勇敢な少女
「感動の再会ごっこは終わったか?」
下品な笑い声を響かせながら前へ出てきたのは、黒い高級スーツに身を包んだ悪徳企業の社長――バレットだった。その背後には、重火器で武装した凶悪な傭兵たちがずらりと立ち並び、冷笑を浮かべている。
「おい、小娘。不法侵入しておいて『平和的な対話』だと? 笑わせるな! この【黒い岩山】は我が社が正式に買い取った土地だ。そこに居座る野蛮人どもは全員、我が社の利益を害する犯罪者なんだよ!」
バレットの横暴な言い分に、ジネは怯むことなく、すっと背筋を伸ばして双方の真っ真ん中に立ち塞がった。
「違います! この土地は古くから彼らの聖地であり、この方たちの生活の場です!」
ジネは瞬時に先住民たちの方向へ向き直ると、彼らの言語でかいつまんで状況を説明した。彼らが無用な流血に巻き込まれないよう、必死に言葉を紡ぐ。
説明を聞いた先住民の長老と若い戦士たちが、悔しさに歯を食いしばりながら、岩山の上に高く掲げられた一条の布――自分たちの部族の印である【伝統の旗】を強く指さした。
「あそこを見ろ! あの旗は何年も、何十年も前からあそこに掲げられている! これこそが、我々がこの土地と共に生きてきた何よりの証拠だ!!」
ジネはその言葉を正確に翻訳し、バレットへと突きつける。
「聞き届けてください! あの旗こそが、彼らがずっとここで暮らしてきた動かぬ証拠です!」
「……ほう、あのゴミ切れが証拠ねぇ」
バレットは口元を歪め、ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべた。
その瞬間――メアリーの直感が激しい警鐘を鳴らした。
(……ッ!? あの男、笑った……!?)
「ジネ、伏せ――ッ!!」
メアリーの叫び声と同時に、傭兵の陰から一本の【火のついた矢】が放たれた。
――シューッ……ボッ!!!!
放たれた火矢は吸い込まれるように岩山の上の旗へと突き刺さり、乾燥した風に乗って一瞬で激しい炎を上げた。色鮮やかだった部族の象徴が、猛火に包まれて黒く焼けただれていく。
「な……っ!?」
ジネが目を見開く。
燃え盛る炎はあっという間に旗を焼き尽くし、荒野の吹き荒れる嵐によって、灰となった破片が空へと虚しく吹き飛ばされていった。
後にはただ、白い焼け焦げた布切れの端だけがわずかに残り、悲しくひらひらと揺れているだけだった。
「ハハハハ! 証拠だって? どこにそんなものがあるんだ? あるのは焦げたゴミくずだけじゃないか!」
バレットが高笑いを破裂させる。
「ふざけるなァァァッ!!」
聖地と誇りを踏みにじられた先住民たちの怒りが、ついに限界突破した。
ジネの制止も耳届かず、叫び声を上げながら槍や弓、火縄銃を構え、一斉に傭兵たちへと突撃を開始する。傭兵たちもまた、ニヤニヤと笑いながら銃口を先住民たちへ向け、引き金に指をかけた。
一触即発――双方の放つ弾丸と槍が交差する死の射線。
その真ん中から、ジネは一歩も身を引かなかった。
「やめてください!! 引いてはダメです!! 撃ち合えば全員死んでしまいます!!」
両手を大きく広げ、飛び交う殺気の真っ只中で立ち続けるジネ。その瞳には恐怖による激しい揺れがありながらも、「誰も死なせない」という絶望的なまでの強い意志が宿っていた。
「あいつら……ッ! ジネを巻き込む気か!!」
トニーが怒りに顔を跳ね上げ、銃を構える。
「メアリーちゃん!」
「言われなくてもッ!!」
誇りを踏みにじられた先住民の怒り、悪徳社長の嘲笑、そして絶体絶命の射線上で命を懸けるジネ。
メアリーはポニーテールを激しく揺らし、愛用の二挺拳銃を引き抜くと、地を蹴って飛び出した――!




