叫ばれる怒り
一触即発の射線へ向かってメアリーが全力で地を蹴る。だが、飛び交う殺気のスピードにはあと一歩届かない!
――バシッッ!! ズドンッ!!
「あぁっ……!?」
先住民の放った迷い矢がジネの肩を深く射抜き、同時に悪徳社長の傭兵が放った非道な弾丸がジネの右足を打ち抜いた。
鮮血が舞い、ジネはその場に力なく膝をつき、赤茶けた砂の上にうずくまってしまう。
「ジネーーーーーッ!!!!」
メアリーは悲鳴のような叫びを上げながら滑り込み、自分の身を盾にしてジネの小さな身体へ必死に覆いかぶさった。
「ジネ! しっかりして! ジネ!!」
だが――ジネは途切れそうな意識の中、自分を庇うメアリーの身体を、震える手でゆっくりと押しのけようとした。
肩と足から激痛が走り、苦痛に顔を歪めながらも……ジネはメアリーに向かって、痛々しくも力強い笑みを浮かべてみせた。
「このくらい……っ……平気……です……」
「馬鹿言わないで! 動いちゃダメ!! 傷が開く……!!」
「私が……こんなところで倒れる……わけには……いかない……っ」
血を流しながら、なおも双方を止めるために立ち上がろうとするジネ。だが、激痛に膝が折れ、よろけて再びその場に座り込んでしまった。
「ジネッ!!」
血に染まるジネを抱きかかえ、メアリーは血走った瞳で双方の陣営を猛然と睨み上げた。その青い瞳には、溢れんばかりの怒りと涙が宿っている。
「こんなことをして恥ずかしくないの!? こんな、命がけであなたたちを救おうとしてる少女を傷つけて……ッ!!」
メアリーの怒号が荒野に響き渡る。
後方から必死に追いついてきたトニーは、ハッと息を呑んで脚を止めた。
(……な、なんだ? なんで攻撃が止まってるんだ……!?)
メアリーが叫びながら乱入したくらいで収まるような殺気ではなかったはずだ。一体何が起きたのかと、トニーが慌てて辺りを見回す。
そして、その目に信じられない光景が飛び込んできた。
バレット社長のすぐ後ろ――息を殺して死角に潜り込んでいたフランが、冷ややかな狂気の笑みを浮かべながら、社長の眉間に短銃を突きつけていた。
「動いたら、その汚い頭蓋骨を一瞬で吹き飛ばしますよ」
悪徳社長も傭兵たちも、いつ背後に回られたのかすら分からず冷汗をダラダラと流して硬直している。
そして反対側――先住民たちの中心地には、風に銀の髪をなびかせたモネが立っていた。
モネは先住民の長老の喉元へ、仕込み刀の銀色に輝く刃を寸分違わず突きつけている。その横では、ベイルが短剣を構えて先住民の若者たちの動きを完璧に封じ込めていた。
両陣営の「トップ」の命が、一瞬にして二人によって握られたのだ。これでは双方とも、引き金一つ引くことができない。
モネは長老の目を真っ直ぐに見つめ、先住民の言語で静かに、だが重みのある声で何かを語りかけていた。
何を言っているのかトニーには理解できなかったが、その真剣な眼差しと落ち着いたトーンから、「頼むから戦いをやめてくれ、これ以上この子の想いを無駄にしないでくれ」と伝えているのだと痛いほど理解できた。
「たく……手際が良すぎるだろ、あの二人……!」
トニーは安堵と呆れの混ざった溜め息をつき、すぐさまジネの元へ駆け寄って応急処置の準備を始めるのだった。
静寂が包み込む荒野。モネは先住民の長老の首元に仕込み刀を突きつけたまま、低く、だが全員の胸に突き刺さるような声で先住民の言葉を続けた。
「……この子を見てみなさい」
モネの鋭い視線が、血を流して倒れるジネへと向けられる。
「この子は肌の白い……あなたたちから見れば『敵』と同じ白人の娘よ。そして、あなたたち先住民の過激派に捕らわれ、髪も肌も黒く塗られて奴隷のように扱われていた……!」
「な……っ!?」
長老と先住民の戦士たちに激震が走る。ジネが隠してきた悲痛な過去。それを知る由もなかった彼らは、絶句して言葉を失った。
「それだけの酷い目を遭わされながら……この子はあなたたちを深く恨むどころか、あなたたちの誇りと命を守るために、言葉を学び、自分を痛めつけた双方の刃の真ん中に命がけで立っているのよ!!」
モネの言葉には、いつも余裕たっぷりな彼女からは想像もつかないほど熱い感情が乗っていた。
「その子の血を流させてまで通す誇りなんて、誇りでもなんでもないわ!!」
長老の目が大きく見開かれ、その瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。自分たちの誇りを守ることに必死になるあまり、目の前にいる少女が背負ってきた痛みにまったく気づけていなかった。
「……我々の……負けだ……。槍を引け……皆、武器を置くのだ……!」
長老の声に応え、先住民の戦士たちが次々と武器を地面に落としていく。彼らは後悔と申し訳なさの形相で、うずくまるジネへ向かって静かに深く頭を下げた。




