↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガールライダー☆ 〜凄腕ガンマンの彼女と過保護な元殺し屋と真面目な元保安官の裏社会コメディ〜  作者: VANRI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/127

変わらぬ愛

 数ヶ月ぶりの再会。号泣するほど大袈裟な別れだったわけじゃない。けれど、メアリーの手を引いて家へと歩き出そうとしたアーシュの顔には、どこかホッとしたような色が滲んでいた。


「……あ、ただいま、お母さん」


 宿屋の扉を開けると、奥から出てきた母親が足を止めた。

 10年前、父トーマスがそうやってふらりと家を出たきり、二度と帰ってこなくなった――。あの日の記憶がトラウマのように焼き付いている母親は、メアリーが旅に出てからというもの、毎日祈るような心地で帰りを待ち続けていたのだ。


「メアリー……っ!  おかえり……よく帰ってきたわね……!」


 目元を潤ませ、震える手でメアリーを抱きしめる母親。


「もう、お母さんったらオーバーねぇ!  たった数ヶ月じゃない」


 メアリーは明るく笑ってみせたけれど、抱きしめてくる母親の体の震えから、その胸の内にあった不安と痛みが痛いほど伝わってきて、胸がキュッと締め付けられた。


 リビングに落ち着き、ダンやトニーたちを紹介し終えた後――メアリーは母親の前に座り直し、まっすぐにその目を見つめた。


「お母さん……あのね。あたしたち、お父さんの手がかりを見つけたの」


「え……?  トーマスの……?」


「お父さんは……生きているかもしれない。……ううん、絶対に生きてる!」


「――ッ!?」


 その瞬間、母親の時が止まった。見開かれた瞳。言葉を失い、呼吸さえ忘れたかのように固まる顔。


 長年、「死んでしまったのかもしれない」と自分に言い聞かせ、なんとか諦めをつけて心を保ってきた。それなのに突然突きつけられた『生きている』という事実。喜びよりも先に、感情の整理が追いつかない巨大な波が母親を襲っていた。


「あ……あの……わたし……ちょっと……すみません……っ」


 声を絞り出しなんとかそれだけ言い残すと、母親は立ち上がり、すがるように自分の部屋へと駆け込み、扉を静かに閉めてしまった。


「あ……お母さん……っ」


 あまりの反応に、メアリーは差し伸べた手を空中で止めたまま、どうしていいか分からずに戸惑ってしまう。あたしの言い方が良くなかったのかな、余計に傷つけてしまったのか――急な罪悪感と不安が押し寄せる。


 そんなメアリーの肩を、アーシュがそっと叩いた。


「大丈夫だよ、メアリー。……おふくろ、ただ驚いてるだけだ。ずっと『いないもの』として気持ちを抑え込んでたからさ……すぐには受け止めきれないんだよ」


 双子の弟の落ち着いた声に、メアリーは少しだけ肩の力を抜き、閉ざされた扉を静かに見つめるのだった。


「お母さん……どこに行っちゃったのかな。あたし、言い方間違えちゃったのかな……」


 急に部屋を出ていってしまった母親の背中を思い出し、メアリーは不安そうに眉をひそめた。胸の中で広がる罪悪感に押しつぶされそうになっていると、アーシュがそっとメアリーの袖を引いた。


「こっちだよ、メアリー。おふくろの居場所、たぶん分かる」

「え……?」


 アーシュに導かれて母屋を抜け出し、向かったのは敷地の端にある古びた納屋だった。ギィ……と錆びたヒンジが小さな音を立てる。


「なんで納屋に……?」


 首を傾げるメアリーに、アーシュは声を潜めて囁いた。


「あそこが……最後に父さんと会話した場所なんだってさ」

「え……」


「あの日、父さんが旅立つ直前、おふくろはここで作業をしてたんだ。『すぐに帰ってくる』って父さんが言うから、外まで見送りにも行かなくて……作業しながら『いってらっしゃい』って言っただけだったんだって。それをずっと……ずっと後悔してたんだよ」


 アーシュが納屋の隙間から、そっと奥を指さした。


「……あそこだよ」


 干し草の匂いが満ちる静かな納屋の奥。差し込む夕暮れの光の中で、母親がぽつんと藁の上に座り込んでいた。その手には、一つの小さな銀のペンダントが強く抱きしめられている。


「あれはさ……結婚した時に、父さんがおふくろにプレゼントしたって言ってたペンダントだよ。あとにも先にも、父さんがおふくろにプレゼントしてくれたのは、あれ一つだけだったんだってな」


 アーシュの低く静かな声が、メアリーの胸に染み込んでいく。


「……あなた……本当に生きているの……?  本当に……うっ……ううっ……」


 手の中のペンダントに額を押し当て、押し殺した声で涙を流す母親。

 長年、「諦めること」で自分を納得させ、塞ぎ込んできた想い。それが「生きていた」という現実によって溢れ出し、喜びと途方もない安堵、そして過去の後悔が混ざり合って涙となって溢れていた。


 言葉にならない母親の背中を見つめながら、メアリーの目からも自然と温かい涙がこぼれ落ちた。アーシュもまた、視線をそらしながら静かに鼻をすすらせている。


「……行こう、メアリー。今は一人にしてあげよう」

「……うん」


 母親の胸に秘められた深い愛と痛みを確かめた二人は、足音を立てないようにそっと納屋を後にするのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。