父の背中
手紙を大事そうに胸に抱いたメアリーの横で、アリスが冷たい瞳を一層深く沈めた。
「……トーマスがこの街にいた『本当の理由』、そして私が追っていた依頼の全貌を話すわ」
アリスはポケットから一枚の地下構造図を取り出し、床に広げた。
「私を雇った悪徳採掘会社『シルバーカンパニー』の真の目的……それは、この地下最深部に眠る超高濃度の爆破性鉱石『赤硝石』の違法採掘よ。奴らはこれを裏社会の兵器商人へ極秘売却しようとしている」
「赤硝石だって……!? 冗談じゃない、あれは衝撃ひとつで山を吹き飛ばすような危険物だぞ!」
トニーが眉をひそめる。
「ええ。さらに最悪なのは、奴らが手っ取り早く掘り出すために、街の真下にある大地盤を『一斉爆破』しようとしていることよ。そんなことをすれば、赤硝石の連鎖誘爆で、上のシルバークリークの街ごと地下へ陥没……数千人の住民が全滅するわ」
「なっ……なんて恐ろしい奴らだ……!!」
ハーバートが怒りに震え上がり、眼鏡をかけ直す。
「トーマス・スペンサーはその計画を突き止め、たった一人で阻止しようとしていたのね。この密室で爆破回路の解読を行い……まさに今、最深部の『主発破装置』を停止させるために向かったのよ」
「……父さん……一人で、そんな危険なこと……」
メアリーはぎゅっと両拳を握りしめた。
父は自分を危険から遠ざけるためだけに逃げていたんじゃない。この街の人間全員の命と、大切な人の未来を守るために、たった一人で巨大な悪に立ち向かっていたのだ。
「父さんだけ危ない目に遭わせるわけにはいかない……! 父さんが爆破を止めるなら……その邪魔をする悪いやつらは、あたしたちがぜんぶ叩きのめす!!」
メアリーの瞳に、太陽のような力強い炎が宿る。
「 行こう、みんなッ!!」
「おうよ! 街を吹き飛ばすような下衆どもに、俺たちの弾丸を叩き込んでやるぜ!」
トニーが笑いながら二挺拳銃のハンマーを起こす。
「ふふ、父親思いのいい娘ね。……乗ったわ。私の服を煤けさせる悪党どもには、たっぷりツケを払ってもらいましょ」
モネが隠していた刀を取り出し、怪しく触れながら不敵に微笑んだ。
「僕の銃も、ベイルの調整のおかげで絶好調だよ。いくよ、メアリーちゃん!」
フランも怪我を感じさせない素早い手つきで銃を構えた。
「敵の銃もどんなからくりも、全部俺がバラバラ解体してやるよ!」
ベイルが指先を鳴らす。
「……ハーバート」
アリスが無表情のまま、ハーバートをじっと見つめた。
「な、なんですかアリス! 私は弁護士ですから、暴力は――」
「私の背中は、あなたが守りなさい。……昔みたいに」
「……ッ!! くっ、仕方ありませんね! 私の法的主張であなたを護ってみせますッ!」
アリスが満足そうに微笑む。
――ドカァァァンッ!!
地下最深部の巨大な採掘ホール。
そこには、発破レバーに取りつこうとするトーマスを挟み撃ちにしようと、数十人の私設軍隊と重武装の兵士たちが群がっていた!
「ハハハ! 逃げ場はないぞトーマス! 爆破スイッチを押させ――」
「――させるかよッ!!」
――ババァァンッ!!
頭上からの高らかな叫びとともに、メアリーの愛銃から放たれた正義の弾丸が、敵の隊長の足元を撃ち抜いた。
「な、なにッ!?」
「父さんには指一歩触れさせない!! あたしたちが相手よ!!」
天井の岩棚から颯爽と飛び降りるメアリーたち。
「野郎ども、構うな! 邪魔するガキどもごと蜂の巣にしろ――」
「言わせないわ」
――シュババババッ!!
アリスの超精密な連続射撃が敵の先頭集団の腕を撃ち抜き、トニーとフランの怒涛の連射が洞窟内に轟音を響かせる。
「ベイル、あの大型重火器を頼むわ!」
「へいッ! モネさん!!」
モネの日傘撃ちで体勢を崩した大型装甲兵へ、ベイルが疾風のように肉薄する。
――シャコンッ! パラパラパラッ!!
「なっ……ガトリング砲の固定ネジが……バネがッ!?」
一瞬ですり抜けたベイルの手により、巨大な機関砲がバラバラの鉄くずと化して床へ崩れ落ちた。
「へへっ、ネジがゆるゆるだぜ!」
「この違法兵器の所持および過失致死未遂の罪で、私が貴様らを即刻処罰しますッ!」
ハーバートもアリスの隣で絶叫しながら、必死の射撃で援護している。
メアリーたちの完璧な連携により、トーマスを追おうとしていた悪党どもは一網打尽に叩きのめされたのだった。
激しい銃撃戦が終わり、静けさが戻った地下最深部へ向かう。銃や火気に気をつけながら近づく一行が辿り着いた爆破装置の前。
そこにあった爆破用の起爆レバーは、見事な手際で完全に解体され、導線がすべて切断されていた。
「さすがだね……メアリーちゃんのお父さん……」
フランが感心したように呟く。
トーマスは追手をメアリーたちが食い止めている間に、見事に爆破を阻止し、街の陥没を防いでみせたのだ。
そして、解体された装置の横には、脱出用の地下水脈へと続く小さな舟の跡と、一通の置き手紙があった。
『――背中を守ってくれて感謝する。ちびっこ保安官と頼もしい仲間たちへ。
街は守られた。私は次の事件の芽を摘みに、南の街へ向かう。機会があればまたいつか――』
「……また、先に行っちゃった」
メアリーは手紙を抱きしめ、ちょっぴり悔しそうに、でも誇らしげに空を見上げた。
「待っててよ父さん……! 次こそ絶対に、追いついてみせるんだから!!」




