十一話:会いたい
「で、二人揃ってダウンしたと。ジェイクから連絡が来た時はビックリしたぜ。お前らどんだけ兄ちゃんを心配させるんだ全く……リンクス、聞いてるか?」
「おー?おー。休みに何するかって話だろー。お嬢どうする?久しぶりの休みなんだ。一緒にお出掛けするかい?」
トーマンが呆れたように小さく笑っている。リンクスは処方された薬を飲んだ後、ケロッとした顔で意気揚々と休日の予定を考えている。何ならアイの肩に手を回しながら口説いていた。化け物め。
対してボーディはと言えば、未だ脳みそを揺らされたような眩暈に襲われており、布団から起き上がる事が出来ないでいる。ここに来る途中ですらトーマンに抱えられながら、大丈夫か、死ぬなボーディ、と揺さぶられ殺されかけたのだ。
そう考えると布団に腰掛けながら一人のほほんと過ごしているこの男に、ダンゴムシの一撃をお見舞いしてやりたい。太腿を叩けば、それに気づいた兄貴分が頭をグワングワンと撫で回してくる。墓穴を掘った。
「で、その子がアイか。まさか目が見えてなかったとはなぁ」
「……あの……どなた、ですか……?」
「おぅ!俺はトーマン!こいつらの兄貴分みたいなもんだ!」
「……トーマン、さん」
「アニキで良いぞ」
筋肉バカの言葉に、アイは僅かに顔を上げ、ずれた目線の高さのまま小首を傾げた。トーマンはその目線に自分から合わせるように屈み、言葉を続ける。
「今日からは皆、家族で兄弟だ。よろしくな!」
「まぁ年功序列で言うならアイが長女だけどな。図が高いぞ、筋肉!」
「口説いてるお前が言うのか……まぁ困った事があったら、何でも言いな」
「暑苦しかったら、あたしがいつでもぶっ飛ばしてやるよ」
ゲラゲラ笑っているバカの声がうるさい。こっちはまだ本調子じゃないのだから、勘弁してくれないだろうか。
寝返りをうちアイの方を向く。彼女はあれだけ騒がしいやり取りの中心にいながら、動じることなく黙っている。ただ……錯覚だろうか。ほんの少しだけ、その口角が上がったようにも見えた。
それは一瞬の物だったが、彼女はハッとした表情を浮かべ、ボーディの方を向いた。
「——家族」
その言葉に二人は黙る。次の言葉を待つように、アイを見ながら。
「……リンクス、さん。ボーディ、さん。私……一人でしたか?」
「おー。気持ちよさそうに眠ってたよ」
「――他に誰か、いませんでしたか?」
ここに居る全員が顔を見合わせた。
トーマンが言っていた事と、ゲイルに渡された最下層のデータ。誰かによって意図的に破壊された、あの地下の遺物。眠っていた筈の彼女は今、何か核心的に迫る事を言おうとしている。バラバラのパズルを形づける、大きな額のようなものに当たる大切な事。
「お嬢——誰かと一緒だったのか?」
「……ごめんなさい。眠るときの事は、分からないです……でも……いつだって温かい手が、ずっと、握ってくれていて。それが、うれしくて。彼女の顔と温かさ……それだけは絶対に、覚えているから」
「……その人の名前は?」
一拍置いて、彼女は言った。
「——エリオラ。エリオラ・ガーネット」
彼女の様子が変わった。その名前が彼女にとって大切なものである事は、小さく震える彼女の肩を見ればよく分かる――と言うより。
眩暈が悪化した。最悪のタイミングで、耳鳴りが起きる。
「エリオラ……会いたい、よ……どこに、いるの……?」
「っ……!」
「お?どうしたリンクス、頭抱えて。おわ!?ボーディお前、いよいよ死にそうだぞ!?」
さっきのように動けるだけの元気は無い。あの時の現象は、彼女が原因だという事まではよく分かっている。
ただ……どういうわけか、トーマンはただ何事も無く狼狽えているだけだった。確かにリンクスに比べてタフさには軍配が上がるが、これはそういうものじゃない。耐えるとか、そうじゃなくて、無理やり頭をいじ繰られている感覚の、理不尽な何か。
それでも――分からないままには、したくない。
動かなくてはならない。苦しいからとか……そういう理由じゃなくて。どうしてか、アイを一人にしておきたくなかった。多分リンクスもそうなのだろう。頭を押さえながら、それでもアイの身体を引き寄せ、頭に手を乗せている。
何とか動こうとして布団から転げ落ちる。トーマンが何か言っているが、遠くてよく聞こえない。それでも、行かなければ――。
その時だった。部屋の入り口から、幼い子供の声が聞こえたのは。
『——トモダチ』
耳鳴りが僅かに収まった。相変わらず凹んだままの顔パーツで、扉の陰に隠れながら恐る恐る部屋の様子を見渡している。アイの方を向いたブリキは、ビクリと身体を跳ねらせて首を後ろへ回した。けど今は……それよりも。
ふらついた足でアイの元へ走り、リンクスごと布団に倒れこむ形で駆け寄った。
「……探そう」
「……さが、す……?」
「エリオラさんっ……を、皆でさ。分かんない事、多いけど。同じだから。僕達もだ。だから……探そうよ」
「おー……そうだなー。猫探しみたいなもんだ。サクッとやっちまおーぜー……」
「……うん。うんっ……」
顔は見えないが、腕をぎゅっと掴まれている気がする。それすらも気のせいかも知れないが、もうよく分からない。ただ……今はもう少しだけ、こうしていたいと思った。
「……いや、お前らまず医者行けよ」
『ビョーイン、ビョーイン』
うるさい。




