リベンジマッチ
太陽が真上に昇り、影が自分の足元に小さく収まる正午。
三日前の惨敗の記憶が残るゴーストタウン『サンダンサー』のメインストリート。乾いた風が吹き抜け、ガラガラと枯れ草が砂埃とともに転がっていく。
通りの突き当たりには、三日前と変わらぬ姿でハットを深くかぶった男――ダン・ミラーが待ち受けていた。
「……ほう。逃げずに来たか、ちびっこ保安官」
ハットの陰から覗くダンの眼光は、相変わらず氷のように冷冷と冴え渡っていた。
だが、その前に立つメアリーの眼差しは、三日前とはまるで違っていた。泥に塗れて泣きじゃくっていた少女の面影はない。
少し離れた廃屋の影から、トニー、フラン、モネ、ベイルの4人が固唾を呑んで見守っている。
「……メアリーちゃん……」
フランが握りしめた拳にぐっと力を込める。
「大丈夫よ。あの子の目はもう迷っていないわ」
モネが優雅に日傘を傾けながら、静かに呟いた。
二人の距離、およそ二十ヤード。静寂が街全体を包み込み、まるで時間が止まったかのような錯覚を覚える。
「……言っておくぞ、メアリー」
ダンが低く掠れた声で告げる。
「俺は手加減などせん。お前が引き金を引くより早く、その身体を撃ち抜いて泥をすすらせてやる。負ければお前は俺の部下だ。二度と『正義』など口にできんようにしてやる」
「……わかってるよ、ダンおじさん」
メアリーはゆっくりと呼吸を整えた。
ベイルが限界まで磨き上げ、指先の神経と一体化した愛銃の重み。モネとフランに叩き込まれた、死線を潜り抜ける「ゼロの重心」と体捌き。
そして――トニーに叩き込まれた『手加減のない、勝つための不殺の覚悟』。
(あたしは逃げない。お父さんの過去からも……ダンおじさんの絶望からも。手加減なんて絶対にしない……あたしの全力で、おじさんを打ち破る!!)
――ヒュウゥゥゥ……
風が止み、一枚の枯れ葉が二人の間の空中で静かに舞い落ちた。
それが地面に触れた――その瞬間!!
――ジャキッ!!
ダンが目にも留まらぬ居合いの神速で、ホルスターからガバメントを引き抜く。
圧倒的な殺気を放つ第一弾が、容赦なくメアリーの胸元を目掛けて一直線に走り抜けた。
(来る――ッ!!)
だが、メアリーの瞳はダンの銃口ではなく、その肩と手首のわずかな重心の傾きを捉えていた。
コンマ0.01秒前――メアリーの身体が、まるで風に舞う羽のように無駄なくすっと半身ずれる。
――バァァンッ!!
ダンの放った必殺の弾丸が、メアリーの髪の毛数本をかすめて空を切った。
「なにッ……!?」
ダンが驚愕に目を見開く。三日前、完全に捉えていたはずの獲物が、撃たれる前に『そこから消えていた』のだ。
そして――すれ違う死線の中で、メアリーの手元から響く滑らかな金属音。
――シャランッ!!
ベイルの手によって極限まで研ぎ澄まされた愛銃が、メアリーの指によって解き放たれる。
(不殺だからって手加減はしない……! 狙うのは――おじさんの拳銃の『撃鉄』ッ!!)
トニーの教えが、メアリーの覚悟とシンクロする。
殺すためではなく、相手の絶対的な武器を破壊し、完全に屈服させるための『覚悟の不殺』。
――ズバァァアンッ!!
メアリーの放った一弾は、吸い込まれるようにダンのガバメントの機関部へ命中。強烈な火花とともにダンの銃はバチンと弾け飛び、金属音を立てて乾いた砂の上に転がった。
「くっ……!?」
痺れた手首を押さえ、絶句するダン。
その胸元に――すでに二発目の銃口をピタリと突きつけているメアリーの姿があった。
「……あたしの勝ちだよ、ダンおじさん」
静まり返るサンダンサー。風だけが二人の間を吹き抜けていく。
ダンは自分の弾かれ転がった愛銃と、まっすぐ自分を見つめるメアリーの澄んだ瞳交互に見つめ……やがて、ハッと自嘲気味な笑いを漏らした。
「……ハ……ハハ……完璧な早撃ち、そして死線を踏み越える身のこなし……。お前、本当に……あの甘っちょろかったちびっこか……?」
「約束……守ってもらうよ」
メアリーはゆっくりと銃を下げ、まっすぐにダンを見つめた。
「闇社会から足を洗って……あの思い出の村へ帰ってきて。あたしと一緒に……父さんを探しに行こう!」
「メアリー……お前……」
ダンの冷酷だった瞳に、かつて見せていた温かい「おじさん」の光が、ほんの少しだけ宿りかけた――その時。
「パチ……パチ……パチ……」
静寂を破って、下品で冷ややかな拍手が響き渡った。
「素晴らしい決闘でしたねぇ。まさかあの『伝説のダン』が、こんな小娘に敗れるとは……」
廃墟の陰からぞろぞろと現れたのは、重武装した黒づくめの男たち。そして、その中心に立つ、豪華なコートを着たニヤケ顔の男――この街の裏社会を牛耳るシンジケートの幹部だった。
「ダン……お前も焼きが回ったな。約束通り小娘を消せなかった以上……ここでお前もろとも処分させてもらうぞ」
「なにッ……!?」
ダンが顔をしかめる。メアリーたちも一斉に構えをとった。
その時――!




