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ガールライダー☆ 〜凄腕ガンマンの彼女と過保護な死神と真面目な元保安官の裏社会コメディ〜  作者: VANRI


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幕開け

 暗い寝室のなか、窓から差し込む朝の光はどこか白々しく、冷たかった。

 ウィリーは腰の銃を確かめ、ハットを目深に被り直しながら、低く呟いた。


「さあ、やるか……」

「……ええ」


 モネの声音は、昨日までの艶やかさを失い、ひどく掠れていた。


 ウィリーは彼女の横顔をじっと見つめ、その細い肩に手を置く。手のひらから伝わるのは、彼女の隠しきれない微かな震え。


「――いいんだな、モネ?」

「……」


 モネは何も答えず、ただ静かに目を伏せて沈黙した。フランを二度と裏切らないと誓い、ウィリーにナイフまで突き立てた彼女の心。

 しかし、ウィリーという男の隣で生きる覚悟との間で、彼女の魂は激しく引き裂かれていた。


 ウィリーは、彼女の心にまだ決心がつていないことを、その沈黙の重さですべて知り尽くしたまま、冷徹に実行へと移ることを決めた。



 ――数日後。宿屋の喧騒を離れた薄暗い広場で、ウィリーは再び三人の前にその姿を現した。


 だが、今回は初日と決定的に違っていた。彼のすぐ斜め後ろに、あの銀髪の元相棒――モネが寄り添うように立っていたのだ。


「モネ……お前も一緒、なのか」


 フランの口から、驚きと共に、どこか安堵の混ざった声が漏れる。


 先日、去り際に『あとは任せろ』とハンドサインを送ってくれたモネ。彼女が隣にいるということで、フランの刃のような警戒心は、ほんの少しだけ和らいでいた。


 だが、フランのプロの暗殺者としての嗅覚が、即座にモネの全身から漂う「異常な空気」を感知した。彼女はフランと目が合っても、昨日のようにあざとく微笑みかけることすらしない。

 ただ、操り人形のように無表情で、何かを必死に堪えるように視線を床へと落としている。その不自然な頑なさに、フランの胸の奥で、嫌な違和感がじわりと広がり始めた。


「――久しぶりだな、お前たち」


 ウィリーがハットを傾け、氷のような低い声で場を支配する。


「積もる話もある。昔のように、フラン、モネ、……俺たち3人だけで、少し奥でじっくりと話そうじゃねえか。余計な雑音は抜きでな」


 ウィリーはそう言うと、トニーとメアリーを遮るようにして、フランを二人の側から鮮やかに引き離した。


「待ちなさい、あんた……」


 メアリーが思わず腰の銃に手をかけようとしたが、その指先がピタリと硬直した。普段はのんきにお菓子を食べている彼女だが、単身で悪党を狩りまくっている凄腕の賞金稼ぎだ。


 目の前の髭面の男から放たれる、次元の違う圧倒的な殺気の質量。それを肌に浴びた瞬間、メアリーの脳内は未知の警報で満たされていた。


 隣に立つトニーもまた、前回の酒場での『気配すら察知できなかった恐怖』が脳裏をよぎり、全身に冷たい脂汗がじわりと吹き出るのを感じていた。


「……くそっ。これは確実に何かある……!」


 トニーの低い呟き。引き離されていくフランの後ろ姿を見つめながら、二人の胸には、底知れない不穏な予感と不安が、激しく渦巻き始めていた。



 トニーとメアリーから完全に引き離された薄暗い路地裏。

 ウィリーはハットの影から鋭い視線を投げかけ、懐から煙草を取り出して火を灯した。立ち込める重い煙の匂いのなかで、男は驚くほど静かに、本題を切り出した。


「――フラン。お前に、俺から一つ提案がある。

 ……俺と一緒に、あの組織を跡形もなく叩き潰さないか?」

「……何だと?」


 フランの美しい眉が、驚愕に跳ね上がる。


「お前はすでに組織の最重要抹殺対象だ。そして、あの賞金稼ぎの娘もな。このままあいつらの傍にいれば、あの元保安官だって、遠からず組織の猟犬どもの標的にされるだろう。

 ……俺たちも上からの命令をただこなすだけの猟犬だが、これ以上、あの腐った場所に縛られるのは御免だ。奴らの腕が立つと言っても、大きな暗殺案件で主要な人員が出払った夜間なら、ボスの警護は信じられないほど手薄になる。……俺たち3人の技術なら、やれないことはねえだろ」


 

 ――メアリーとトニーに、組織の牙が迫る。その冷徹なプロファイルが、フランの胸の奥を激しく揺さぶった。


 メアリーたちの命が脅かされるのなら、自分がどれほどの地獄に足を踏み入れようが、躊躇する理由などどこにもない。

 だが、フランはウィリーの目を真っ直ぐに見据え、一切のブレのない声で条件を突きつけた。


「……いいでしょう。この取引、乗ります。ただし、条件が一つあります」


「言ってみろ」


「メアリーちゃんとトニーさん、あの二人だけは、この件に絶対に一歩も関わらせないでください。彼らを巻き込んだら、僕はあなたを殺して、一人で組織に向かいます」


 ウィリーは「チッ、つまらねえな……」と、心底残念そうに肩をすくめた。


「頭数は多い方が成功率は跳ね上がるってのに、ツメが甘い奴だ。……なぁ、モネ?」


 横に立つモネは、何も言わず、鉄の仮面を被ったかのように無表情のまま佇んでいた。だが、彼女の胸の奥は、今にも張り裂けそうなほどの羨望と激痛で血を流していた。

 奪いようのないその強い絆が、彼女の心を狂おしいほどに締め付ける。



 フランはいつものように、トニーたちのいる酒場へと戻ると、少し顔を赤くして頭を掻きながら、いつも通りの「軽薄なお調子者」の笑顔を取り繕って話を作り出した。


「いや〜ごめんなさい!  ちょっと昔の知り合いと込み入った話をしてきちゃって。僕はこれから、その人たちと片付けるべき別の仕事がありますので、しばらくお別れです。お二人とも、僕がいなくても泣かないでくださいね?」


「あぁ、そうか。お前がいないと静かで助かるぜ」


「そうそう、フランの分の食費が浮くしね!」


 トニーもメアリーも、いつも通りの呑気な笑顔を浮かべ、からかうように手を振ってフランを送り出した。


 ――だが、フランの足音が酒場の外へと消え去った、まさにその瞬間。二人の顔から、すべての笑顔が綺麗に消え失せた。


「……メアリー。お前も、気づいたな」


 トニーが低く、地鳴りのような声を響かせる。


「ええ。フラン、いつも通りヘラヘラ笑ってたけど、手綱を握るみたいに、右手が不自然にずっと強張ってた。……確実に、私たちに隠れて一人でとんでもない死線に向かおうとしてるわ」


「あぁ。あのバカ、俺たちを巻き込まないために一人で泥を被る気だな」


 トニーは腰の銃の重みを確かめ、鋭い眼光で扉の先を見据えた。


「甘く見られたもんだな。……行くぞ、メアリー。あのストーカー暗殺者を、今度は俺たちが後ろから『ストーキング』してやる番だ」


 二人は音もなく席を立ち、フランの残した僅かな気配を追うようにして、夜の暗闇のなかへと静かに、しかし確実にその足跡を刻み始めた。





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