要塞と化したサンシャイン号
メアリーの言葉に一同の士気が跳ね上がる中、操縦室では素早く、かつ狡猾な作戦が練り上げられていた。
「作戦を伝えるわよ!」
メアリーが作戦の全貌を告げる。
一般市民の脱出: メアリーたちがド派手に正面突破を開戦させると同時に、隠しておいた救命ボートで島とは逆側の海へ脱出を開始する。
賞金首たちの動員: 気絶から目覚めた動ける賞金首どもを脅し……もとい、「生き残りたければ協力しろ」と説得して手駒として配置する。
「あいつらは最大の誤算をしてるわ」
メアリーはニヤリと凶暴に笑った。
「ここには賞金がかかった悪党が大勢集められてる。それはつまり『腕の立つ連中が山ほどいる』ってこと! そして……ここに『不殺』を貫いて敵を生かしまくった私という、賞金稼ぎがいるってことよ!」
「ふふっ……『不殺』もたまには役に立つものなのね」
モネがざっくり開いた胸元を揺らし、仕込み刀を弄びながら楽しそうに笑う。フランも「メアリーちゃんの優しさが最高ってことだね♡」と目を輝かせた。アイザックとジークは、自分たちが待ち構える船の中に「元気に戦える悪党の大群」が潜んでいることなど、夢にも思っていないのだ。
ーガンガンガンッ!! ガァァァンッ!!ー
船着場に接岸した『ヴェルサイユ号』の大扉の外から、荒々しい打撃音が響き渡る。下で待ち構えていた海賊のボス、アイザックとジーク兄弟が痺れを切らしていた。
「おらぁッ! 開けろ!! 開けねえなら力ずくで開けさせるだけだぞコラァ!!」
大柄で凶悪な顔をした兄のアイザックが怒鳴り散らす。
「兄貴、さっさとやっちまおうぜ! おら野郎ども、さっさとその扉をぶち壊せッ!」
小柄で素早い弟のジークが子分たちに指示を飛ばす。
だが、船内のエントランスはすでに巨大な要塞へと変貌していた。メアリーたちの指示により、重厚な高級家具やピアノ、観葉植物などが扉の裏に山積みにされ、簡単には突入できないよう頑丈なバリケードが築かれていたのだ。
「フン……バカどもめ、準備時間をくれて感謝するぜ」
バリケードの陰でトニーが狙撃銃を構え、ベイルも黒いハットを深々と被り直して短剣を握り締める。
バギャァァァンッッ!!
ついに破られた大扉から、海賊の群れとなだれ込んできた!
「死ねやぁぁぁ悪党ども――」
だが、入ってきた海賊たちを待ち受けていたのは、吹抜けの壁や上の階の陰から一斉に放たれた第1軍、賞金首たちの狙撃だった!
ズバババババンッ!!
「ひぎゃあッ!?」
「な、なんだこの銃撃は――ッ!」
予期せぬ集中砲火を浴び、先頭の海賊たちが蜂の巣になって崩れ落ちる。
「怯むなッ! 上へ登れ! 階段を突破しろ!!」
狂乱しながら第1軍の銃撃を潜り抜けた海賊たちが大階段を駆け登ろうとした、その瞬間――
ゴロゴロゴロゴロ……ッ!!
「な、なんだあのドデカい樽と金庫はぁぁぁ!?」
上層階から、メアリーたちが転がした超重量級の樽や豪華な家具、巨大金庫が階段を猛スピードで落っこちてきた!
「ぎゃあぁぁぁーッ!?」
下で押し寄せていた海賊たちがボウリングのピンのように一網打尽になぎ倒されていく。
さらに、奇跡的に階段の上まで辿り着いた命知らずな海賊たちを待っていたのは――最強の5人だった。
「はい、お疲れ様~♡」
メアリー、フラン、トニー、モネ、ベイルの5人は、上がってきた海賊たちを容赦なく打ちのめすと、そのまま船のデッキから外の海へ次々と投げ飛ばした!
