十話:異変
「はい、じゃあ今後の事をパパっと決めちゃいましょうか!そういえばアンタ達、トーマンはどうしたのよ?」
「やる事あるってよー。あとで伝えとくわー」
嘘ではないがこちらの事情なので、少しばつが悪い。今頃はブリキと仲良くしてくれてればいいが、そもそも、なぜ彼は助けを求めたのか。あの直後、アイはガレージにやって来た。無関係とは思えない。だが、決めつける材料も無い。
「もう知ってると思うけど、この子は先天的な盲目なのよね。だから――」
「待てッ!」
ジェイクが叫んだ。
もし彼が言わなければ、口を開いていたのは自分だっただろう。
「……見えてない?お前、ガレージに向かって一人で歩いてたよな」
「何だよ、ジェイクおじちゃんが連れてきたんじゃねぇの?」
「俺はここに来る途中だっただけだ!じゃなきゃ、自分から好んで関わるわけねぇだろ!」
「おーこわ」
「あらら……一応アンタ達の部屋まではウチのスタッフが一緒だったはずなんだけど。ねぇ、アイちゃん?自分がどうやって皆と会ったのか覚えてる?」
アイは僅かに視線をあげた。拳をきゅっと握りしめながら、昨日と同じようにたどたどしく答える。
「お……ぼ、えて……ないです……よく、わから、なくて……」
「お前ッ……!」
「ジェイク。抑えろ」
「どう見たって怪しいだろうが!」
「抑えろ、と言った」
「ダンパーっ、アンタが判断をしくじったら――!」
「……頼む」
「っ……あぁ」
ジェイクの気持ちもわかる。だって、さっきまであんなにはっきりと言葉を交わせていた。でもアイの様子だって、隠し事をしているそれとは違うと思っている。
なんとなく、自分がそうだからか分からないけれど……怖くて言葉が詰まる時がある。自分の言葉が、ちゃんと届くか分からないから。今の彼女が、そう見えて仕方なかった。
「誰かの声が、聞こえて……でも、気づいたらあそこに……私、壁沿いを歩いて……だから――」
……耳鳴りがする。
何でこんな、唐突に……彼女の言葉を聞いてあげたいのに、不快感が止まらない。頭が割れそうだ。
「だから——私、なに、してたんですか……?」
気持ち悪い。
限界だった。最悪だ。ここに来て、寝不足か何かが響いたんだろうか。
座り込もうとした時、リンクスが大きな声で叫び出した。
「なーるほど!確かにあたしのベッドの下は穴開いてたもんなぁ!何か閃いたらすぐ行こうと思って直通の秘密通路を掘ってあんだよ!だからお嬢は下まで歩いてきたんだな!ゴメンゴメン!」
壁に寄りかかりながらヘラヘラと笑うリンクスだったが、その顔や首筋には脂汗が滲み、今にも倒れてしまうんじゃないかと思うほどで――全身にさぶいぼが立つ。
自分だけじゃなかった。今まで一度だって、彼女がこんな顔を見せたことは無い。高熱を出してもいつも通り振る舞う強気で強がりな彼女が……弱っていた。
同じタイミングで自分達に何かが起きている。これが偶然じゃないと、嫌でも思い知らされる。
彼女の言葉に少しだけ耳鳴りが小さくなった。
だから――ボーディは、アイの前に座る。大人たちを押しのけて、自分の意志で。
「……君は、僕が見えてなかったんだよね?」
まだ頭は痛いし、吐き気も残っている。取り乱しつつあるのか、浅い呼吸で上がり下がりを繰り返す彼女の肩に手を掛けた。近づいてようやく確認出来たのだ。不調の原因が……誰なのか。
「でも、僕の所に来て、手を繋いで、ここに来た。それは……どうしてか覚えてる?」
耳鳴りは徐々に消えていく。同時に肩の動きは落ち着きを取り戻し、アイはボーディの両手へ自分の手を重ねる。その眼は相変わらずくすんでいて、何を考えているかは分からなかったけれど。
「——温かかったから、です」
動いてよかった――少しだけ、そう思えた。
後ろでリンクスがグッと親指を立てながら座り込んだ。お互い、もう限界である。
「リンクス?えぇ!?ちょっとボーディまで……アンタ達今にも死にそうじゃない!どうしたのよ!」
「うるせー!寝不足なんだよ!報告書だの反省文だのばっか振りやがってよー!子供は寝かせろー!休みよこせー!なぁボーディ!」
「……ん……」
元々のポテンシャルはやはり違うようで、大声を出す余裕など無い。そこそこ長い付き合いではあるが、やはりフィジカルやメンタルの強さに関しては化け物のそれだ。
「分かったわよ。一応薬出しておくから、今日の所はアイちゃん連れて部屋に戻りなさい」
「ジェイク。お前はここに残ってくれ。今後の人員配置を、パフィも交えて一度相談したい」
「……いい予感はしねぇな」
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