↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガールライダー☆ 〜凄腕ガンマンの彼女と過保護な元殺し屋と真面目な元保安官の裏社会コメディ〜  作者: VANRI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/127

仲間からの言葉

 特訓初日の朝。宿屋の薄暗い一室で、ベイルはテーブルの上に広げた布の上にメアリーの愛銃を丁寧に分解し、並べていた。


「メアリーさん、ちょっとその手を貸して」

「うん、ベイル」


 ベイルはメアリーの右手の人差し指と手のひらの豆をじっと観察し、小さな精密ドライバーを手に取った。

 裏社会にいながら、メカニックの凄腕をもつ彼の手にかかれば、どんな銃も使い手の肉体に完璧にフィットする「相棒」へと生まれ変わらせることができる。


「ダンの奴は、長年使い込んだ大型拳銃の重みと、自分の筋力だけで圧倒的な早撃ちを見せつけてきた。……だが、人間はコンマ数秒の焦りで指の力がわずかにブレる。そこを突くんだ」


 ベイルはシリンダーの回転軸を極限まで滑らかに研磨し、撃鉄を起こすハンマーのコッキングにかかる負荷を削っていく。さらに、トリガーの遊びをミリ単位で調整した。


「トリガーを引く指に、余計な力を入れなくていい。ただ『触れる』だけで撃ち出せるようにカスタムした。銃は道具じゃない。自分の指先の神経の延長線上にある『もう一つの神経』。重みを感じず、同化するような感覚だ」


 ベイルに言われた通り、メアリーが新しく生まれ変わった銃をホルスターから引き抜いてみる。


 ――シャランッ!


 以前とは比較にならないほど滑らかに、吸い付くように銃が手に収まった。手首への負担が消え、指の動きと銃弾が完全に直結したような感覚に、メアリーは思わず目を見開く。


「……すごい、まるで自分の手が伸びたみたい……!」


「ふっ、上出来だ。これで『抜くスピード』の差は完全に埋まった」


「ありがとう! ベイル!!」


「いやいや、これくらい……」


 恥ずかしそうに下を向くベイル。




 二日目。荒れ果てた廃坑の広場。ギラギラとした太陽の下で、モネとフランによる実戦的な回避と早撃ちの訓練が始まった。


「甘いわ、メアリー」


 モネが優雅に日傘を杖代わりにつきながら、冷徹な視線を飛ばす。彼女は元殺し屋としての鋭い眼光で、メアリーの立ち姿を一刀両断した。


「正面からただ速く抜くだけじゃ、ダンのような百戦錬磨のガンマンには絶対勝てない。あいつは銃口を向ける相手の『視線』と『重心の傾き』をミリ単位で読んでるの。撃つ前に、お前の身体の癖でどこに弾が来るかバレてんのよ」


「じゃあ……どうすればいいの、モネ?」


「重心を爪先でも踵でもなく、常に『ゼロ』にしなさい。相手が引き金を絞るその瞬間――ほんの一瞬前に、風の抵抗をすり抜けるように半身をずらすの。……ほら、フラン、お手本で見せてあげて」


「はいはい。 見ててね、メタリーちゃん!」


 フランがニカッと笑い、メアリーの前に立った。普段のメアリーに対するデレデレした態度とは打って変わり、次の瞬間――フランの纏う空気がガラリと変わった。元・凄腕の暗殺者としての、凍てつくような殺気と圧倒的な体幹のブレなさ。


 モネが合図の石を放り投げる。


 ――カランッ!


 音が鳴った瞬間、フランの姿がまるで残像のように揺らぎ、その石を紙一重でかわしながら、正確無比な抜き打ちの構えへと移行していた。無駄な力が一切入っていない、極限の美しさすらある動き。


「メアリーちゃん、見てた?  コツはね、『避けてから撃つ』の意識を捨てること。敵の銃弾が通る空間を、あらかじめ『空けておく』んだよ。今まで幾多の銃撃戦をくぐり抜けてきた君なら、絶対にできる!」


「う、うん……!  やってみる!」


 モネの容赦ない理論的な指摘と、フランの背中で見せるプロの技術。

 メアリーは何度も何度も砂埃にまみれながら、ダンの殺気を想定した「死線を潜る体捌き」を体に叩き込んでいった。



 三日目の夜。ランタンのオレンジ色の灯りが照らす薄暗い部屋で、トニーはウイスキーのグラスを傾けながら、静かにメアリーに向き合っていた。


「……なぁ、メアリー。昼間の動きを見てて思ったんだがよ」


 トニーは咥え煙草を指で摘み、煙の向こうから鋭い眼光でメアリーを射抜いた。


「お前……相手が『ダンおじさん』だからって、無意識に手を抜いてねぇか?」


「えっ……!?  そんなこと――」


「隠したって無駄だ。今までの戦い方と明らかに違う。引き金を引く瞬間に、コンマ何秒かの『迷い』が見えるんだよ。……『殺したくない』『傷つけたくない』って気持ちが、お前の反応を鈍らせてんだ」


 冷たく突きつけられた指摘に、メアリーは言葉を詰まらせた。


「命を懸けた戦いなんだぞ。お前が『不殺』の考えを貫くっていうなら……それなりの本当の覚悟を持て」


「それって……『不殺を貫くなら、負けるかもしれない』ってこと……?」


 不安そうに尋ねるメアリーに対し、トニーは首を横に振った。


「いや、正確には違う。……『不殺でも確実に勝てる技』を身につけてなきゃ、絶対に勝てないってことだ」


「不殺でも勝てる技……?」


「相手を殺す気で撃ち込んでくる奴を、命を奪わずに制圧する。それはな、相手を殺すことの何倍も難しくて、極限の精度が求められる修羅の道だ。相手の腕や手首、銃の撃鉄……ミリ単位の精度で狙い通りに打ち抜く、圧倒的な技術と度胸が必要なんだよ」


 トニーはテーブルを拳でコンと叩き、メアリーの目を力強く見つめた。


「手加減や甘えで撃つ『不殺』は、ただの自殺行為だ。だが、相手を絶対に生かして屈服させるための『覚悟を持った不殺』なら、それはどんな殺し屋の弾丸よりも強い。……ダンを殺さずに勝つってのは、そういうことだ。お前にその覚悟はあるか?」


「……っ……!!」


 メアリーはハッと目を見開いた。


 「ダンおじさんだから」と、どこかで手減や躊躇をしていた自分。不殺という言葉に甘えていた自分に気づかされた。


「……あるよ。あたし、覚悟する」


 メアリーはぎゅっと拳を握り締め、胸を張った。


「ダンおじさんを殺さない。でも、絶対に手加減もしない。あたしの全部をぶつけて……絶対に勝つッ!!」


「……フッ、良い顔になったじゃねぇか」


 トニーは満足そうにニヤリと笑うと、煙草の灰を落とし、優しくメアリーの頭を撫でるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。