突然の敵襲、守るべきもの
ブレーキの金切り音が鳴り響くなか、トニーは迷うことなく個室の扉を蹴り破った。
「行くぞ! 奴らの狙いは隣の現金輸送車、だが俺たちの馬は最後尾だ。後ろを固められる前に叩き潰す!」
「わかったッ!!」
メアリーが叫び、トニーの背中を追いかけて狭い通路へと躍り出る。客車の長い回廊には、すでに黒い目出し帽を被った数人の男たちが銃を構えて待ち構えていた。
敵の身のこなしは、驚くほど無駄がない。トニーたちが姿を現した瞬間、完璧なタイミングで一斉に引き金が引かれた。
ババババババン!!!
狭い通路を弾丸が乱舞し、客室の壁やガラスが甲高い音を立てて粉砕される。
「くそっ、今回の連中、今までの奴らと違いすぎる!」
トニーは激しく揺れる車体に足元を取られそうになりながらも、壁に背を預け、元保安官としての正確な連射で敵の先頭の男の武器を弾き飛ばした。だが、敵は一人ではない。死角から次の男がメアリーに向けて銃口を跳ね上げる。
「マロンのところに……行かせなさいよ!!」
メアリーの瞳に、獰猛な賞金稼ぎの光が灯る。彼女は列車の激しい縦揺れを完全に予測し、まるで重力がないかのように通路を低空で滑り込んだ。滑走しながら、不自由なはずの腕を鋭く連動させて三連射。
弾丸は敵の指先と、衣服の肩口だけをピンポイントで抉り取る。命は奪わない、だが完璧に戦闘能力を奪い去る神業。
トニーが惚れ込んだ圧倒的なスピードが、狭い通路を瞬時に支配していく。
「……僕の、ノワールに指一本でも触れてみろ……」
そして、二人の後ろから滑り込んできたフランの周囲だけ、空気が完全に凍結していた。
彼は自慢の金髪を激しく揺らしながら、座席の隙間を影のようにすり抜け、男たちの背後へと一瞬で肉薄した。
「万死に値しますよ」
フランは無表情のまま、引き金に指をかける。パァン、と鋭い破裂音が響き、敵の男たちの膝と手首が完璧に撃ち抜かれ、男たちは悲鳴を上げて床へと転がった。わずか数秒で客車の一車両を制圧した3人。
だが、倒した敵の衣服の隙間から、軍隊が使うような特殊な発煙筒が床へと転がり落ちた。
――シュウウウウウウ!!!
次の瞬間、目の眩むような白い煙が通路全体を埋め尽くし、3人の視界を完全に奪い去る。
「ちっ、目つぶしか!?」
トニーが視界を遮られた闇のなかで叫んだその時、連結器を挟んださらに後ろの車両から、ロッキーたちの、愛馬たちの激しいいななきが、爆音の向こうからかすかに響いてきた。
煙幕の白い闇を切り裂いて、一人の客が激しく突き飛ばされる音が響いた。
「動くな!! 銃を捨てろ、さもなきゃこのガキの頭をブチ抜くぞ!!」
白い霧がわずかに晴れた通路の先。強盗団の生き残りの男が、この列車に乗り合わせていた幼い乗客の子供の首元へ、狂ったように銃口を強く突きつけていた。
子供は恐怖のあまり「う、わぁあん……」とか細い声で泣き叫び、小さな身体をガタガタと震わせている。
「人質か……!」
トニーが即座に銃身を下げ、苦渋の表情で足を止める。メアリーの「不殺」の信念を完全に逆手に取った、卑劣な足止めだった。
敵のボスは、自分たちが2両目の客車で3人を完璧に足止めできていると確信し、血に汚れた口元を歪に吊り上げた。
「がはっ……! 流石のバケモノどもも、人質がいりゃ動けねえか。……おい、お前ら! さっさと3両目の鉄扉を爆破して、中の金貨をすべて強奪しろ!」
男は通信機にそう叫ぶと、なおも銃を構えたまま動かないトニーたちを、忌々しげに睨みつけて吐き捨てた。
「おい、お前ら……! そこまでして、国からのあの莫大な報酬が欲しいのかよ……っ!? 命を懸けて、他人の金貨を守る義理がどこにあるってんだ!」
敵は、三人がボディーガードの報酬のために死に物狂いになっていると、完全に勘違いしていた。
その言葉が静寂に落ちた瞬間、トニーとフランの、そしてメアリーの銃口が、一斉に男の眉間へと狂いなく固定された。三人の瞳から困惑が消え、我が子を脅かされた「親」としての、獰猛で恐ろしいまでの怒火が爆発する。
「――寝言言ってんじゃねえぞ、このド悪党が!!」
トニーの、天井を突き破るような怒号が狭い通路に響き渡った。
「報酬なんてな、最初から一セント残らなくても、どうだっていいんだよ!! 俺たちが欲しいのは金貨じゃねえ、最後尾の車両にいる、俺たちの『可愛い子供たち(馬)』だけだ!! あいつらに指一本でも触れてみろ、世界の果てまで追い詰めて肉片に変えてやる!! 今すぐ無傷で俺たちの手に取り返したいだけなんだよ!!!」
「……え? は? ……う、馬……!?」
あまりの気迫の凄まじさと、動機の凄まじい斜め上っぷりに、強盗のボスは銃口を子供に向けたまま、完全に思考がフリーズして目を白黒させるしかなかった。




