VIPルーム
VIPルームは、下層の喧騒とは打って変わり、重厚な静寂と怪しげな富豪たちが集う密室だった。その中央に鎮座するのは、このカジノの目玉である巨大な「純金製の特大ルーレット」。
「うわあ……すごい黄金のルーレット……」
フランに腕を組まれたままのメアリーが、目を丸くする。
「気をつけて、メアリーちゃん。この部屋にいる連中、全員目が笑ってないよ……」
フランがメアリーを守るように少し引き締まった顔を見せる。アリスが冷徹な瞳でルーレット盤を観察し、ふと眉をひそめた。
「……見て。あのルーレットの出目の数字、配列が不自然だわ」
「えっ……?」
「数字の『3』『1』『5』のマスだけ、象嵌の彫り込みがわずかに浅い。……ベイル、どう思う?」
ベイルが職人の目で極限まで凝視する。
「……本当だ! あの3つの数字の底だけ、からくり仕掛けの『重量センサー』になってる! 一回じゃ起動しない……『3』『1』『5』の順番で連続してボールが落ちた時だけ、内部のロックが外れる仕組みだ!」
「3……1……5……?」
メアリーがハッと息を呑んだ。
「315(35メートル)……! 『旧第7鉱坑』の時と同じ! 父さんの暗号だッ!!」
「やっぱりここに潜入していたのね、トーマス……!」
モネが不敵に目を細める。
トーマスはこのカジノの地下で行われている「裏社会の兵器オークション」に潜入するため、この大ルーレットに密かに仕掛けを施し、メアリーたちが追いついた時のための「隠しルート」を残していたのだ。
「メアリーちゃん、あの3つの数字に全チップを賭けるんだ! 順番は『3』『1』『5』!」
フランが叫ぶ。
「うんッ! 父さんの合図、絶対に外さないよ!!」
メアリーは山のようなチップを抱え、迷わず『3』『1』『5』のマスへとベットした。
回転を始める巨大な純金ルーレット。父トーマスが遺したからくりと、メアリーたちの絆が、カジノの裏に潜む「巨大な闇」の扉を開こうとしていた。
――カララララ……ポンッ!
「「「3!!」」」
――カララララ……ポンッ!
「「「1!!」」」
――カララララ……ポンッ!
「「「5!!」」」
「な、なんだと……!? 3、1、5の順番で三連続命中だと……!?」
カジノのディーラーが目を見開き、VIPルームの富豪たちがどよめいた。
直後――
――ガチャンッ! ゴゴゴゴゴ……ッ!!
純金ルーレットの台座が重厚な金属音を立ててスライドし、足元の絨毯が割り開かれ、地下へと続く隠しエレベーターの鉄格子が姿を現した。
「な、なんだこの仕掛けは!? 警備員! 警備員を呼べ――」
「騒ぐんじゃないわよ」
アリスがドレスの裾から瞬時に取り出した愛銃の銃口をディーラーの額に突きつけ、冷たく言い放つ。
「これより先はピンカートン探偵社および法務関係者の立ち入り捜査対象よ。大人しく口をつぐんでいなさい」
「ア、アリス……! ドレスの太もものホルスターから銃を抜くのは淑女としていかがなものかと……ッ!」
赤面しながら目をそらすハーバート。
「文句は後で聞いてあげるわ。……行くわよ、みんな!」
隠しエレベーターで地下深くへ下りきった先――そこに広がっていたのは、全米から集まった兵器商人や裏社会の幹部たちが集う、巨大な「闇のオークション会場」だった。
壇上には、あのシルバークリークから不正流出させられた危険鉱石『赤硝石』のサンプルと、それを使った新型爆薬の設計図が提示されている。
「さあ! この『赤硝石爆弾』の初期提示価格は――」
「――そこまでだッ!!」
オークション会場の天井のダクトが爆破され、大量の紙吹雪とともに一枚のカードがひらひらと舞い落ちてきた。
そこに書かれていたのは、見覚えのある力強い筆跡。
『――悪党どもへ。諸君の不潔なマネーゲームは、このトーマス・スペンサーがすべて買い取った。カウントダウンの後に、爆破兵器は無力化される――』
「な、なにぃぃッ!? トーマス・スペンサーだと!?」
「探せ! 奴はまだこの会場のどこかに潜んでいるぞッ!」
会場内は大パニックに陥り、悪党どもの私設用心棒たちが一斉に銃を抜いて暴走し始めた。
「父さん……! もうオークション会場の兵器に細工をして、敵を混乱させてたんだ……!」
メアリーが目を輝かせる。
「ハハッ! さすがメアリーちゃんのお父さん、やり方が派手でスマートだね!」
フランがメアリーの前に立ち、二挺拳銃を構える。
「よし! 仕掛けられた『無力化』が完了するまで、この大混乱に乗じて悪党どもを片付けちゃうよ!」
「モネさんッ! 俺が、 オークションの出品物も、用心棒のガンベルトも、全部ネジ一本残さず解体してやりますよ!」
ベイルがセクシーすぎるモネの隣で、鼻息荒く拳を握り締める。
「ふふ、暴れ甲斐がありそうね。トニー、煙草を一本頂戴……」
「……やれやれ、ドレスアップしたってのに、結局いつもの泥臭い大喧嘩かい」
トニーが苦笑しながらモネの煙草に火をつけ、銃のハンマーを起こした。
「ハーバート! 私の背中を死守しなさい!」
「言われなくても! 私の法的主張で、アリスもメアリーさんも全員守ってみせますッ!!」
トーマスが鮮やかに仕掛けた爆破予告の混乱の中、ドレスとタキシードに身を包んだ最強のパーティが、闇のオークション会場へ向けて一斉に踊り出した。




