悪足掻き
「ハッハハハ! お前たちも、上の街の奴らも……全員ここで地獄へ付き合ってもらうぞぉぉッ!!」
倒れ伏した悪徳会社の隊長が、血走った目で狂気の叫びを上げた。
その手が、壁に据え付けられた『主発破装置』の赤い非常レバーを強行操作する。
――ガチコンッ!!
――ジーーーー……ッ!!
洞窟全体に不気味な警告音が鳴り響き、壁面に露出した『赤硝石』が、まるで生き物のように不気味な赤い光を明滅させ始めた。
「しまっ……!? 奴め、死に際に起爆回路を直結させやがった!」
トニーが青ざめて叫ぶ。
「アリス! 止める方法は!?」
ハーバートが眼鏡をずり落としながら絶叫した。
「……残り時間は約三分。だけど普通の爆薬じゃないわ」
アリスが冷徹な瞳の奥に汗を浮かべ、装置の複雑なからくりを凝視する。
「過熱した赤硝石の熱伝導を利用した『連動誘爆回路』よ。下手に導線を切れば、その瞬間に熱が逆流してこの部屋ごと吹き飛ぶ……。トーマスも解体の途中だったけれど、回路の核心部分に不可解な鍵がかかっているの!」
「不可解な鍵……? 貸してみろッ!!」
ベイルが疾風のように割り込み、装置の内部へ指先を突っ込んだ。
真鍮のギヤ、無数のネジ、そして不気味に熱を帯びていく赤硝石の起爆針。
「……分かったぞ! トーマスさん、時間がなくて解体出来なかったんじゃない! 追手に解除されないよう、わざと解体手順を『逆手順のからくりロック』にして残したんだ!」
「逆手順……!?」
メアリーが息を呑む。
「ああ! 普通の爆弾解体とは真逆だ! 赤の導線を固定したまま、ギヤの噛み合わせを力技で『三段飛ばし』で外さなきゃならない! 失敗すれば即、ドカンだ!」
「残り……三十秒よ」
アリスが万年筆を握りしめ、冷たく言い放つ。
「ベイル、あなたの指先を信じるわ。回路の固定は私が射撃で抑える。……ハーバート、私の腰を支えなさい!」
「ええい、私を足場扱いにしないで……ッ! いや、任せなさいアリスッ!!」
ハーバートがアリスの体をがっちりと支え、アリスが超至近距離から精度100%の精密射撃で熱暴走する安全弁を撃ち抜いて固定する。
「残り、十秒……!」
ベイルの額から大粒の汗がポロポロとこぼれ落ちる。視界が赤く染まるほどの眩しい光。金属が悲鳴をあげる熱気。
だが、ベイルの指先は一ミリも震えていなかった。
ベイルの指が、目にも留まらぬ速さでメインシリンダーのネジを三本、同時に弾き飛ばした。
――シャコンッ!!
「残り……三秒――ッ!!」
――シーーーーーーーン……。
カチ、と小さな金属音が響いた瞬間。眩しく明滅していた赤硝石の光がスッと消え、洞窟を満たしていた不気味な重低音が嘘のようにピタリと止まった。
「……あ」
ベイルの手の中で、解体された起爆針がコロコロと転がり落ちる。
「……止まった……? 止まったぞ! ベイル!!」
フランが歓声をあげる。
「へへっ……見たかよ、職人の技を……!」
胸を撫でおろしたのも束の間――
――ズズズズズズズズッ……!!
今度は頭上の岩盤から、激しい振動と地鳴りが襲いかかった。
「喜ぶのは早いわ! 発破は止めたけれど、さっきの衝撃でこの地下坑道全体が崩落し始めてるわよ!」
モネが落ちてくる岩を指差しながら叫んだ。
「みんな、走れぇぇぇッ!!」
トニーとフランが先頭を走り、頭上から降り注ぐ落石を二挺拳銃で片っ端から撃ち砕いて道をこじ開ける。足をもつれさせたハーバートの手を、アリスが無言のまま強く握り締め、力任せに引っ張って猛ダッシュした。
「メアリーちゃん、こっちだ! 地下水脈の出口が見える!」
「うんッ!!」
ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく地下道を、一行はただひたすら光の射す方角へ駆け抜けた。
――バシャァァァンッ!!
眩しい太陽の光とともに、冷たい水飛沫をあげて地下水脈の出口から飛び出す一行。
直後、背後の坑道が大きな音を立てて完全に崩落し、大量の土砂で塞がれた。
「ハァ……ハァ……! た、助かったぁぁぁ……ッ!!」
ハーバートが草むらに大の字にひっくり返り、空を仰ぐ。見上げれば、青く澄み渡る西部の秋空。
ふと丘の上を見下ろすと、そこには何事もなかったかのように平和な姿を保っている「シルバークリークの街」があった。
「……守れたんだね。お父さんが守ろうとした街を……あたしたち、守れたんだ……!」
メアリーが膝をつき、街を見つめながら誇らしげに微笑む。
「ええ。トーマスもきっと、どこかでこの街が無事なのを見届けているはずよ」
アリスが濡れた髪をかき上げ、ポケットから手帳を取り出した。
「さて……これでシルバークリークの事件は解決。私の依頼主も自滅したわ。……ハーバート、これからの私の滞在費とピンカートンへの報告書、全てあなたに丸投げするからよろしく」
「なっ……!? なぜ私があなたの経費まで面倒を見なければならないのですかッ!!」
「文句があるなら裁判を起こせば? 弁護士さん」
鉄仮面のまま、どこか楽しそうに万年筆をカチッと鳴らすアリス。
そんな二人を見て、モネとベイルはクスクスと笑い合った。
「さあ、あなたのお父さんの残した足跡は……あの川を下った先、南の大都市へ続いているわ」
モネが遠く指差す。
「よし! 行こうみんな! 次こそ、絶対にお父さんに追いつくよッ!」
太陽に向かって元気に拳を突き上げるメアリー。
父トーマスの背中を追いかける旅は、新しい仲間アリスを加え、さらに賑やかに続いていくのだった――!




