閉幕
「――そこまでですッ!!!」
静まり返っていたサンダンサーの街に響き渡ったのは、青天の霹靂とも言える高らかな叫び声だった。
突如として乱入してきたハーバートは、バッと胸を張ると、手に持った分厚い書類の束をシンジケートの幹部へ突きつけた。その隣では、アリスが冷たい眼光を浮かべながら、胸ポケットから万年筆を引き抜いている。
「な、なんだお前たちは……!?」
ニヤケ顔をひきつらせる幹部に対し、ハーバートは眼鏡をキラリと光らせた。
「法と証拠の力を見よ! あなた方がダン・ミラー氏を罠に嵌め、彼の家族を悲劇へと追いやった真の元凶であり、この街で赤硝石の密輸を行っていた決定的な証拠……全て押さえましたッ!」
「な……なに……!?」
ダンが息を呑み、目を見開く。
「ダン・ミラー」
アリスが静かに、だがはっきりとした声でダンに告げた。
「あなたの奥様と息子さんが命を落としたあの火災……アレは事故でも、あなたの落ち度でもないわ。この男が、街の利権を奪うために裏で手引きした『仕組まれた放火』だったのよ。彼らはあなたを絶望させ、無力化するために……最初から全てを仕組んでいたの」
「……あ……そんな……っ」
ダンの口から、かすれた声が漏れ出る。
長年、彼を暗い闇の底に繋ぎ止めていた『自分が家族を守れなかった』という激しい後悔と罪悪感。その呪縛が、アリスの明かした真実によって音を立てて崩れ去っていく。
「ふ、ふざけるな……! 証拠もなしにデタラメを――!」
「証拠なら、この書類の中に幹部自身の署名入りで全て残っています!」
ハーバートが書類を誇らしげに掲げる。
「くそっ……おい、お前たち! 全員まとめて射殺しろ! 証拠ごと灰にしてしまえッ!!」
幹部のヒステリックな叫びとともに、無数の黒づくめの男たちが一斉に銃を構えた。
「――やれやれ、往相の悪い悪党だね」
メアリーの前にすっと進み出たのは、フランだった。いつもの甘い表情は消え去り、元・凄腕暗殺者としての冷徹で圧倒的なオーラが全身から溢れ出している。
「メアリーちゃんの頑張りを台無しにしようとする奴は……僕が一人残らず片付けてあげるよ!」
――ババババンッ!!
フランの二挺拳銃が跳ね上がる。華麗なステップを踏みながら放たれた銃弾は、敵の狙撃手たちの手首を正確無比に撃ち抜いていく。
「お前にだけいい格好はさせないわよ、フラン」
モネが日傘をすっと開いた。日傘の先端から仕込まれた特殊針が放たれ、迫り来る敵の急所を正確に突き刺していく。優雅で美しい、まさに死の舞踏。
「お嬢さん、仕留め損ねた奴らは任せろ!」
トニーが咥えタバコの煙を吹き出しながら、凄まじい連射速度でショットガンを叩き込む。豪快でありながら、敵の武器だけを吹き飛ばす熟練の技。
「ベイル、頼む!」
「了解です!」
ベイルが投擲した特殊な閃光弾が、敵陣の真ん中で弾けた。
――パァァァンッ!!
「目が、目がぁぁ!?」
「クソッ、どこから撃たれてる!?」
元プロたちの圧倒的なコンビネーションの前に、黒づくめの集団はあっという間に壊滅し、残された幹部はガタガタと震えながら腰を抜かした。
「……お前たち……」
崩れ落ちる幹部を見下ろし、ダンは震える自分の手を見つめていた。仇は討たれ、呪縛は解けた。だが、奪われた時間は戻らない。呆然と立ち尽くすダンのもとへ、メアリーが優しく歩み寄った。
「ダンおじさん……行こう? あの村へ」
「メアリー……俺は……お前に……ひどいことを……」
「いいの!」
メアリーはニッコリと、太陽のような笑顔を向けた。
「おじさんが迷っていたなら、あたしが手を引っ張るよ。父さんも……絶対にそれを望んでるはずだから!」
ダンは言葉を詰まらせ、ゆっくりと深くハットを目深にかぶり直した。その目元からこぼれ落ちた一滴の涙を、誰にも見られないように隠しながら。
夕暮れ時。朱色に染まるサンダンサーの入口で、一行は二手に分かれていた。
「さて……私たちの仕事はここまでよ」
アリスが手帳をポケットに収め、メアリーに向き直った。
「この事件の証拠と幹部は、私とハーバートで本部に連行するわ。ダン・ミラーの件も、情状酌量と今回の捜査協力を理由に、減刑できるよう手を尽くすわね」
「アリスさん……ハーバート……本当にありがとう!」
「ふふ、礼には及ばないわ。……それと、メアリー」
アリスは少しだけ口元を緩め、メアリーの耳元に囁いた。
「父親の過去がどうであれ、今のあなたの戦いぶりは……誇り高き『ガンマン』だったわよ」
「……っ……うんッ!」
その横では、ハーバートが名残惜しそうにメアリーの手をとっていた。
「ああ、メアリーさん! これでお別れだなんて私の心が裂けそうです! 願わくばこのままあなたと共に旅を続けたい……ッ!」
「こらぁぁッ!! どさくさに紛れてまたメアリーちゃんの手を握るなエロ弁護士ッ!!」
フランが割り込み、間一髪で二人を引き離す。
「ふふ、相変わらず騒がしいわね」
アリスは呆れたように息をつくと、ハーバートの首根っこを掴んだ。
「行くわよ、ハーバート。これ以上無駄口を叩くと、あなたのヘッポコ具合を全社に言いふらすわよ」
「ひっ!? それだけはご勘弁をアリス! メアリーさん、どうかお元気でー!!」
嫌々引きずられていくハーバートと、堂々と進んで行くアリス。二人の背中は、夕陽の向こうへと消えていった。
「……さて」
トニーが煙草に火をつけ、西の空を見上げた。真っ赤に染まった空はメアリーたち一行の行く先をどこまでも明るく照らしていた。




