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ガールライダー☆ 〜凄腕ガンマンの彼女と過保護な死神と真面目な元保安官の裏社会コメディ〜  作者: VANRI


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夜明け

 隠し通路の狭い岩肌を、四人は肺が破れるほどの速さで駆け抜けていた。


 だが、外の冷たい空気が肌に触れ、ようやく出口の光の先へと全員が飛び出した、まさにその刹那だった。


 ――ドォォォォォォォンッッッッ!!!!!


 これまでとは次元の違う、要塞の全壊を告げる【最大最強の大爆発】が、彼らのすぐ背後で炸裂した。地響きなんて生ぬるい言葉では足りない。大地がひっくり返るような凄まじい衝撃波と、背中を焼くような猛烈な熱風が4人の身体を容赦なく襲い、まるで木の葉のように荒野の宙へと吹き飛ばした。


 激しく地面をゴロゴロと転がり、硬い岩や砂に身体を激しく叩きつけられる。トニーが「うっ……!」と呻き、メアリーの金の髪が泥に塗れる。衝撃で三半規管は完全に破壊され、四人はそのまま、深い、深い闇の底へと意識を失っていった。


 ――どのくらいの時間が流れたのだろうか。耳の奥で鳴り響いていた爆音の残響が消え、辺りに訪れたのは、冷たい静寂だった。

 東の空の地平線から、夜明けの淡い光がうっすらと雲を紫色のグラデーションに照らし出す頃。


 フランは、額を伝う冷たい朝露の感覚で、はっと目を覚ました。


「う、……くっ……」


 満身創痍の身体に鞭打ち、激痛に耐えながらフランはゆっくりと上体を起こした。視界に入ってきたのは、昨日まで夜の闇にそびえ立っていた、あの組織の強固な本拠地――その『おぞましい瓦礫の山』だった。すべてが跡形もなく粉砕され、崩れ落ちた岩やレンガの隙間から、ただ白い細い煙だけが、虚しく朝の冷気の中へと立ち上っている。


 ウィリーは、本当にすべてを片付けて、あの炎の中に消えてしまったのだ。フランがその圧倒的な無の世界に呆然と立ち尽くそうとした、その時。


 瓦礫のすぐ手前、冷え切った荒野の泥の上に、一人の女性の影が座り込んでいるのが見えた。


 ――モネだった。


 ウィリーの薬から先に目を覚ましたのだろう。彼女は衣服を泥まみれにしたまま、完全に腰が抜けたような無様な姿勢で地面に座り込んでいた。彼女の手元には、もうあの鍵の束も、ウィリーを脅したナイフも握られていない。

 

 モネはただ、自分が命を賭して裏切り、そして最初で最後の愛を告げたあの男が消え去った、硝煙の立ち込める瓦礫の山を……言葉を失い、涙を流すことすら忘れたかのような、空っぽのヘーゼル色の瞳で、ただ呆然と見つめ続けていた。


 フランがその場に座り込むモネへと歩み寄り、「モネ……」と静かに声をかけようとした、その時だった。


 モネの身体が、何かに急かされるようにガタガタと激しく震え出した。彼女は生まれたての小鹿のようによろよろと立ち上がると、満身創痍の傷だらけの身体を引き摺り、時々激痛に顔を歪めながらも、真っ直ぐにあの瓦礫の山へと歩いて行った。


 そして――まだ黒く焦げ、熱を帯びた木材や岩のなかに、狂ったように両手を突っ込み、素手で激しく掘り起こし始めたのだ。


「ウィリー……っ!!  ウィリー!!!  ウィリー――ッッ!!!」


 指先から血を流し、爪が剥がれるのも厭わずに瓦礫を掻き出すモネ。

 辺りにはまだ、鼻腔を刺すような強烈な焦げ臭い匂いが立ち込め、かすかな白い煙が熱風と共にゆらゆらと立ち上っている。そこに触れれば、火傷をするほどの熱が残っているというのに、彼女はただ一心不乱に、愛する男の名前を叫び続けた。


「モネ……っ」


 フランはたまらず後ろから彼女の身体を強く抱きしめ、その無謀な暴走を必死に止めた。

 だが、モネはそのフランの腕を力任せにほどこうと、髪を振り乱して狂ったように激しく抵抗した。


「モネ!!  やめろ!!!  ウィリーは……ウィリーはもう、あの炎の中に消えたんだ……っ!!」


「離してよ!!  離して!!  ウィリーを助けなきゃ!!  ウィリー、ウィリー、ウィリー……ッッ!!!」


 狂気的なまでの拒絶。


 その時――ザザ、と乾燥した砂を踏む音がして、フランはハッと背後を振り返った。


 煙の向こうから、傷だらけのトニーとメアリーの二人が、お互いの肩を支え合い、引き摺るような足取りでゆっくりとこちらへ歩いてきていた。


「……モネ。これ、ウィリーさんのじゃない……?」


 メアリーが、痛々しく破れた衣服の袖から、一つの品をそっと差し出した。それは、あの怪物が肌身離さず被っていた、黒いハットだった。ハットはその重量の軽さゆえか、最初の極大爆発の爆風に乗って遥か遠くまで先に吹き飛ばされていたらしく、奇跡的に焦げ跡一つない、ほとんど無傷の状態で荒野の草の上に落ちていたのだ。


 モネはフランの腕を強引に跳ね除けると、吸い寄せられるようにメアリーの前へと進み出た。そして、煤と血で汚れた自らの両手で、その『黒いハット』を、壊れ物を扱うようにカタカタと激しく震わせながら受け取った。


「……間違いないわ。……これ、ウィリーのよ……」


 ウィリーの被っていた、あの使い込まれたフェルトの確かな感触。男の纏っていた、あの重い葉巻の匂いが、まだハットの裏側に微かに残っていた。


 男の生存の可能性が、完全にゼロになったことを証明する、冷たい形見。言い終わるや否や、モネの胸の檻が、完全に音を立てて決壊した。


「わぁああああああッ……!!!」


 モネはその場にドサリと泣き崩れ、ウィリーのハットを胸元に、強く強く抱きしめながら号泣した。


 彼女の口から溢れ出た泣き声は、まるで魂そのものを引き裂くような、ひどく高い、悲痛な叫び声となって、夜明けの冷たい荒野の空へと、どこまでも、どこまでも響き渡っていった。




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