本物の品格
「ガハハハ! 見たか俺たちの実力をーッ!」
すっかり手柄を自分のものにしてドヤ顔をきめるニセメアリー。
屋根の上で拳をワナワナと震わせるメアリーを、トニーが「まあまあ」と苦笑いで宥め、そろそろ引き上げようとした……その時だった。
――ドギャァァンッ!!
街の入口のゲートが爆破され、黒煙の中から地響きのような馬砲の群れが雪崩れ込んできた。
「ヒハハハハ! 散らばれぇ! 金になるものは全部奪えッ!」
現れたのは、先ほどの強盗団とは比べ物にならない重装備と殺気を纏った、この地方一帯を牛耳る凶悪な大ギャング団だった。
だが、さっきの「神業」を目撃したばかりの観客たちは、恐怖するどころか大歓声を上げる。
「大丈夫だ! メアリー様がいるぞ!」
「返り討ちにしてくれーッ! メアリー様ーッ!」
「ひえぇぇぇぇ……ッ!?」
歓声を浴びるニセメアリー一味は、今度こそ完全に恐怖で顔を跳ね上がらせ、ガタガタと膝を震わせた。
そう、現れたのは先ほどの雑魚強盗どもを影で雇っていた、本当の『ボス』率いる本隊だったのだ。
「ぼ、ボス……ッ!?」
馬上から見下ろすボスが、冷酷な眼光でニセメアリーを睨みつける。
「おい、偽善者ごっこは終わりだ。とっとと銀行に入って金を全額巻き上げろ!」
「い、いや……俺たちは、今から『半分』いただく予定でして……」
あまりの恐怖に支離滅裂な返答をするニセメアリーに、ボスは冷酷に言い放った。
「何を腑抜けたことを言っている。……全額持って行け」
「いや……っ! そんなことをしたら、この街の奴らが生きていけなくなる……!」
ニセメアリーが必死に叫んだ、次の瞬間――!
――ズドンッ!!
「うっ……!?」
銃声が響き、ニセメアリーの右足が撃ち抜かれた。ドサリと崩れるように膝をつくニセメアリー。
「だからなんだ? 命令を聞かないなら、お前の命も奪っていいんだぞ……」
「あ、兄貴……ッ!!」
駆け寄るニセ一味のの子分たちが、血を流すニセメアリーの肩を必死に担ぎ上げる。
「兄貴、ここは言うことに従いましょう……! このままじゃ本当に殺される……ッ!」
「だが……っ、だがよぉ……ッ!」
自分が『メアリー』と持て囃され、街の人々に感謝された時の誇りが、惨めなニセメアリーの中にわずかに残っていた。
その時、異変に気づいた観客たちがパニックを起こし、逃げ惑い始めた。
混乱の中、一人の小さな男の子が、転がっていった木製ボールを追ってボスの馬の前に飛び出してしまう。
「ああっ! サム……ッ!!」
悲鳴を上げて追いかける母親。ボスは鬱陶しそうに目を細めると、その親子へ向け、迷いなく銃口を向けた。
「失せろ、ゴミ屑どもが」
引き金に指がかかる――!
その瞬間。
――バシィィィンッ!!
ボスの手首に、鋭いナイフが突き刺さった!
「ぎゃあああッ!?」
「誰の許可を得て、子供に銃を向けているのかしら?」
美しい旋律のような声とともに、屋根の上から舞い降りたのは、仕込み刀を静かに引き抜くモネ。
さらに背後の暗闇から影のように現れたフランとベイルが、ボスの側近たちの首筋に刃と銃口をピタリと押し当てる。
「動かないでね? 脳汁出ちゃうよ?」
「ひっ……!?」
そして、馬の上のボスと親子の間に、重厚な足音とともに割り込んできた男――トニーが、煙草の煙を吐き出しながら腕を組んだ。
「やれやれ……やっぱり最後まで面倒見なきゃならんらしい」
「な、なんだお前らはッ!?」
激昂するボス。その頭上――銀行の屋根の縁から、ポニーテールを夕風になびかせた一人の少女が、二挺拳銃をクルリと回して飛び降りてきた。
――ズドンッ!!
着地と同時に放たれた一弾が、ボスの足元の地面を粉砕する。
「おいおい、人の名前勝手に使って街で暴れてくれた挙句、子供に銃向けるなんて……最悪の締めくくりじゃない」
夕日を背に立ち上がるメアリー。
その二挺拳銃の圧倒的な威圧感と、本物の「死線」を潜り抜けてきた凄まじいオーラに、街全体が息を呑んだ。
血を流しながら肩を担がれていたニセメアリーが、目を見開き、ガタガタと唇を震わせる。
「あ……あの早撃ち……それに、あの取り巻きの凄腕たち……」
ニセ一味の子分たちが、顔を真っ青にしてボソボソと囁き合った。
「あ、兄貴……まさか、さっきから俺たちを助けてくれてた『影』って……」
「も、もしかして……あの人が……『本物のメアリー』……!?」
自分たちが名乗っていた名前の「本当の持ち主」が目の前に降臨したことを悟り、ニセメアリーたちはあまりの恐れ多さとショックで、泡を吹きそうになるのだった。




