生意気な少年
巨大な蒸気船が立ち寄り、大陸横断鉄道の開通を目前に控えた活気あふれる街『ゴールド・ヒル』。
街の広場には巨大な天幕が張られ、「全米最強の神業射撃ショー!」と書かれたド派手な看板が掲げられていた。観客の大歓声と銃声が荒野に響き渡る。
「へえ、なになに? 『タバコの火を五十ヤード先から撃ち落とす天才少年』ねぇ」
メアリーはポニーテールを揺らしながら興行のポスターを指で弾き、横を歩くトニーに笑いかけた。
「どう思うトニー? あんたより上手いんじゃない?」
「ははっ……俺の腕を舐めるなよ。……だがまあ、あの看板のガキか。なかなかの面構えをしてるな」
トニーが顎でしゃくった広場の中心。
そこには、ダボっとした革のポンチョを羽織り、深めにかぶったハットの下から鮮やかな赤毛を覗かせた小柄な人物が立っていた。
鼻頭に少しそばかすを散らしたその“少年”は、手に持ったカスタムリボルバーをクルクルと指で回しながら、集まった観客たちを不敵なエメラルドグリーンの瞳で見下ろしている。
「ハッ! どいつもこいつもシ気た面しやがって! 俺の神業が見たけりゃ、もっと弾代を弾みやがれ!」
「生意気な口を利くガキだな」とトニーが苦笑する。
すると、観客の一人が投げ上げた小さな銀貨を、その少年は振り向きざまに引き金を引いた。
――ズドンッ!!
放たれた弾丸は見事に空中の銀貨の真ん中をぶち抜き、銀貨はカンッと音を立ててメアリーの足元に転がってきた。
「へえ……なかなかやるじゃない」
メアリーが銀貨を拾い上げると、赤毛の少年はフンと鼻を鳴らし、メアリーを上から下まで挑発するように見つめた。
「おいおい、お姉さん。惚れ惚れして見てんのはいいが、俺のショーはタダじゃないぜ? 観賞料を払いな」
「生意気言わないの、ボク。……と言いたいところだけど」
メアリーはニヤリと笑うと、愛用の二挺拳銃の一挺をジャキッと構えた。
「その銀貨、あたしが空中で撃ち抜いてあげようか? ボクちゃん」
「あんだとッ!? 俺を子供扱いすんじゃねぇ! 俺は『キャル』だ! 男を舐めると痛い目見るぞッ!」
青筋を立てて怒るキャル。
……だが、その怒った拍子にハットが風で深く脱げかけ、ポンチョの隙間から、まだ小さくも柔らかい身体のラインと、耳元の可愛らしいピアスがチラリと覗いた。
トニーとメアリーの目が点になる。
「……おい、メアリー」
トニーがハッと気づいたように、メアリーの耳元でヒソヒソと囁いた。
「……あいつ、男じゃねぇぞ。『女の子』だ」
「……ええ、そのようね」
メアリーの脳裏に、少し前の自分の記憶が鮮烈に蘇った。かつて自分も、男物の服を着て銃を振り回していた頃、トニーに「威勢のいいボウズだな」と完全に男だと勘違いされたのだ。
(ふふっ……なんだ、あたしと同じじゃない……!)
男勝りに突っ張り、男のフリをして荒野で舐められないように必死に背伸びをしている赤毛の少女。
一瞬で親近感と愛おしさが爆発したメアリーは、ポンチョ姿のキャルの元へ歩み寄ると、その頭をガシガシと思い切り撫で回した。
「痛っ!? なにすんだよクソババアっ!!」
「誰がババアよっ!! こんないい女に向かって!!
いい度胸してるじゃない、キャル! あたしね、生意気な妹分は大歓迎なのよ!」
「はぁ!? 妹ぉ!?」
真っ赤になって怒るキャルと、嬉しそうに絡むメアリー。
その様子を後ろで見守るトニーは、「やれやれ、メアリーがもう一人増えたみたいで頭が痛くなりそうだ……」と頭を抱えるのだった。
「妹ぉ!? ふざけんな、俺は男だっつの! 触るなクソお姉さん!」
真っ赤になってメアリーの手を振り払うキャル。メアリーは「はいはい、分かったわよ『ボク』ちゃん」とニヤニヤしながら、ますます面白そうに彼女の頬をつついている。
「やれやれ……メアリー、少し落ち着け。……で? フランたちはどこへ行ったんだ?」
トニーが呆れ顔で周囲を見回した。
「ああ、モネさんとフランなら、あの巨大な天幕の高級サロンへ行ったわよ。ベイルも『モネさんの荷物持ち』とか言ってついて行ったけど」
「サロンだと?」




