偽物のお仕事
「ちょっとメアリー、すぐに正体を明かすなんて野暮なことしないでよ」
モネが扇子で口元を隠し、くすくすと意地悪く笑った。
「あんなに調子に乗ってるんだもの。しばらく泳がせて、もっと面白い目に遭わせてあげましょうよ」
「はぁ!? なんであんな偽物を野放しにしなきゃいけないのよ!」
「落ち着けメアリー」とトニーが苦笑しながら割り込む。
「あのバカども、街の連中に『メアリー一味がいるから悪党が寄ってこない』って変な安心感を与えてるみたいだからな。いきなり偽物だとバラしたら、街が混乱するぞ」
「うう……っ」
メアリーが悔しそうに唸っていると、酒場の中心でニセメアリーが、すっかり味を占めて大声で演説を始めていた。
「ガハハ! 見たか俺の神業を! よーし、明日はこの街の『銀行の金庫』を警護してやる! 謝礼として金庫の金の半分を貰うぞッ!」
「「「おおーッ! さすがメアリー様!!」」」
下品に盛り上がるニセモノたち。それを見たフランが目を輝かせた。
「ねえねえ、面白くなってきたね! あいつらが勝手に警護ごっこして、裏で本物の僕たちが本物の銀行強盗を撃退してあげる……なんてどう?」
「なんであたしたちがあいつらの『手柄』のために働かなきゃいけないのよーーーッ!!」
メアリーの悲痛な叫びが酒場の端っこに虚しく響き渡った。
翌日。シルバー・クリークの銀行前。
ニセメアリー一味は、腕組みをして堂々と立ち尽くしていた。
ニセトニーは相変わらず居眠りし、ニセベイルはハットが深すぎて街灯に頭をぶつけ、ニセモネは竹ほうきを構えてポーズを決めている。
「フン! 俺たち『メアリー一味』がいる限り、強盗なんて来やしねぇよ!」
ニセメアリーが鼻高々と言い放った……その時。
「ハハハ! 運の悪い奴らだ、全員動くなッ!」
本当に街へやってきた本物の凶悪な強盗グループが、ダイナマイトとショットガンを手に銀行へ押し寄せてきた!
「ひぇぇぇぇッ!?? ほ、本物の強盗だぁぁぁッ!?」
腰を抜かすニセメアリー。
強盗のボスが容赦なくショットガンを向け、引き金に指をかける。
「死ねや、偽善者どもッ!」
――ズドンッ!!
「ぎゃあああッ!?」
悲鳴を上げたのは……なんと強盗のボスだった。
銀行の屋根の上から、本物のメアリーが放った一弾が、ボスのショットガンの銃身を正確に粉砕したのだ。
(くっそ〜〜〜ッ!! なんであたしがあいつらを庇わなきゃいけないのよッ!!)
屋根の上で歯ギリギリさせながら二挺拳銃を構えるメアリー。
その横では、フランが腹を抱えて爆笑している。
「あははは! メアリーちゃん、最高のツンデレだねぇ♡」
「ツンデレじゃないッ! あいつらが殺されたら『メアリー一味全滅』とか変な噂が立つから助けただけよッ!」
一方、路地裏では――。
強盗の手下が裏口から押し入ろうとした瞬間、暗闇からすっと現れたモネの仕込み刀が一閃!
――シュパァンッ!!
「な、なんだ!?」
「静かにしなさい。あっちの『バカな舞台』の邪魔になるわ」
モネが冷ややかに微笑み、鞘の柄で手下たちの溝おちを突いて瞬殺していく。その横で、ベイルが手下たちの弾帯を鮮やかにスり落として丸腰にしていた。
「モネさん、裏口は完璧です!」
「ええ、上出来よベイル」
表の通りでは――。
「え……? あ、あれ……?」
ニセメアリーが恐る恐る目を開けると、自分を襲おうとしていた強盗たちが、なぜか次々と屋根からの「謎の精密射撃」や「路地裏からの謎の不意打ち」によって、一人残らず失神して転がっていた。
何もしていないニセメアリー一味が、ただポカンと突っ立っている。
それを見た街の人々が大歓声を上げた。
「「「す、すげぇぇぇぇッ!!」」」
「指一本動かさずに、一瞬で強盗団を全滅させたぞ!?」
「さすが本物のメアリー様だ!! 神業だーッ!!」
状況が飲み込めないニセメアリーだったが、すぐに調子に乗って胸を張った。
「ガ、ガハハハハッ!! 見たか俺の『威圧の気』を!! 俺様にかかれば、強盗なんて一睨みでイチコロよッ!」
「調子に乗るなぁぁぁぁッ!!」
屋根の上で、メアリーが本気でブチギレて屋根の瓦を叩き割るのだった。




