告白
ギィィィィンッッ!!
ナイフと短剣が激しく交錯し、火花が暗闇のホールを照らし出す。
超高速の打ち合いの中、ベイルはギラついた瞳を血走らせ、涎を垂らさんばかりの狂気でフランを睨みつけた。
「なぁフラン……知ってるかぁ? 昔、俺が組織に入ったばかりの頃……誰一人信用できなくて、全員殺してやろうと思ってた俺に、ただ一人優しく声をかけてくれた奴がいたんだよ……」
「……何の話をしてるんだ」
氷のように冷たい顔で攻撃を捌くフラン。しかし、ベイルの言葉は止まらない。刃を交えたまま、ねっとりとした声で囁き続ける。
「モネだよ……モネだ!! 初めての潜入任務で俺が失敗して死にかけた時、あいつは自分の身体を張って俺を助けてくれた! 全身から甘い匂いをさせて、笑いかけてくれたんだよ……! 『大丈夫か?』ってなぁッ!!」
ベイルの脳裏に焼き付いて離れない、あの豊かな胸と美しい笑顔。
誰にでも気さくに話しかけるモネにとっては、ただの「同僚への気遣い」に過ぎなかった。だが、孤独だったベイルにとってはそれが人生の全てになってしまったのだ。
「なのにッ……あいつの隣にはいつもお前がいた! お前という『天才』が!!」
ガキンッ!!
ベイルが狂暴に刃を押し込む。
「お前が組織を抜け出して消えた時、俺は歓喜したさ! これでやっと俺がモネの隣に立てるってなぁ! なのにあいつは……俺の手の届かない、あの化け物幹部のウィリーの相方になっちまった……! 遠い雲の上の存在になっちまったんだよおぉぉッ!!」
「……」
「なのに……なんでだ……!? なんで組織が壊滅して自由になった今、あいつはお前らの側にいるんだよおおおッ!! お前の元に楽しそうに戻ってきてるんだよぉぉぉッ!!」
ベイルの叫びは、もはやただの逆恨みと狂気じみたストーカーの執念そのものだった。
胸ポケットからポロリとこぼれ落ちたのは、ベイルが盗撮・収集していたであろう「モネの過去の手配書や隠し撮り写真の束」。
「わかってんだ……嫉妬だよ……! 羨ましくて、恨めしくて、殺したくてたまらねえんだよフラン!! お前さえ死ねば……お前さえいなくなれば、モネは俺を見るかもしれないんだからなぁぁぁッ!!」
ベイルが凄まじい執念でフランの喉元へ殺意を叩きつける!
――だが。
遠くでその叫びを聞いていた当のモネは、敵の頭を仕込み刀の柄で叩き割りながら、心底嫌そうに綺麗な眉をひそめていた。
「……何だあの男。私の名前を連呼して……気味が悪いわ」
モネにとってベイルは「ただ昔いた同僚の一人(名前すらあやふや)」でしかなかったのだ。
そして、ベイルの歪んだ妄想を真っ向から受け止めたフラン――
「……ハァ」
心の底からくだらない、というように深々と溜め息を吐いた。
その瞳に宿ったのは、軽蔑と、絶対的な『殺意』。
「勘違いするなよ、ストーカー野郎」
フランの雰囲気が一変する。
「モネが誰の隣に立とうが、僕にはどうでもいい。……だが、お前のその汚い殺気と存在が、メアリーちゃんの視界に入るだけで不快なんだよ」
ベイルの「モネへの執着」に対し、フランの軸はどこまでも「メアリー」ただ一人だった。
フランの手首が目にも留まらぬ速さで翻り、暗黒の『死神』の刃がベイルの死角へと滑り込んだ――!
冷酷な死神の貌で暗殺ナイフを構え直すフラン。まさにベイルの首を刎ね飛ばそうとした――その瞬間だった。
「ああーーーっ!! なんだ、そういうことだったの!?」
すぽーん、と場違いなほど明るく華やかな声がホールに響き渡った。
見れば、巨漢の賞金稼ぎを軽々と倒したモネが、ざっくり開いた胸元を揺らしながら、手にした仕込み刀を収めて目を輝かせている。
「私のことが好きだってこと!? なんだーー!! 早く言ってよーー!!」
「……は!?」
殺気走っていたベイルの動きがぴたりと止まった。あまりの反応に、フランすら毒気を抜かれてナイフを構えたまま固まる。
モネは艶やかな髪をなびかせ、大人の色気と無邪気な笑顔を振りまきながら、ベイルの目の前まで歩み寄ってきた。豊かな胸の谷間が目の前に迫り、ベイルの顔が一気に爆発したように真っ赤になる。
「な、ななな何言ってるんだお前はっ! 俺は殺そうと――」
「だって、命を助けた時からずっと私を見ててくれたんでしょう? ウィリーの相方になった時も、遠くから見守っててくれたんだ!」
「い、いや、見守ってたっていうか、ストーキングというか嫉妬で……」
「よし決めた! じゃあ、あたしと相棒にならない!?」
「え……!?」
ベイルの目玉が飛び出しかけた。
さっきまで「殺してやる」と叫んでいた狂気が一瞬で吹き飛び、ただの恋するピュアな少年の貌に戻ってしまっていた。




