↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガールライダー☆ 〜凄腕ガンマンの彼女と過保護な死神と真面目な元保安官の裏社会コメディ〜  作者: VANRI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/107

本領発揮

「ここか……僕のメアリーちゃんの写真を勝手に売っている汚い店は……」


 裏通りの怪しげな写真館『シルバー・スタジオ』の前。フランは銃のハンマーを落とし、冷酷な笑みを浮かべて扉に手をかけた。


「よしフラン、まずは中にダイナマイトを一個投げ込んで――」


「待ちなさいッ!!  暴力を振るっては彼らと同類です!!」


 突如、背後から大声が響いた。

 振り返ると、息を切らしたハーバートと、その後に走ってきたメアリーの姿があった。


「トニー!  フラン!  あんたたち何しようとしてんのよッ!  デートの途中で急に消えたと思ったら!」


 息を荒らげるメアリーを横目に、ハーバートは乱れたスーツの襟を正し、胸を張ってフランたちの前へ立ちはだかった。


「フランさん、ここは私にお任せください。この国は法治国家です。不当な肖像権の侵害と不当利益の搾取……法律の力で、この男を完膚なきまでに叩きのめして差し上げます!」



 翌日。街の簡易裁判所。

 写真屋が雇った悪徳弁護士は、高笑いしながら言い放った。


「ハッ!  肖像権だと!?  戯言を言うな!  荒野の公道で撮影された写真にそんな権利が存在するものか! その女は手配書にも載っていたような『有名人』だ!  撮影も販売も完全に合法だ!」


 傍聴席でフランが銃を抜こうとするのを、トニーが必死に抑え込む。


 だが、原告席に立つハーバートは、一切動じずに眼鏡の縁をクイッと押し上げた。


「……愚かですね。1879年の最新判例、ならびに州民法第74条をお忘れですか?」


 ハーバートの凛とした声が法廷に響き渡る。


「たとえ公道であっても、個人の容姿を無断で商業利用し利益を得る行為は『人格権の侵害』に当たります。さらに!  彼女が着ていたのは、危険を賭して店を守った際のドレス姿だ!  あなた方は彼女の『美しさ』と『尊厳』を盗み、金に変えたのだ!!  彼女の美しさは、あなた方のような亡者に切り売りされるための公共物ではないッ!!」


 熱弁を振るうハーバートの圧倒的な法知識と論理展開に、相手の悪徳弁護士は言葉を失い、冷や汗を流して絶句した。


「判決!  被告は即刻ブロマイドの販売を停止し、原板(ネガフィルム)を没収。これまでの全利益120ドルを原告へ賠償金として支払うこと!」


 裁判長がカンカンと木槌を鳴らす。完全勝利だった。



「……すごかったわね、メガネ。あんた、口だけじゃなくて本当にすごい弁護士だったのね……っ」


 その夜。街の居酒屋にて。

 裁判に勝ち、没収したネガと賠償金を回収したメアリーたちは、ハーバートを囲んで「お疲れ会」を開いていた。


「フッ……当然です。私の愛するメアリーさんのためなら、連邦最高裁判所だってひっくり返してみせますよ!」


 ハーバートは上機嫌で、差し出される酒をガンガンと煽っていた。

 だが――東部のエリート弁護士である彼は、荒野のきついウイスキーにはめっぽう弱かった。


「めぁりーさん……私は……あなたと……ずっと……」


 数杯飲み干したところで、ハーバートは赤ら顔でろれつが回らなくなり、そのままドサッとテーブルに突っ伏して、グーグーとイビキをかき始めてしまった。


「やれやれ。口ほどにもねぇな、弁護士サンは」


 トニーが苦笑しながらウイスキーを口に運ぶ。フランはフンと鼻を鳴らしつつも、泥酔して眠るハーバートに上着をかけてやった。


「……行くわよ、みんな」


 メアリーが静かに立ち上がった。

 荷物はすでにまとめてある。彼を起こして別れを告げれば、きっと彼はまた寂しがり、追ってくると言い出すだろう。だからこそ、何も言わずに去るのが彼らのやり方だった。


「先に表で馬を引いて待ってるぜ」


 トニー、モネ、ベイル、そしてフランが、配慮するように先に店を出ていく。


 店内には、倒れて眠るハーバートと、メアリーの二人だけが残された。

 メアリーはゆっくりとハーバートの横へ歩み寄る。

月明かりが差し込む窓辺で、規則正しい寝息を立てる丸眼鏡の男。


 いつも「メガネ」と呼び、煙たがり、照れ隠しで怒鳴ってばかりいた。

 けれど、命懸けで守ってくれようとしたこと。自分を全肯定してくれたこと。そして、法廷で自分のために戦ってくれたこと――。


 メアリーは静かに腰を落とし、ハーバートの耳元へ、すっと顔を近づけた。

 誰も聞こえない、夜の静寂に溶けていくような小さな声で。


「……ありがとう。ハーバート」


 初めてその名前を呼んだ。

 ふっと柔らかく微笑むと、メアリーは一度も振り返ることなく、カウボーイハットの庇を深く被り直し、夜の荒野へと足を踏み出していった。



「……ん……うぅ……」


 眩しい朝日に目を覚ましたハーバート。

 頭を抱えながら起き上がると、テーブルの上には「1万ドルの手配書無効の手続き書類」と、メアリーのブロマイド写真が一枚だけ残されていた。

 そして、彼女たちの姿はもうどこにもない。


 ハーバートは一瞬寂しげに目を細めたが……すぐにメガネをクイッと掛け直し、ニッと不敵に微笑んだ。


「フッ……無言の別れとは、実に彼女らしい。……待っていてくださいね、私の可憐なメアリーさん。このハーバート・チェスター、どこへ行こうとあなたを追いかけて見せますから!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。