンの中には、御伽噺に現れる怪物の雄叫びのような音が反響していた。やがてそれがディーゼルエンジンの駆動音だと分かった時、地上巡回班の護送トラックの全貌が見えた。


 ほっ、と誰かが安堵の声を漏らす。


 そこに現実を叩き付けるように、Ru-li(ルリ)を媒介としたボーディの絶叫が、スピーカーから放たれた。


『止めてッ!あれに人は乗ってないッ!』


 真っ先に銃声を鳴らしたのは、トーマン率いる狙撃部隊。タイヤがバーストした破裂音がする。同時に、ホイールと相対した銃弾の火花が幾つも散った。

 続いてリンクスが進路上の地面をガトリングで打ち崩す。曳光弾の直線的な輝きは地面を不規則な形に抉り取り、熱を孕んだ土埃を巻き上げていた。連続射撃がエンジン音を押し潰し、空薬莢が足元で跳ね回る。その反動が腕を伝い、全身の骨を揺らすようだった。

 本来の足場の悪さに加えて、バーストしたタイヤと崩された地面にバランスを崩した護送トラックは、スピードそのままに横転する。けれど問題は解決していなかった。

 エンジンの切られていないトラックは未だ唸りながらタイヤを空回りさせていた。それどころか、電気ショックを流された人体のように激しくドンッ、と何度もその車体が跳ね上がっている。


「マスクッ!()()()()()()()()!技術班はありったけの冷却材持ってこいッ!」


 鼻にツンと来る不快な臭いと共に、黒煙が吹き上がる。最悪だ。あれを放っておけば、視界不良の中で戦闘を強いられる事になる。それどころか、引火したらどれだけの規模の爆発を引き起こすか。

 ただでさえ相手の戦力が分からない戦いに、タイムリミットまでが追加された瞬間だった。


「ガトリング!荷台を狙え!それ以外は撃ち漏らしを確実に潰すんだ!」

「あいあい、親父!」


 もう一度ぶっ放す。完膚なきまでに。徹底的に。

 そうして引き金に指を掛けた時、トラックの荷台の、重い鉄扉が吹き飛んだ。


「待ってくれー!」


 現れたのは……人間の手。

 いつだったか、ずっと昔に聞いた事のある、地上巡回班の男の声。

 その声の主はボロボロの身体をトラックから覗かせながら、こちらを向いた。


「待ってくれ―!」


 サーチライトで照らされたその男の姿に、リンクスだけでなく、誰もが息をする事も忘れて……動けなかった。

 所々焼けた顔の皮膚がでろりと捲れ、虚ろな眼差しに意思は無く、随分と精巧で趣味の悪い蝋人形の様だ。下半身は無い。

 背中に人の腕ほどの太さをした金属パーツが刺さっているが、それはパーツではなく、正しく腕だった。男の血が鈍色のそれに纏わりつくように伝い、滴り落ちる。操り人形(マリオネット)と繋がる腕の主は、黒煙で僅かに煤けているものの、その鈍色の身体に目立った傷は無い。

 生まれて初めて見た本物の禁忌は、リンクスに吐き気を覚えさせるほどの存在だった。凹凸の無いフェイスパーツに、青い波形図が現れ、大きく揺れた。



「〈待ってくれー!〉」



 人間の盾を掲げながら、禁忌が走り出す。

 跳ねるように。徐々に速度を上げ。撃ってみろ、と言わんばかりに。



「……全員——ぶち殺せぇッ!!」



 歯を食いしばりながら、リンクスはありったけの弾丸を荷台に撃ち込んでいく。金属板に穴の開いていく音は止まらない。一方的に押し潰す暴力的な火力は、心の中で轟々と燃え上がるリンクス自身の怒りを体現しているようだった。

 少しは堪えるのか、住処を追われるゴキブリの群れの様に、アンドロイド達が10機ほど現れる。どいつもこいつも荷台から次々と巡回班の遺体が運び出し、同時に一目散に走りだした。

 今しがた走り出した最初の非人道兵器は、銃も持たない丸腰のまま、リンクスの左側に陣を取る前線部隊目掛けて突撃していく。何人かの放った銃弾は掲げられた盾に次々と穴を開けていくが、勢いの殺された弾丸は鉄の身体を貫くには至らない。

 そのまま前線部隊を突き飛ばしながら、アンドロイドはある場所に向かって走り続ける。そこは――巡回班の詰め所。高所からの援護の為に、狙撃犯が配置されている――。


「トーマンッ!!」


 詰所の一階で爆発が起きる。最上階に居る狙撃組は、揺れる建屋の衝撃に堪えているものの、あれを繰り返されては倒壊も考えられる。場所の移動を余儀なくされるだろう。

 

 ―—特攻。


 ほぼサーチライトしかなく、黒煙が充満し始めているこの視認性が最悪な洞穴の中で、連中は確実に狙撃組を潰しに来ている。場所を制圧し、地の利を潰し……じわりと脂汗が滲んだ。これは――前座だ。これで終わるはずがねぇ。

 未だ走り出したアンドロイド達を止められずにいる前線部隊。

 その時、再びボーディの声がする。


『首だ!首を狙って!——アイが、そう言ってる!』


 その訴えがされた直後、高所から一発のライフル弾がアンドロイドの首を撃ち抜いた。頸動脈から噴き出す血液の様に、しかし緑色に発光しているそれを全身に浴びながら、ビクン、と身体を跳ねらせたアンドロイドが沈黙する。嫌に気色悪い死に様見せやがって。だが――ざまぁみろ。

 ボーディの言葉の信憑性を裏付けるように、続けて2発の銃声が鳴り、同じようにアンドロイドが倒れていく。それが誰の手によるものかは、リンクスには分かっていた。不思議と笑みが浮かんでしまう。あのカブトムシ、本当に筋トレと庭師以外出来たんだな。百発百中かよ。


 特攻目的の接近戦を仕掛けられた上に、弱点が首とくれば、ガトリングは一旦お役御免だ。

 近くに立てかけていた突撃銃を担ぎ、リンクスは前線部隊に合流する。

よろしければコメント等頂ければ幸いです。

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