繋がれた未来
「モネさんの背後は、指一本触れさせません……!」
ジネとトニーを庇う位置に陣取ったベイルもまた、黒いハットの端を低くかぶり直し、両手に構えた二枚の隠し短剣を閃かせる。接近してきた刺客の手に正確にナイフを叩き込み、手首の動きを完全に封じた。
「へっ、よく言ったベイル! こっちも負けてられねぇな!」
トニーもまた、負傷したジネを背中で庇いながら、片手で愛用の重厚なリボルバーを連射する。元・保安官としての無駄のない完璧な牽制射撃が、ベイルの隙を完璧に補っていた。
――わずか数分。
荒野を埋め尽くしていたはずの凶悪な用心棒たちは、一人残らず砂の上に転がり、呻き声を上げる肉の塊と化していた。
静寂を取り戻した荒野。
残されたのは、腰を抜かしてガタガタと震え、後ずさりする悪徳社長バレットただ一人。
「ひ、ひぃぃ……っ! た、助けてくれ! 金ならある! いくらでも払う! 頼むから命だけは……っ!」
惨めに砂まみれになりながら命乞いをするバレットの目の前に、硝煙を燻らせる二挺拳銃を携えたメアリーが、影を落としながらゆっくりと歩み寄った。
「お金……ねぇ」
メアリーの冷ややかな青い瞳が、バレットを見下ろす。
メアリーは冷ややかな瞳でバレットを見下ろすと、足元に転がっていた紙とペンを蹴り飛ばした。
「お金で解決したいなら、望み通りにしてあげるわ。……ただし、私たちが提示する条件にサインしなさい」
メアリーが突きつけたのは、厳格な誓約書だった。
【誓約条件】
先住民の土地からの即時完全撤退(二度と【黒い岩山】に立ち入らないこと)
土地の権利放棄と契約の完全破棄
違反時のペナルティ(一度でも協定を破った場合、会社の全財産を没収し、先住民コミュニティへ巨額の慰謝料を支払うこと)
「ひ、ひぃぃっ! 書く! 書くから助けてくれぇっ!」
命の危険を感じたバレットは、ガタガタと震える手で誓約書にサインと血判を押した。フランがその書類をひょいと取り上げ、ニッコリと微笑む。
「はい、お買い上げありがと。 破ったら次は頭を吹き飛ばしに行くからな?」
バレットと動ける傭兵たちは、一目散に荒野の彼方へ逃げ去っていった。
戦闘が終わり、荒野に静かな風が吹き抜ける。
トニーの手当てと先住民の薬草によってジネの出血は止まり、命に別状がないことが分かると、緊張の糸が切れたジネの目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「メアリーさん……トニーさん……みなさん……っ。ありがとうございます……! 私のせいで、こんな……っ」
メアリーはしゃがみ込み、ジネの涙を優しく指で拭った。
「泣きたいのはこっちよ。あんなところで撃たれて、立ち上がろうとして……どれだけ心配したか分かってるの?」
「でも……私、お二人から貰った命で、どうしてもこの人たちを守りたかったから……っ」
そう言って笑うジネの頭を、トニーが大きな手でガシガシと優しく撫でた。
「たく……無理しやがって。あの時も今も、お前の無鉄砲さは変わらねぇな」
トニーはメアリーと顔を見合わせ、二人で温かい笑みを交わし合った。
「でもさ、トニー。これでやっと……あの日のお返しができたわね」
「ああ。あの時、ボロボロになりながら俺たちを逃がしてくれた小さな命が……こんなにも立派に、みんなを守る『架け橋』になったんだ。恩返しどころか、誇らしいよ」
先住民の長老と戦士たちもジネの元へ歩み寄り、胸に手を当てて深く感謝の礼を捧げた。焼かれた旗の焦げ跡の上に、双方の「平和の協定」がしっかりと結ばれた瞬間だった。
夕日に照らされる【黒い岩山】。
車椅子代わりの馬車に乗ったジネを真ん中に、ポニーテールを揺らすメアリー、呆れつつも微笑むトニー、見守るフランとモネ、そしてキリッとハットを整えるベイル。
かつて命を救われた少女と、彼女を救った5人のならず者たち。
荒野に刻まれた絆の物語は、美しい夕暮れの光の中で幕を閉じるのだった――。




