列車での銃撃戦
強盗が呆然としたその一瞬の隙を、3人が見逃すはずがなかった。メアリーの神速の早撃ちが男の武器を弾き飛ばし、トニーが遮二無二突進して子供を無傷で抱きとめた。
「メアリーちゃん、子供を! トニーさんはそのまま3両目の金庫室の防衛を!」
「フラン、お前は!?」
「僕は……僕のノワールを迎えに行きます。屋根の上からね」
そう言ってフランは窓から車外へ身を躍らせ、爆走する列車の屋根へと駆け上がった。しかし、そこで待ち受けていたのは、これまでのならず者とは明らかに風貌の違う、不気味なほど冷静な一人の凄腕ガンマンであった。
激しい突風が、フランの美しい金髪を容赦なく掻き乱す。時速数十マイルで驀進する列車の屋根の上は、立っているだけで身体が吹き飛ばされそうになるほどの凄まじい風圧に満ちていた。
フランが最後尾の家畜車両へ向けて、鉄板を蹴って走り出そうとした――その瞬間。煙突からの真っ黒な煙の向こう側に、一筋の細い影が、手綱を握るように泰然と佇んでいるのが見えた。
「――やはり、そう来たか」
男は、風の咆哮に負けないよく通る声で、低く呟いた。
やはり……? おかしい。僕はこいつと会ったことなど一度もないはずなのに……なぜ、僕の動きを完璧に予測していたんだ……!?
フランの背に、氷水を浴びせられたような不気味な戦慄が走った。だが、思考が形を成すより早く、男の持つ二挺拳銃が信じられない速度で火を噴いた。
パパァン!!!
「っ……!!」
フランは咄嗟に屋根の上を転がり、弾丸をかわす。しかし、足元の鉄板が列車の激しい横揺れで大きく傾いた。三半規管が狂い、身体が荒野の奈落へと投げ出されそうになる。
ゴオオオオオオオオッ!!!!
その時、目の前に漆黒の闇――断崖をくり抜いた「岩のトンネル」が、猛烈な速度で迫ってきた。
「しまっ……!」
フランは反射的に屋根の上に完全に身を伏せ、背中を鉄板へと叩きつける。
ガガガガガガッ!!!
鼻の先をかすめるように、トンネルの冷たい岩肌が、凄まじい轟音と冷気を伴って頭上を通り過ぎていく。一瞬でも首を上げるのが遅れれば、頭部が消し飛んでいただろう。
その暗闇のなかでさえ、敵の男はフランの動線を予測し、跳ね返る火花の中で次弾を装填している。トンネルを抜けた瞬間、強烈な逆光が視界を遮る。その隙を突いた男の鋭い蹴りが、フランの胸元を捉えた。
「うっ……!」
衝撃でフランの身体が宙を舞い、列車の屋根から完全に外へと放り出される。
「フラン――!!」
下の窓からそれを見たメアリーが悲鳴を上げる。だが、フランは落下する寸前、驚異的な反射神経で、列車の外壁にある細い鉄の手すりへと片手一本でしがみついた。
ガガガガガ、ミシミシッ!!!
凄まじい風圧がフランの身体を千切り取ろうと襲いかかる。眼下を狂ったように流れていく線路の砂利。側面にしがみついたまま、フランは激しいきしみ音を立てる車体にしがみつき、必死に歯を食いしばった。
頭上の屋根からは、冷徹な足音が近づいてくる。
――手強すぎる。この男、強盗団のレベルじゃない。まるで、僕を知り尽くしているかのような――。
激しい風圧がフランの身体を容赦なく千切り取ろうと襲いかかる。手すりにしがみついた左手の指先は、すでに感覚を失いかけていた。
屋根の上から、男の冷徹な銃口が再び自分へと向けられる。カチリ、と撃鉄が起こされる死の金属音が、風の咆哮に混ざって聞こえた。
――ここで、死んでたまるか……!
フランは胸元の衣服の奥、しっかりと仕舞い込まれた『四葉のクローバーのネックレス』の冷たい感触を、肌に感じた。
――夢が叶う時に、返しに来い。あの小さなリオールと交わした、絶対に死んではいけないという不器用な誓い。
それが、凍りつきかけていたフランの肉体に、爆発的な熱量を呼び覚ました。
敵の男が引き金を引く、まさにその一瞬前――フランは驚異的な柔軟性で、列車の側面を蹴って大きく身体をスイングさせた。
ズドンッ!!!
男の放った銃弾が虚しく大気を切り裂いた瞬間、フランは遠心力を利用して一躍で屋根の上へと這い上がり、そのまま流れるような動作で腰の銃を抜き放った。
パァン!!!
「がはっ……!」
フランの放った精密な一撃は、男の二挺拳銃の銃身を完璧に撃ち砕き、その衝撃で男の身体を爆走する列車の屋根から荒野の奈落へと激しく叩き落とした。砂煙の中に消えていく敵の影。
「ふぅ……、ゼェ……」
フランは熱を持った銃身を握り締め、激しく波打つ胸を押さえて屋根の上に這いつくばった。確かに勝った。だが、胸の奥をチリチリと焼くような、奇妙な違和感が消えない。
だが、最後尾の家畜車両から、相棒のノワールたちの激しいいななきが聞こえ、フランは思考を打ち切った。
「今助けるからな、ノワール……!」
フランは屋根を駆け抜け、最後尾の車両へと突入して残りの強盗たちを一瞬で無力化し、愛馬たちを無事に救出したのだった。
――事件はすべて、解決した。2両目の乗客の子供もトニーによって無傷で保護され、3両目の現金輸送車もメアリーの早撃ちによって守り抜かれた。目的地の駅に列車が滑り込み、三人は破格の報酬を受け取って、愛馬たちの手綱を引いてホームへと降り立った。
「いやぁ、それにしても今回は骨が折れたな。あの屋根の上の奴、尋常じゃなく手強かっただろ」
トニーがロッキーの鼻先を撫でながら、ふぅとため息をつく。
「はい、多少はね」
フランはノワールのたてがみをブラシで優しく梳かしながら、いつも通りの笑顔で淡々と答えた。
「まあ、裏社会には、たまに変わった手練れもいるってことですよ。無事にノワールたちも守れましたし、これ以上気にする必要はありません」
――何か奇妙な引っかかりはあるが、終わったことだ。激しい連戦を終え、3人は新しい街の穏やかな活気の中に溶け込んでいく。




