仲間たちと共に
そこへ、拘束を終えたフランがメアリーの弾がかすめた右肩を左手でぎゅっと押さえながら、小走りで駆け寄ってきた。
「メアリーちゃん!! 大丈夫!? ごめんね、勢い任せに思いっきり押し倒しちゃったから!! 頭打ったりしてない!? どこか痛いところはない!?」
さっきまでの冷酷な殺し屋の表情は影を潜め、いつもの甘く柔らかい顔で、メアリーの全身をあちこち心配そうに覗き込んでくる。
「う、うん……大丈夫……っ」
その温かさに触れ、メアリーはすっと正気を取り戻していった。同時に、自分の過ちと目の前の痛々しい傷痕が胸を刺す。
「ごめんね……フラン……あたしのせいで、肩から血が……っ」
「はは、これくらいかすり傷だよ! 大丈夫!」
フランは血の滲む肩を気にも留めず、メアリーの涙をそっと指で拭うと、太陽のようににっこりと笑った。
「メアリーちゃんのためなら、こんな傷なんて、ちっとも痛くないからさ!」
「相変わらず、とんでもねぇ無茶しやがる……」
トニーは呆れたように息を吐き出しながらも、どこか安心したように煙草の煙を燻らせた。その横でモネがふっと口元を緩める。
「本当ね。よくもまあ、こんな命知らずのバカに育ててくれたわ」
「俺もモネさんのためなら命捨てられますッ!!」
背後でベイルがすかさず胸を張り、モネに「あんたは黙ってなさい」と一蹴されている。
その光景を少し離れた場所で見つめていたハーバートは、かぶっていたハットの庇をぐっと押し下げ、悔しそうに唇を噛み締めていた。
法律という知識でメアリーを守ろうとした自分と、身を挺して彼女の心と命を救ったフラン。その絆の強さに、弁護士としての矜持と、一人の男としての嫉妬が入り混じった複雑な視線を送っているのだった。
重々しい足音とともに、書斎の扉が開いた。ハーバートが緊急手配した州警察と連邦監察官の手先たちが、銃を構えてなだれ込んでくる。彼らが目にしたのは、無数の違法拘束の証拠、荒れ果てた書斎、そして血を流して床に拘束された「連邦保安官アーサー・ギルバート」の姿だった。
「連邦保安官アーサー・ギルバート! 職権乱用、不法侵入、ならびに無拘束監禁の容疑で身柄を拘束する!」
監察官の手によって、頑丈な鉄の手枷がアーサーの首元と両手首にはめ直される。右手の中枢神経を撃ち抜かれ、二度と銃を握れなくなったアーサーは、うめき声一つ漏らさず、ただ静かに立ち上がった。
その瞳には、敗北のショックも反省の色もない。ただ、どこまでも冷たく、底なしの狂気だけが不気味に揺らめいている。
「行きなさい」
憲兵たちに促され、歩き出すアーサー。
そして、手枷の重い鉄の音を響かせながら、メアリーのすぐ横をすれ違う――その一瞬だった。
アーサーは足を止め、メアリーだけに聞こえる低く掠れた声で、静かに耳元へ囁いた。
「……そういえば、一つ言い忘れていたな」
「……ッ」
メアリーの身体が、緊張で強張る。
「その男――トーマス・スペンサーの遺体だがね」
アーサーの口角が、スーッと歪に釣り上がった。
「私が撃ち落とした後、吊り橋から濁流へと落ちてな。……いくら探させても、ついに遺体だけは確認できなかったのだよ。……ふふ、もし生きているとでも思いたいなら、探してみるといい」
「な……ッ!?」
「まあ、あの深さだ。魚の餌になったのが落ちだろうがな。……もし万が一見つけたら、私にも教えてくれよ」
嘲笑うような言葉を残し、アーサーは警察の手によって連行されていった。廊下の奥へと消えていく、カツン、カツンという靴底の音と、不気味な笑い声。
「……メアリーちゃん……?」
フランが心配そうに覗き込んでくる。トニーもモネも、言葉を失ったメアリーの顔を見つめていた。
遺体は見つからなかった。
殺されたと聞かされ、一時は絶望と殺意に狂った。だが――どこかで、父はまだ生きているかもしれない。
手首に残る、冷たい鉄の感触はもうない。メアリーは血のついた父のリボルバーをぎゅっと胸に抱きしめ、ゆっくりと空を見上げた。
破られた窓の隙間から、荒野の乾いた風が吹き抜け、メアリーの金髪を優しく揺らす。
「……行こう、みんな」
涙を拭い、振り返ったメアリーの瞳には、いつもの眩しく力強い「光」が戻っていた。
「あたし、探す。お父さんがどこかで生きてるなら……絶対に見つけ出すわ!」
「……ああ、つきあうぜ。どこまででもな」
トニーが口元に笑みを浮かべ、新しい煙草に火をつけた。フランも、肩の痛みを忘れたように、嬉しそうに何度も頷く。
不殺の誓いを取り戻した少女と、彼女を支える仲間たち。
哀しき因縁と「狂気のコレクション」を乗り越え、一行は父の足跡を辿る、新たなる広大な旅路へと力強く一歩を踏み出したのだった。




