モネの隣
「い……いいん……です……か……!? 昔からフランに隠れて影薄かった僕なんかが、モネさんの……相棒に……!?」
「もちろん! ベイル、腕は立つんでしょう? これからこの船の賞金首どもを片っ端から倒すのに、強い相棒が必要だったのよ!」
ポン、と柔らかい手で肩を叩かれ、ベイルの鼻から血が出そうになる。
「モ、モネさん……! 俺、一生ついていきます!! フランのことなんてどうでも良くなりました!!」
「あはは、話が早くて助かるわ~!」
一瞬で敵を味方に引き入れたモネは、満足そうにフフンと胸を張った。
……その一部始終を、呆然と見ていた残りの三人。
「……何なのよ、あの女のたらし込みスキルは」
メアリーが呆れ果てた顔で呟き、トニーは遠い目をして深く溜め息をついた。
「いや……あのベイルって奴もチョロすぎるだろ……さっきまでの狂気はどこ行ったんだよ……」
「……ハァ。まあ、僕の手が汚れないで済んだから良しとするか」
フランは心底くだらなそうにナイフを収めると、すぐさま笑顔でメアリーの元へ駆け寄った。
「メアリーちゃん! 刺客も無事に解決したし、僕たちの『賞金首狩り』を再開しようね♡」
「ええ! モネとベイルも入って戦力が増えたんだもの、船中の賞金首を片っ端から狩り尽くすわよーーッ!!」
モネは輝かしい笑顔でベイルに語りかける。
「よし! ベイル、これからよろしくね!」
「はいっ!! モネさんのためなら、この船の賞金首全員ブチ殺してみせます!!」
さっきまでの血走った眼光はどこへやら、モネに『相棒』と呼ばれたベイルは、尻尾を千切りんばかりに振る忠犬へと姿を変えていた。嬉々として自分の頭に載った黒いシルクハットの位置をキリッと整えている。
そんな二人を前に、トニーは眉間を押さえて深い溜め息をついた。
「ハァ……まさかこんなアッサリ解決するとはな。……つーかベイル、お前プライドとかねえのかよ」
「うるさいぞお前! 俺は今、人生で一番幸せなんだ!!」
「はいはい、仲良くね~」
モネはふふんと鼻歌を歌いながら、ざっくり開いた胸元を直して仕込み刀を肩に担ぎ直した。
……だが。
その光景をじーっと見つめていたメアリーだけが、ふと片足を止めた。
青い瞳を細め、ベイルの頭上に輝く「黒いハット」とモネの満足そうな笑顔を交互に見比べる。
……待って。あれ……?
「ベイル、その帽子、よく似合ってるわ」
「は、はいッ!! モネさんにそう言っていただけるなら、一生脱ぎません!!」
モネに深々と被り直してもらった黒いハットを慈しむように撫でながら、ベイルは完全に魂を抜かれた顔でデレデレと後ろをついていく。
それを見て、トニーは呆れ果てて首を振り、フランは「まったく、気味の悪い男ですねぇ」とメアリーの隣で不快そうに呟いていた。男二人は単に「モネの気まぐれにチョロい男が引っかかっただけ」としか思っていない。
ふと足をとめたモネが、黒いハットを被ったベイルの背中を愛おしそうに、けれどどこか遠い目で見つめているのを、メアリーは見逃さなかった。
その瞳に宿っていたのは、目の前のベイルに向けられた感情ではない。
かつて背中を預け、そして二度と会えなくなったあの男――ウィリーへの、切なくも消えない面影。
……やっぱり。
メアリーはそっと息を吐き、隣を歩くモネと視線を合わせた。
目が合った瞬間、モネは一瞬だけハッとしたように目を見開き、それから「あはは、バレちゃった?」とでも言いたげな、少しだけ困ったような、イタズラっぽい笑みをメアリーだけに向けた。
言葉なんて交わさなくても、伝わる。
ほんと……罪な女なんだから。
男たちには絶対に分からない、女同士だけの小さな秘密。
メアリーは肩をすくめて苦笑すると、モネにだけ分かるように小さくウィンクを返した。
「さーて! 湿っぽい雰囲気はここまでよ! 男ども、遅れないでついて来なさい!!」
「「「おー!!」」」
真相を知らない男たちの威勢のいい返事を背に受けながら、メアリーとモネは顔を見合わせ、くすくすと楽しそうに笑い合うのだった。




