取引
「へっ……おい、待て……! その地図を、持っていく気か……!?」
床に倒れ伏したオークションの主催者が、血の混じった唾を吐き捨てながらメアリーの足元を睨みつけた。
「たかが小娘が……! タダで奪っていくだと……!?」
「は? タダで奪う? 誰がそんな泥棒みたいなことするって言ったのよ」
メアリーは懐に押し込んだ宝の地図をぽんぽんと上から叩き、フンと鼻を鳴らした。
「あんたたち、お尋ね者でしょ? 一人頭二万ドル、手下どもを合わせれば……ざっと懸賞金合計は二十万ドル越えね」
「な……なに……!?」
「100万ドルには届かないけど、あんたたちの懸賞金と、会場を荒らされた迷惑料! これでこの地図の代金は相殺にしてあげる! 保安官に突き出して、賞金はしっかり私たちがいただくから感謝しなさい!」
「代金の代わりに自分たちを売られるなんて、聞いたこともねええええ!!」
主催者の悲鳴を背に、メアリーはニヤリと不敵に笑った。
「トニー、このバカども全員縛り上げて、あとで街の保安官所に引き渡しといて!! それでこの地図は堂々と私たちのものよ!」
「お前……無茶苦茶な理屈だが、まあ……泥棒になるよりはマシか……」
毒の痺れからようやく復調したトニーが、呆れながらも手縄を放り投げる。フランはトニーを片手で担ぎ直すと、ウキウキとした顔でメアリーの隣に並んだ。
「流石はメアリーちゃん! 完璧な買いものだねぇ。……で、メアリーちゃん、その地図はどうするの?」
「うーん、今すぐ掘りに行くのも怪しいしね。悪党どもがこれだけ必死になってたんだもの、ただの金鉱じゃないかもしれないわ。……まあ、とりあえず持っておきましょ! これから先、何かあった時の最高に強い『交渉材料』になるかもしれないしね!」
「あはは、メアリーちゃんは本当に賢いなぁ♡」
「よしっ! 荒野の我が子たちが待ってるわ、ズラかるわよーーーッ!!」
オークション会場を大爆破と銃声の渦に叩き落とし、悪党どもを文字通り「身柄と引き換え」にして脱出した三人は、街の入り口にある繋ぎ場へと急いだ。
「あ、我が子たち〜! 無事だった〜!?」
メアリーが駆け寄ると、繋がれていた馬たちが嬉しそうに鼻を鳴らして擦り寄ってくる。メアリーは愛おしそうに馬たちの首筋を撫で、頬をすり寄せた。
「おいおい、早くずらかるぞ。街の警備員や生き残りの悪党が追いかけてくるかもしれないからな……」
トニーが胃をさすりながら周りを警戒していた、その時だった。
「おや……元気で素晴らしい馬たちじゃな」
馬かげから、カサついた低い声が聞こえた。
三人がハッとして視線を向けると、そこには使い古されたローブを羽織り、杖をついた見知らぬ老人がたたずんでいた。いつからそこにいたのか、足音すら聞こえなかった。
すかさずトニーとフランがメアリーの前に立ち、身構える。
「あんた、誰だ? 何の用だ!」
「まあ待ちなされ。争うつもりはないわい。……時に、お主たち、腕の立つ『賞金稼ぎ』とお見受けするが……違いないかね?」
老人は深々と被ったフードの奥から、怪しく光る瞳をのぞかせた。
そして、懐から二枚の豪華な金の刺繍が施されたチケットを取り出してみせる。
「実はな、この港から出る超豪華客船『サンシャイン号』に、巨額の懸賞金がかかった伝説の大悪党が潜伏しておってな。わしは追いたいのだが、いかんせん酷い船酔い持ちでな……。この『VIP特別乗船券』を譲る。代わりにその悪党を捕まえてくれんか?」
「はあ? VIP乗船券……? なんでそんな高級なものをあんたが持って――」
トニーが怪しんで問い詰めようとした、その瞬間。
「VIP乗船券!!??」
メアリーの目が『$』マークに変わり、ガタッと身を乗り出した。
「えっ、じゃあなに!? その船に乗れば、タダで豪華な部屋に泊まれて、最高級のお肉が食べ放題で、おまけに大物の懸賞金まで手に入るってこと!?!?」
「いかにも。船内は極上のシェフが振る舞うフルコースが食べ放題じゃよ」
「乗るーーーーーッ!!!!」
「おいメアリー待て!! 怪しすぎるだろ!! こんな美味い話があるか!!」
叫ぶトニーをよそに、フランはメアリーの輝く笑顔を見てウットリと頬を緩めていた。
「いいじゃないですか、トニーさん。メアリーちゃんが『乗りたい』って言ってるんだから。僕、メアリーちゃんがドレス着て旅する姿が見られるなら、どこへでもお供しますよ〜」
「お前も目を覚ませぇぇぇ!! 罠に決まってんだろ!!」
「罠だろうが何だろうが、お肉と懸賞金があるなら関係ないわ! 決まりね、港へ急ぐわよーーー!!」
こうして、トニーの悲鳴は荒野の風にかき消され、三人は老人が差し出した「甘い罠」である豪華客船サンシャイン号へと足を踏み入れることになったのだった。
――老人は、遠ざかる三人の背中を見送りながら、フードの奥で冷たくほくそ笑んでいた。




