帰る場所
サンダンサーでの激闘を終え、数日。
乾いた荒野の匂いが薄れ、懐かしい風とどこか甘い緑の匂いが漂う、メアリーの故郷の村が見えてきた。
「はぁ……ついたぁ……っ!」
車輪の軋む音とともに馬車から降り立ったメアリーは、胸いっぱいに故郷の空気を吸い込み、大きく深呼吸をした。
旅立つ前と少しも変わらない、穏やかで優しい村の景色。だが、その澄んだ空を見つめるメアリーの瞳には、かつて旅に出た時よりもずっと強く、揺るぎない光が宿っていた。
「……ここはいつまでも変わらないな」
ぎしりと木床を鳴らし、ダンが馬車からゆっくりと降りてくる。
ハットを目深にかぶり直し、少し気まずそうに周囲を見回すダン。かつて村を愛し、村を守っていた男が――長い暗闇の試練を抜け、ついに思い出の詰まったこの場所へと帰ってきたのだ。
「おかえり、ダンおじさん」
メアリーが柔らかく、けれど温かい笑みを向ける。
「――メアリー!?」
その時、宿屋の扉が勢いよく開き、長い金髪を後ろに一つに結んだ少年が声を上げた。
「アーシュ!!」
メアリーの双子の弟――アーシュとの、久しぶりの再会だった。
「メアリー!? この前もだったけどいきなり帰ってくるなんて……!!」
長い金髪をなびかせながら、アーシュが一直線に駆け寄ってくる。
目元も佇まいもメアリーとそっくりな双子の弟だが、その顔には旅立った姉をずっと心配し続けていた焦燥と、無事の再会を果たせた安堵が複雑に混ざり合っていた。
「アーシュ! ただいま!」
メアリーが駆け出すと、アーシュは勢いよく姉の身体を抱きしめた。
「よかったよ無事で……っ!」
「ちょっと……アーシュ! 痛いってば……」
「母さんも会うの楽しみにしてるよ! 早く行こ――」
メアリーの手を引いて歩き出そうとしたアーシュが、ふと馬車の横に立つ人影に気づき、ハッと足を止めた。
「……ッ!? だ……ダンおじさん……!?」
アーシュが息を呑み、信じられないものを見るように目を見開いた。
「……久しぶりだな、アーシュ。少し背が伸びたか」
ダンがハットの庇に手を当て、気まずそうに、けれどかつての温かみを込めて低く声をかける。かつて村を守る最高の保安官であり、父トーマスの頼もしい相棒だった男の帰還に、アーシュは言葉を失っていた。
「……すまねぇな、アーシュ。長いこと、自分勝手な絶望に囚われてフラフラしてやがった。……ただいま」
「ダン……おじさん……!!」
アーシュはたまらずダンにも駆け寄り、その無骨な腕にぎゅっとしがみついた。ダンは一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて優しくその頭を撫で下ろした。
「やあやあアーシュくん! 感動の再会のところ悪いけれど、僕のことも忘れてもらっちゃ困るな!」
ここでキリッとした極上のイケメン笑顔を浮かべ、フランがヌッと割り込んでくる。
「見ての通り、メアリーちゃんは旅先でも最高に可憐で凛々しかったよ! ちなみに僕とメアリーちゃんの愛と絆も、この過酷な旅路でさらに深まったからねッ!」
「おい待てフランッ!! 前に会った時よりさらにメアリーへの距離感がバグってないか!?」
涙目を一瞬で引っ込めたアーシュが、フランを全力で押し返しながらジト目でトニーを見上げる。
「トニーおじさん……コイツ、メアリーに変なこと吹き込んでないだろうね!?」
「へッ、相変わらずフランの扱い方を分かってやがるな、アーシュ」
トニーは苦笑いしながら咥えタバコの煙を吹き出し、アーシュの金髪をガシガシと雑に撫でまわした。
「安心しろ、こいつのバカ言動は俺たちがきっちりガードしてある。……さあて、立ち話もなんだ。おふくろさんにも、最高の吉報を届けてやるとするか」
「あ……うん! おふくろ、今奥の部屋にいるんだ! すぐ呼んでくる!」