ドパーンッ! ドパーンッ!
「ぶはっ! 銃が湿気て使えねぇ……!」
「うう……もう戦えねぇよお……」
海賊ゆえに海に落ちても死にはしないが、冷たい海へ叩き落とされ、自慢の火縄銃や拳銃は水浸しで全滅。戦意を完全に喪失した海賊たちが海面にぷかぷかと浮き上がっていった。
大勢いた雑魚海賊たちがすっかり片付き、しんと静まり返ったエントランス。
血相を変えて階段を登ってきたのは、怒り心頭のボス兄弟――アイザックとジークだった。
「よくも……よくも俺の可愛い子分たちをやりやがったな貴様らぁぁぁッ!!」
「タダで死ねると思うなよ!! 全員肉片にしてやる!!」
青筋を立てて怒り狂う二人を見下ろし、上層階の縁に立つ5人はニヤリと余裕の笑みを浮かべた。
「それじゃ、バイバ~イ!」
メアリーの合図とともに、5人はそのまま窓枠を蹴り、島側の地面へと一気に飛び降りた。
「「はぁ!? 何やってんだお前らぁぁぁッ!?」」
叫ぶ兄弟の頭上で――ボッ!!!!
メアリーたちが仕掛けておいた導火線が弾け、『サンシャイン号』の内部から一気に炎が吹き上がった!
「なっ……火事だぁぁぁッ!?」
「兄貴、やばい! 船が燃えてるぞ! 逃げろ、みんなを助け出せ!!」
仲間意識だけは無駄に高い海賊兄弟は、自分たちの命と船に残された手下の救出に必死になり、メアリーたちを追うどころではなくなってしまった。その隙に、手駒として戦わされていた賞金首たちも、ドサクサに紛れて島へ逃げ出していく。
煙を上げる船を背に、ゆったりと海岸線を歩いていく5人。
一般市民を乗せた救助ボートも、無事に安全な海域へと脱出していくのが見えた。
「ふぅ……あいつらの大型海賊船が近くの入江に停泊してるはずよ。それに乗って脱出しましょ」
予測通り、岩陰には海賊兄弟が乗ってきた豪華な海賊船が手付かずで繋がれていた。
脱出を果たした賞金首たちも、遠くからメアリーたちに向かって「助かったぜ、メアリー!」「あんた最高だ!」と口々に感謝の声を上げて去っていく。
だが……無事解決したというのに、メアリーだけがポニーテールを揺らしながら、どこか物足りなさそうに頬を膨らませていた。
「ハァ……結局、この賞金首たちを全員捕まえられなかったから、一銭も賞金が入らないわね……」
「おいおい……ここまできて金かよ」
トニーが呆れ果てて額を押さえる。
「だって! 船に乗せられてた船員さんたちの借金、代わりに返してあげたかったんだもん!」
「あ、そっか……」
メアリーの言葉に、トニーは一瞬ポカンとしてから、バツの悪そうな顔で頭をかいた。いつだって自分の欲望のためだけに動いているように見えて、最後に考えるのはやっぱり「誰かのため」なのだ。
そんなメアリーの横顔を見て、モネがくすくすと楽しそうに胸元を揺らした。
「ふふ、大丈夫よメアリー。そういえば海軍が言っていたわ。『アイザックとジーク兄弟にも、破格の懸賞金が掛けられた』ってね」
「えっ!?」
「あの二人は生きて海軍に引き渡せばいいし……今回の『海賊一味退治』の手柄を、あの船長さんたちにあげればいいじゃない。そうすれば懸賞金で借金なんて一発で帳消しよ」
「……! モネ、あんた天才ね!!」
パッと顔を輝かせるメアリー。
「よし! じゃあ海賊船を奪って、安全な港まで船員さんたちを送り届けるわよーっ!」
青空の下、高らかな笑い声とともに、5人を乗せた新たな船が大海原へと漕ぎ出していくのだった――!




