一話:底に二人
星に願いを掛けるなら――何を願おう。
取り敢えず、今日の仕事が早く終わるよう願ってみる。
「後で行くって言っておきながら腹痛拗らせてんじゃねぇぞアホ筋肉が!何の為の筋肉だボケ!死んでも来い馬鹿野郎ッ!」
怒号。
続いて衝撃音。これは、今しがた二十四個所目の凹みが出来たバンの悲鳴だろう。すまないが助けてやれないと申し訳なさを思いつつも、ボーディは怒号の主の方に目を向ける。自分に向けられたものでは無いと分かっていても、なるべく耳にしたくないのが心情というものだ。
頼むから地の底で、これ以上株を地の底に落とさないで欲しいと切に願う。
「リンクス。怒鳴ってばっかいないで、ちょっとは手伝ってよ」
「見りゃ分かんだろ!クレーム対応中だ!」
「してる側の言葉じゃないんだよ」
無意識に溜息がこぼれた。あれとタッグを組まされるのはいつも自分だ。涙が出る。
廃材の山で仰向けに、手を伸ばす。
空は、遠い。
数階層に連なるコロニーの切れかけた電球が幾千と明滅を繰り返し、何とも味気ない星空にも見える。こんな星じゃ、願いは届かない。ここはフラスコの底。太陽だって照らしてはくれない。
「何耽ってんの。老けるぞ」
「うるさい」
「つか、何か寒くない?」
「へそ出してるからだろ」
彼女はポケットから小型の球状装置を取り出し、慣れた手つきで起動を始める。
また勝手に何かを作っていたらしい。起動したそれは中央でわずかに開き、小刻みな音を数回刻んだ。
リンクスはといえばそれを掲げ、寝転ぶボーディの周りをぐるりと回る。
「何?」
「ここが中心なんだよ。んで、やっぱおかしい」
「だから、何がさ」
「普段より四度近く低い。地熱の関係もあるから自然発生したもんじゃねーな」
「……人工的なものにしたって、過去の廃棄申請リストに該当するものは無いよね」
「そういうこった。こりゃ当たりだな」
胸倉を掴まれるや、グンと引き起こされる。
「仕事だ仕事。さっさと帰って、風呂入って寝る。その前にあの筋肉ぶっ飛ばしてやらぁ」
さっきまで仕事してなかったくせに――という言葉は飲み込むことにした。凹んだバンのようにはなりたくない。
「……あのさ。何で僕だったの?」
「あん?」
ボーディの言葉に、リンクスは小首を傾げた。
「そりゃ、自警団は二人以上での行動が原則だけどさ。僕じゃなくたって、仕事は出来たじゃん」
「お前がボーディだから」
「……えっ、何、意味分からないんだけど」
「あたしは分かってる。ほら行くぞ」
言うやさっさと行ってしまった。責任感は強いから、らしいと言えばらしいが。
文句ばっかで、すぐ揉めて、いつだって自分勝手なクセに……なんで、ちゃんと出来るんだ。
「そういうのが、一番——」
小さな抗議は届かない。けれど、それで済ませることにした。
やりきれないものを抱えたまま、ボーディは彼女の後に付いていった。
よろしければコメント等を頂ければ幸いです。




