旅立ち
風が冷たく吹き抜ける中、誰一人として声をかける者はなかった。
ただ、荒野を焦がすような真っ赤な朝日が、地平線の向こうからゆっくりと顔を出し、凍え切った世界と、泣き濡れるモネの背中を容赦なく黄金色の光で照らし出していく。
カサリ、と乾いた足音が響いた。
メアリーが、モネの方へ歩み寄る。
「……ねえ、モネ」
メアリーはしゃがみ込み、泣きじゃくるモネの背中にそっと視線を落とした。その声には、いつもの強気な響きの代わりに、どこか温かなものが含まれていた。
「一人でそんなところで膝抱えてたって、お腹は空くし、涙は乾くだけよ」
「……放っといてよ。あたしには、もう……」
「放っとけるわけないでしょ。ウィリーの帽子抱えて、そんな顔してる女を置いていくほど、あたしらは薄情じゃないのよ」
メアリーはふっと息をつくと、顔を上げないモネに向かって、まっすぐで力強い声を投げかけた。
「モネ、一緒に行かない? 私たちの賞金稼ぎを手伝ってよ」
「……は? 賞金稼ぎ、だって?」
モネがようやく、真っ赤に腫らした目をゆっくりと上げた。その濡れた睫毛の向こうで、驚きに揺れている。
「そう。世の中にはね、悪事を働いて人を泣かせるクズどもが山ほどいるの。そいつらをぶちのめして賞金を手に入れる。――それが私たちの仕事よ。もちろん、稼いだ賞金は山分け。あなたも、ウィリーのためにもう二度と大切なものを奪わせないために……暴れてやりたいでしょ?」
メアリーはニッと不敵に笑い、差し伸べた手をモネの目の前に突き出した。その手は、銃の扱いで少し硬くなっていたが、不思議と温かかった。
「……バカね、アンタ」
モネは荒荒しく手の甲で涙を拭うと、メアリーの差し出した手をじっと見つめた。そして、小さく首を横に振る。
「気持ちは嬉しいわ、メアリー。でも……ごめんね。今のあたしがアンタたちについて行ったって、足を引っ張るだけよ。それに……ウィリーと過ごしたこの時間を、一人でちゃんと噛みしめたいの」
モネは胸元のハットをもう一度愛おしそうに抱きしめると、ゆっくりと立ち上がった。その足取りはまだ少しおぼつかないが、瞳には確かな強い光が戻りつつあった。
「あたしはあたしのやり方で、あいつの生きた証を探すわ。……だから、一緒には行けない」
「……そっか。モネがそう決めたなら、無理には誘わないわ」
メアリーは差し出していた手を引っ込めると、少し寂しそうに、けれど清々しい笑顔を浮かべた。
「でもさ! 行き場に困ったり、私たちの可愛い馬たちに会いたくなったら、いつでもきなさいよ! 賞金稼ぎの枠、一つ開けて待ってるから!」
「ふふ……おせっかいな女ね。……じゃあね、メアリー、フラン、保安官さん」
モネは一度だけ振り返り、風に銀髪をなびかせながら、朝日が照らす荒野の向こうへと歩き出した。その背中はどこか小さく見えたが、もう二度と折れることのない強さを秘めていた。
フランがポツリとメアリーへ声をかける。
「モネのこと心配?」
「ううん。モネならきっと大丈夫。今まで数え切れないほどの死線をくぐり抜けてきたんだから……
よしっ! 私たちも行くわよ!」
メアリーは愛馬の首筋をぽんっと叩き、一気に鞍へと飛び乗った。
乾いた風がポニーテールを揺らし、愛用の銃の金属音が軽やかに鳴り響く。
「おいメアリー、次はどの街に向かうつもりだ? 俺はもう、これ以上厄介事に巻き込まれるのは御免だぞ」
「なに言ってるのトニー! 次の街にはね、すごーーーく大きな賞金がかかったお宝オークションがあるのよ! 稼ぐわよ〜!」
「……嫌な予感しかしないんだが……」
トニーの落胆混じりのツッコミを背に受けて、3人と3頭の愛馬たちは、朝日を背にして走り出した。




