ドレスと弾丸の旋律
――ババババババッ!!
「撃て! 撃てぇぇッ! ガキどももまとめて蜂の巣に――」
「遅いわよ」
スリットから覗くしなやかな脚で高く跳び上がったモネが、空中で日傘を華麗に一閃。隠された小型銃から放たれた散弾が、用心棒たちの武器をことごとく弾き飛ばす。
「銃弾を込める暇なんて与えるわけねえだろッ!」
モネの援護を受けたベイルが、疾風の如く敵陣へ滑り込む。職人の指先でナイフを持ち一瞬ですり抜けるたび、銃の引き金や機関部、さらには用心棒たちのベルトのバックルまでがパラパラパラッと音を立てて分解され、床へ崩れ落ちた。
「な、なんだこいつ!? 銃がバラバラだとっ!?」
「へへっ! ネジのゆるい悪党には、おしおき解体だ!」
混乱する会場の中央では、ハーバートが汗だくになりながらアリスの背中を死守していた。
「アリス、右です! 銃刀法違反および闇取引の現行犯が来ますッ!」
「分かっているわ」
――シュバババッ!
アリスが冷徹な瞳のまま、ドレスの裾から抜いた二挺の小型拳銃を精密連射。迫る悪党たちの手首を正確に撃ち抜き、無力化していく。
「……ナイスアシストよ、ハーバート。……後で頭を撫でてあげる」
「ななな、何を不吉なことを仰るのですかッ!? 私は弁護士ですよッ!?」
そして――会場の最奥、オークションの壇上。
「くそっ! 赤硝石の爆弾さえ起動すれば……この会場ごと全滅させてやる――」
悪徳兵器商人のボスの手が、試作爆薬のスイッチへ伸びかけたその瞬間。
「――お父さんが解体した兵器に、手を触るんじゃないッ!!」
――ババァァンッ!!
メアリーの愛銃から放たれた正義の一撃が、ボスの掲げた起動スイッチを木っ端微塵に砕き割った。
「なっ……ガキがぁぁッ!!」
「メアリーちゃんに手出しはさせないよ!!」
フランが疾風のように割り込み、ボスの顎へ鮮やかな蹴りを叩き込む。体勢を崩したボスへ、トニーが咥えタバコのまま二挺拳銃の銃口を突きつけた。
「終わりだ、社長さん。……あんたの不潔なオークションは、トーマスとそのお嬢さんの手で閉幕するしかないのさ」
――ドンッ!!
トニーの容赦ない一撃が叩き込まれ、悪徳兵器商人たちは一人残らず床へ倒れ伏したのだった。
しんと静まり返った地下オークション会場。
倒れ伏した悪党どもの真ん中で、メアリーたちは息を整えながら壇上へと歩み寄った。
そこにあったのは、完全に起爆機構を抜き取られ、ただの置物と化した『赤硝石爆弾』。
そしてその隣には、一本の最高級ヴィンテージワインと、注がれたばかりのワイングラスが二つ置かれていた。
「……まだ、ワインの香りが生きているわね」
アリスが冷徹な瞳でグラスを検分する。
「トーマス……私たちが地下へ降りてくる直前まで、ここで優雅にワインを嗜みながら、悪党どもがパニックになるのを高みの見物していたのね」
「父さん……! まったく、相変わらずかっこつけなんだから……!」
メアリーが呆れつつも、愛おしそうにクスクスと笑う。ワインボトルのラベルには、トーマスが流麗な筆致で書き残したメッセージが添えられていた。
そこに書き残されていたのは、いたってシンプルな一文と、古い地図の断片だけ。
『――我が愛しのちびっこ保安官へ。
カジノの地下掃除、ご苦労様。事件の残党と『赤硝石』のさらなる流出ルートは、西の岩山に眠る廃坑の街【サンダンサー】へ続いている。
乾いた風の吹く場所で待っているよ。――』
「え!? また次に行ってしまったのか……!?」
フランが目を丸くする。
「父さんが行くところならどこまででも追っかけていくよ!」
メアリーはワインラベルの手紙をギュッと胸に抱きしめ、太陽のような眩しい笑顔を弾けさせた。
「待っててね、父さん! 次こそ絶対に、追いついてみせるんだからッ!!」
父トーマスが残したワインの香りと、次なる舞台への招待状。
華やかなカジノの騒動を鮮やかに解決した一行は、青い大海原へと続く新たな冒険へ向けて、力強く一歩を踏み出すのだった――!




